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たった一人の友人
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「ユニ、昨日の宿題やったか?一つだけ、どうしても分からない問題があって、悪いけど見せてもらえないか?」
話しかけてきたのは、後ろの席のライナーです。振り向くと、私と同じ茶色の瞳を細めて笑みを浮かべていました。彼は子爵家の次男で私の唯一の友人なのです。あの時のお茶会で、婚約者様と一緒にいたライナー様かどうかはわかりませんが、貴族の世界は思ったよりも狭いので可能性は高いかと思われます。でも、こんな情けない話は、お互いしたくないと思うので、あえて私から話すことはないでしょう。
「昨日、婚約者の所に行く日だっただろう? どうだった?」
ライナーは、私からノートを受け取り、ペラペラめくりながら気のない様子で聞いてきました。
「どうって?別に・・・いつもと同じだけど?それより、なぜ私が伯爵家へ行く日を覚えているのよ!」
「いや、ははは、別に深い意味はないけどさ、いつも二人でどんな会話をしてるのか少しだけ興味があってな。」
そう言ったライナーは、ノートに視線を落としたまま、薄く笑っていました。特にこれといった表情の変化はありませんでしたので、本当に少しの興味しかないのでしょう。
「話の内容は、わからないわ。・・・だって、私、婚約者様の話を殆ど聞いてないんですもの。ライナー、正直言うとね、彼には申し訳ない話なんだけど、二人で会っている時の私は、いつも別のことを考えてるのよ。それで、ずっと考え事をしていて、はっと気付いたら相手に怒鳴られているの。それが終了の合図になっていて、怒られたら帰るのよ! ふふ、毎回よ?」
「ん?なに?何の話? なんでそうなる?いきなり帰るってなんだ?」
頭に?マークをたくさん浮かべたライナーは、私から詳しく話を聞きながらも 「なんだそれ!?」 と、笑っていましたが、こんな失礼なことが笑い話になってしまうのは、私とライナーの性格が悪いというわけではなく、私と婚約者の間に全く愛情がないことを彼が知っているからなのでした。
「ユニ、だけど、このままで本当に大丈夫なのか?」
「うーん・・・。辛くないわけではないけれど、まぁ、大丈夫よ!どうせ、こんなのもうすぐ終わるから。」
(この婚約の意味を、本当はあなただって知っているでしょう? ライナー。)
私の言葉に何も言わず、複雑そうな顔をしたライナーでしたが、丁度そのタイミングで授業が始まったので、それ以上、この話が続くことはありませんでした。
そもそも、愛情がないどころか、私は婚約者様から嫌われているのです。だって廊下で会うたびに、すごく睨まれていますもの。ほら、今だって・・・。
(ああ、また居る。廊下に出る度に毎回毎回・・・。目は合うというのに一言も会話はせず・・・。気まずいわー・・・。そもそも睨みすぎっ!なんでしょう、あの虫でも見るような目・・・。はぁー・・・私、どうしてこんなに恨まれているのかしら。やっぱり作戦が上手くいってないから八つ当たり的なものなのかしら。)
「アレイドさまー!」
(ひっ!! 大変だわ、このままでは絡まれてしまう。早く逃げなくちゃ!!)
婚約者様は伯爵家の嫡男で、成績も優秀です。しかも特別綺麗なお顔立ちをされていますので、女子生徒達からの人気は絶大です。そんな彼の傍には、いつも煌びやかなご令嬢達がねっとりと纏わりついているのです。
私が目の前に立った時、彼は得意の仏頂面しか見せませんが、それが他の女性の場合になると、それはそれはとろけるような甘いお顔で微笑まれるのです。(おえっ)
そのような甘美な顔を一度でも見てしまったなら、それはもう、あらゆる女性が一瞬で心を鷲掴みされてしまうのです。(羨ましい技ですわ。)
ですので、今もなお現在進行形で彼のファンは増え続けているようです。そして、そのファン一同が一斉に敵視するのが、名ばかりの婚約者ユニーナ・バーナーズ。
(そう!私だっ!!)
我が家が、へなちょこ男爵家なのも不満なのでしょうが、美貌の令嬢(姉)のへなちょこ妹って言うのもまた腹が立つのでしょうね。彼のファンは私の顔を見る度、一言二言、いえ、十言くらい暴言を吐かないと気が済まないようで、当の婚約者様本人がそれを見逃しているものですから、彼女たちの暴挙は今や留まることを知りません。
(本当は私だって被害者なのに・・・。だって、この人はお姉様と仲良くなる為に妹の私を利用しようとしているだけでしょう?お姉様が結婚してしまえば私との縁なんてあっという間に消えてなくなるのに。なんでこんなに、たくさんのご令嬢から文句を言われなきゃいけないのよ!そんなに羨ましいなら、こんな立場!どなたにでも差し上げますのに! そして、代わりに貴女達の婚約者を私に渡しなさいよ!!いえ、本当に交換してくださいな! はぁー、全く迷惑なことだわ!!)
意味のない責め苦を受けながら、そんな迷惑な気持ちを懸命に顔に出して婚約者様を睨みつけても、もちろん毎回婚約者様は一言も発しません。それどころか、睨みつけている私をさらに上から睨みつけ、あまりに睨みすぎてるせいか、だいたいいつも目が充血していて怖いです・・・。
話しかけてきたのは、後ろの席のライナーです。振り向くと、私と同じ茶色の瞳を細めて笑みを浮かべていました。彼は子爵家の次男で私の唯一の友人なのです。あの時のお茶会で、婚約者様と一緒にいたライナー様かどうかはわかりませんが、貴族の世界は思ったよりも狭いので可能性は高いかと思われます。でも、こんな情けない話は、お互いしたくないと思うので、あえて私から話すことはないでしょう。
「昨日、婚約者の所に行く日だっただろう? どうだった?」
ライナーは、私からノートを受け取り、ペラペラめくりながら気のない様子で聞いてきました。
「どうって?別に・・・いつもと同じだけど?それより、なぜ私が伯爵家へ行く日を覚えているのよ!」
「いや、ははは、別に深い意味はないけどさ、いつも二人でどんな会話をしてるのか少しだけ興味があってな。」
そう言ったライナーは、ノートに視線を落としたまま、薄く笑っていました。特にこれといった表情の変化はありませんでしたので、本当に少しの興味しかないのでしょう。
「話の内容は、わからないわ。・・・だって、私、婚約者様の話を殆ど聞いてないんですもの。ライナー、正直言うとね、彼には申し訳ない話なんだけど、二人で会っている時の私は、いつも別のことを考えてるのよ。それで、ずっと考え事をしていて、はっと気付いたら相手に怒鳴られているの。それが終了の合図になっていて、怒られたら帰るのよ! ふふ、毎回よ?」
「ん?なに?何の話? なんでそうなる?いきなり帰るってなんだ?」
頭に?マークをたくさん浮かべたライナーは、私から詳しく話を聞きながらも 「なんだそれ!?」 と、笑っていましたが、こんな失礼なことが笑い話になってしまうのは、私とライナーの性格が悪いというわけではなく、私と婚約者の間に全く愛情がないことを彼が知っているからなのでした。
「ユニ、だけど、このままで本当に大丈夫なのか?」
「うーん・・・。辛くないわけではないけれど、まぁ、大丈夫よ!どうせ、こんなのもうすぐ終わるから。」
(この婚約の意味を、本当はあなただって知っているでしょう? ライナー。)
私の言葉に何も言わず、複雑そうな顔をしたライナーでしたが、丁度そのタイミングで授業が始まったので、それ以上、この話が続くことはありませんでした。
そもそも、愛情がないどころか、私は婚約者様から嫌われているのです。だって廊下で会うたびに、すごく睨まれていますもの。ほら、今だって・・・。
(ああ、また居る。廊下に出る度に毎回毎回・・・。目は合うというのに一言も会話はせず・・・。気まずいわー・・・。そもそも睨みすぎっ!なんでしょう、あの虫でも見るような目・・・。はぁー・・・私、どうしてこんなに恨まれているのかしら。やっぱり作戦が上手くいってないから八つ当たり的なものなのかしら。)
「アレイドさまー!」
(ひっ!! 大変だわ、このままでは絡まれてしまう。早く逃げなくちゃ!!)
婚約者様は伯爵家の嫡男で、成績も優秀です。しかも特別綺麗なお顔立ちをされていますので、女子生徒達からの人気は絶大です。そんな彼の傍には、いつも煌びやかなご令嬢達がねっとりと纏わりついているのです。
私が目の前に立った時、彼は得意の仏頂面しか見せませんが、それが他の女性の場合になると、それはそれはとろけるような甘いお顔で微笑まれるのです。(おえっ)
そのような甘美な顔を一度でも見てしまったなら、それはもう、あらゆる女性が一瞬で心を鷲掴みされてしまうのです。(羨ましい技ですわ。)
ですので、今もなお現在進行形で彼のファンは増え続けているようです。そして、そのファン一同が一斉に敵視するのが、名ばかりの婚約者ユニーナ・バーナーズ。
(そう!私だっ!!)
我が家が、へなちょこ男爵家なのも不満なのでしょうが、美貌の令嬢(姉)のへなちょこ妹って言うのもまた腹が立つのでしょうね。彼のファンは私の顔を見る度、一言二言、いえ、十言くらい暴言を吐かないと気が済まないようで、当の婚約者様本人がそれを見逃しているものですから、彼女たちの暴挙は今や留まることを知りません。
(本当は私だって被害者なのに・・・。だって、この人はお姉様と仲良くなる為に妹の私を利用しようとしているだけでしょう?お姉様が結婚してしまえば私との縁なんてあっという間に消えてなくなるのに。なんでこんなに、たくさんのご令嬢から文句を言われなきゃいけないのよ!そんなに羨ましいなら、こんな立場!どなたにでも差し上げますのに! そして、代わりに貴女達の婚約者を私に渡しなさいよ!!いえ、本当に交換してくださいな! はぁー、全く迷惑なことだわ!!)
意味のない責め苦を受けながら、そんな迷惑な気持ちを懸命に顔に出して婚約者様を睨みつけても、もちろん毎回婚約者様は一言も発しません。それどころか、睨みつけている私をさらに上から睨みつけ、あまりに睨みすぎてるせいか、だいたいいつも目が充血していて怖いです・・・。
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