花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

文字の大きさ
上 下
3 / 33

たった一人の友人

しおりを挟む
「ユニ、昨日の宿題やったか?一つだけ、どうしても分からない問題があって、悪いけど見せてもらえないか?」

 話しかけてきたのは、後ろの席のライナーです。振り向くと、私と同じ茶色の瞳を細めて笑みを浮かべていました。彼は子爵家の次男で私の唯一の友人なのです。あの時のお茶会で、婚約者様と一緒にいたライナー様かどうかはわかりませんが、貴族の世界は思ったよりも狭いので可能性は高いかと思われます。でも、こんな情けない話は、お互いしたくないと思うので、あえて私から話すことはないでしょう。

「昨日、婚約者の所に行く日だっただろう? どうだった?」

ライナーは、私からノートを受け取り、ペラペラめくりながら気のない様子で聞いてきました。

「どうって?別に・・・いつもと同じだけど?それより、なぜ私が伯爵家へ行く日を覚えているのよ!」

「いや、ははは、別に深い意味はないけどさ、いつも二人でどんな会話をしてるのか少しだけ興味があってな。」

そう言ったライナーは、ノートに視線を落としたまま、薄く笑っていました。特にこれといった表情の変化はありませんでしたので、本当に少しの興味しかないのでしょう。

「話の内容は、わからないわ。・・・だって、私、婚約者様の話を殆ど聞いてないんですもの。ライナー、正直言うとね、彼には申し訳ない話なんだけど、二人で会っている時の私は、いつも別のことを考えてるのよ。それで、ずっと考え事をしていて、はっと気付いたら相手に怒鳴られているの。それが終了の合図になっていて、怒られたら帰るのよ! ふふ、毎回よ?」

「ん?なに?何の話? なんでそうなる?いきなり帰るってなんだ?」

頭に?マークをたくさん浮かべたライナーは、私から詳しく話を聞きながらも 「なんだそれ!?」 と、笑っていましたが、こんな失礼なことが笑い話になってしまうのは、私とライナーの性格が悪いというわけではなく、私と婚約者の間に全く愛情がないことを彼が知っているからなのでした。

「ユニ、だけど、このままで本当に大丈夫なのか?」

「うーん・・・。辛くないわけではないけれど、まぁ、大丈夫よ!どうせ、こんなのもうすぐ終わるから。」

(この婚約の意味を、本当はあなただって知っているでしょう? ライナー。)

私の言葉に何も言わず、複雑そうな顔をしたライナーでしたが、丁度そのタイミングで授業が始まったので、それ以上、この話が続くことはありませんでした。



 そもそも、愛情がないどころか、私は婚約者様から嫌われているのです。だって廊下で会うたびに、すごく睨まれていますもの。ほら、今だって・・・。

(ああ、また居る。廊下に出る度に毎回毎回・・・。目は合うというのに一言も会話はせず・・・。気まずいわー・・・。そもそも睨みすぎっ!なんでしょう、あの虫でも見るような目・・・。はぁー・・・私、どうしてこんなに恨まれているのかしら。やっぱり作戦が上手くいってないから八つ当たり的なものなのかしら。)

「アレイドさまー!」

(ひっ!! 大変だわ、このままでは絡まれてしまう。早く逃げなくちゃ!!)

 婚約者様は伯爵家の嫡男で、成績も優秀です。しかも特別綺麗なお顔立ちをされていますので、女子生徒達からの人気は絶大です。そんな彼の傍には、いつも煌びやかなご令嬢達がねっとりと纏わりついているのです。
私が目の前に立った時、彼は得意の仏頂面しか見せませんが、それが他の女性の場合になると、それはそれはとろけるような甘いお顔で微笑まれるのです。(おえっ)
そのような甘美な顔を一度でも見てしまったなら、それはもう、あらゆる女性が一瞬で心を鷲掴みされてしまうのです。(羨ましい技ですわ。)
ですので、今もなお現在進行形で彼のファンは増え続けているようです。そして、そのファン一同が一斉に敵視するのが、名ばかりの婚約者ユニーナ・バーナーズ。

(そう!私だっ!!)

我が家が、へなちょこ男爵家なのも不満なのでしょうが、美貌の令嬢(姉)のへなちょこ妹って言うのもまた腹が立つのでしょうね。彼のファンは私の顔を見る度、一言二言、いえ、十言くらい暴言を吐かないと気が済まないようで、当の婚約者様本人がそれを見逃しているものですから、彼女たちの暴挙は今や留まることを知りません。

(本当は私だって被害者なのに・・・。だって、この人はお姉様と仲良くなる為に妹の私を利用しようとしているだけでしょう?お姉様が結婚してしまえば私との縁なんてあっという間に消えてなくなるのに。なんでこんなに、たくさんのご令嬢から文句を言われなきゃいけないのよ!そんなに羨ましいなら、こんな立場!どなたにでも差し上げますのに! そして、代わりに貴女達の婚約者を私に渡しなさいよ!!いえ、本当に交換してくださいな! はぁー、全く迷惑なことだわ!!)

意味のない責め苦を受けながら、そんな迷惑な気持ちを懸命に顔に出して婚約者様を睨みつけても、もちろん毎回婚約者様は一言も発しません。それどころか、睨みつけている私をさらに上から睨みつけ、あまりに睨みすぎてるせいか、だいたいいつも目が充血していて怖いです・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

メカ喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

忘れられた薔薇が咲くとき

ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。 だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。 これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

処理中です...