優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

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人間らしさ

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(ロステルはどうしているだろう・・・)

自分が世間から消えれば、彼も責任を感じることなく離婚を進めることができるだろう。
職場やら親兄弟、親戚に対して、無責任な妻の尻拭いをしているうちに彼の罪悪感も消えるはずだ。

あの女性騎士と再婚して今頃は子供にも恵まれているのだろうか・・・。夫婦そろって騎士だから、もしかしたら、今も第一騎士団で協力し合って頑張っているのかもしれない。

当時の記憶がジョナスの心を蝕み、嫉妬に燃える日もあった。悔しくて妬み、辛くて泣いた日だって少なくない。
時には心穏やかに二人の幸せを願い、自分の心の美しさに心酔したりもした・・・。

しかし、さすがに二年も経てば全ては過去のことになってしまった。

(ロステルは元気かな・・・)

面倒くさがりのジョナスだが決して頭が悪い訳ではない。
だから心のどこかで思っていたりする。

ロステルは、本当は浮気なんてしていなかったのかもしれない・・・と。

冷静になって当時を思い出せば、彼の過ちがたった一度だけだったことに気付く。それも頭を打って意識が朦朧もうろうとした状態での話だ。
目を覚ましてすぐの行動にそこまでの確信を持ってよいものなのだろうか・・・。

もしかしたら・・・。

そんなことを考えたり・・・考えなかったり。 まあ、今さらそんなことを考えてもどうしようもない。
面倒くさがりのジョナスの思考は、やはり適当で終わってしまう。



 言葉の通じない国では、毎日生きるのに必死で過去に縛られている暇などない。
二年も想い続ければ後悔のネタも尽きるし、自分の記憶からは徐々に小さな事柄から消えていってしまう。

たくさん泣いて、たくさん悪態をついて、たくさん後悔をして、たくさん謝った。

何事も深く考えるのは苦手だ。そこまで執念深いタイプでもない。なんなら水魔法より得意なことは、忘れることかもしれない。

申し訳ないが、最近では朝起きてから夜のこの時間になるまで思い出すこともない。なんなら三日に一度くらいは、何も考えないで寝てしまうこともある。

この過去を振り返る貴重な時間に、毎回涙を流して許しを請うのかと言えば・・・それもまた違う。

だから無責任大臣は、一つも悪びれずに厚かましく祈ることができるのだ。


「どうか彼らが幸せでありますように」



純粋な彼女に悪気などない。
彼女には彼女なりの良いところがたくさんあるのだろう。
ある意味人間らしいジョナスだからこそ、二人の男性を心から愛し、彼らからもとことん愛されたのかもしれない。


ただ、こんな能天気なジョナスに恋焦がれ、人生を棒に振ったヤソックのことを気の毒に思ってしまう人がいても・・・、
それもきっと間違いではないと思う。



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