花言葉は「私のものになって」

岬 空弥

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つまらない二人のお茶会

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(はぁー・・・長いわ・・・。早く帰りたい。)

「・・・・・・・・。」

「ユニーナ!?」

(帰ったら、昨日の小説の続きを読んで・・・。そうだわ、お母様が焼いたクッキーがあったわね。そうね、ソファーの上で、クッキーと一緒に・・・ふふっ。)

「聞いているのか!?」

(ふふっ、ロザリーナとアルフォンスの話の続きが気になるわ・・・。あれって、アルフォンスが無口すぎるから、いらぬ誤解を招くのよ。無口な男性は素敵だけど、やっぱり言ってほしい言葉って絶対あると思うの。私なら愛情表現はちゃんとしてほしいものね。 はぁー・・・それにしてもまだ終わらないのかしら・・・時間の無駄だわ・・・。 あっ! そう言えば昨日の宿題!)

「どこ見てるんだ!? ユニーナ!! おい!!」

「えっ!?」

 あまりの大きな声に驚いた私が、はっと我に返り、急いで目の前の男性を見ると、綺麗な顔をこれでもかと歪めた婚約者様が、こちらを睨みつけて怒っていました。彼は、カドワーズ伯爵家の嫡男、アレイド様。

そう、伯爵家のおぼっちゃまが、緑のガラス玉のような目を吊り上げて何か吠えていらっしゃるのです。

(いつものことながら、騒々しい・・・。)

うふふ、ですが本心はもちろん、口にも顔にも出したりしません。ここでの正解は、微笑みを絶やさず、お淑やかに。

「どうされましたか?」

ほらね? そうすれば、私への怒りで頭が沸騰されることでしょう。 次に湯気を出して、捨て台詞を吐くのです。

「もう、いい! 話は終わりだ!!」

ふふっ、さーってと、不毛な時間はこれでおしまいです。簡単なことです。こうして怒らせてしまえば、私の勝ちなのです。婚約者様のお話を実は何一つ聞いてなかったこともお咎めなしになるのですから。 やれやれ・・・今回もつまらないお茶会は終了ですわ。

「そうですか?それでは、本日もお招きいただきありがとうございました。わたくしは、これにて失礼いたします。ごきげんよう。」

そう早口で告げた後は、さっと席を立ち、呼び止められる声に振り返ることもなく足早に玄関に向かいます。 エスコート? いえいえ、結構です。そんなもの、迷惑ですから。

 廊下で先ほどお茶を入れてくれたメイドとすれ違います。もちろん声をかけます。

「今日のお茶も、とても美味しかったわ。でも、少し変わった味がしたんだけど・・・、あれは他国のお茶かしら?」

こちらには幼い頃から頻繁にお邪魔していますからね、伯爵家の使用人とは顔なじみもいいところです。眉間に皺をよせて、ただ睨みつけてくる婚約者様などより、ずっと楽しくお話できるというものです。私にとって伯爵家で働く人達は、もはや家族と言ってもいいくらい親しい間柄ですから、正直、あの方と会っている時間以外は、私、幸せなのですよ。

「さすがユニーナ様。よくお気付きになりましたね。先日、旦那様と奥様で隣国に行かれたんですよ。その時のお土産なのですが、奥様がユニーナ様にも是非にとおっしゃいまして。 うふふ、気に入っていただけたと奥様にお伝えしておきますね。」

「まあ、そうなのね。嬉しいわ。今日のお茶もお菓子も、とても美味しかったわ。いつもありがとうございますと、伝えてくれると嬉しいわ。」

私は、メイドとの心温まる会話に喜びを感じながら、にっこり微笑み、別れを告げました。玄関を出て、外の眩しい光に目を細めていると、

「ワン、ワン!!」

甲高い鳴き声と共に勢いよく飛び掛かってくるのは、伯爵家の愛犬ベッキーです。可愛らしい小型犬の彼女は、伯爵家の庭師と一緒にお散歩中なのでしょう。

「毎回毎回すみません、ユニーナ様!!」

ほら、庭師のトーマスが走ってきた。

「まあ、ベッキー!会えて良かったわ。今日も元気いっぱいね!」

「あーあー、ユニーナ様、また洋服が汚れてしまいましたよ。」

「やあね、トーマスったら。こんなの、いつものことじゃない。」

そう、いつものことなのです。なのに毎回トーマスは申し訳なさそうに謝るので、私達は毎回同じ会話を繰り返して笑っているのでした。
ベッキーを挟んで、これまたいつものようにトーマスと少しの会話を楽しんで、ようやく私は馬車に乗って帰宅します。よく考えたら、婚約者様との会話時間より、伯爵家のメイドや使用人との会話時間の方が長いような気もしますが、婚約者様に怒られたことによって、曇ってしまった嫌な気持ちを浄化するには、この時間はとても大切なのです。
もし、この時間を奪われてしまったなら、この邸にはもう、足を運びたくないとすら思っていますもの。
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