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どうか忘れないでいて
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「このまま、何もかも忘れてしまえばいいのに・・・」
眠るジョナスの手を握り、ヤソックがぽつりと呟いた。
屋敷に戻るなり母親から話を聞いたヤソックは、眠り続けるジョナスの側で彼女の寝顔をじっと見ていた。
「記憶が戻るのは、君達が離婚した後の予定だったんだけどね。あいつの執着心の強さを見くびってしまったね。 本当に・・・上手くいかないものだね」
ヤソックは、繋いでいない方の手でふんわりとジョナスの頬に触れた。
「たくさん辛い思いをさせてしまったね。夫の他に恋人がいるなんて、真っ直ぐな君の性格では受け入れるだけでも大変なことだったろうね」
頬にあった手がスルリと唇に滑り落ちる。
「恋人だなんて嘘を吐いて・・・ごめんね。 でもジョナス、これだけは信じて」
優しく触れていた指がジョナスの唇から離れると、ヤソックはそこに自分の唇を重ねた。
「愛しているんだ」
ジョナスを起こさぬように、優しくついばむようなキスを繰り返す。 そして唇を離すごとに彼女に言葉を贈った。
「初めて会った学生の時から、ずっと好きだったんだ。俺はずっと君を見ていた」
「君が洗濯メイドとして働いている間もずっと、本当に呆れるほど君が大好きで・・・君が俺の全てだった。・・・君しか好きになれなかったんだ」
「だから君が結婚するって聞いた時、俺の人生は終わったと思ったよ。苦しくて辛くて、もう何もかもがどうでもよくなったんだ」
しつこいキスが苦しかったのか、ジョナスの口が少し開くと、ヤソックはそこにそっと舌を差し入れた。そのまま彼女の呼吸もろとも奪いつくしてしまいたいところだが、今はまだ眠らせてあげたい。
「だけど、俺の目はどうしても君を捜してしまうんだ。君が結婚しても、諦めることなんてできなかったんだよ」
「ジョナス、愛しているよ。 楽しそうに水を操る君が、いつだって俺には輝いて見えていた」
「ジョナス、大好きだよ。 腹が立つほど人の気持ちに無関心なくせに、きちんと気持ちを伝えれば、君はどこまでも寄り添ってくれる」
「・・・ジョナス、俺達が夫婦になれば、誰よりも幸せな家庭を築くことができたと思わない?」
眉間に皺を寄せ、ジョナスの瞼がピクピクと痙攣している。ヤソックは優しく微笑むと瞼に優しくキスをした。
「二人の子供だったら、きっと凄い魔力の持ち主になるだろうね。もしかしたら風と水、両方の使い手かもしれない。君は厳しく教育しながらも愛情をたっぷりと注ぐ。ははっ、俺が嫉妬するくらいね。 けど・・・心配はいらないよ。だって君との子供だもの、俺だってとことん可愛がるさ。君との子供だもの、可愛いに決まってる」
愛おしむようにヤソックはジョナスの頬を両手で包み込んだ。
「そして、二人で一緒に歳を取るんだよ。こうやって考えると、歳を重ねるというのも悪くないかもしれないね。 二人でのんびり過ごす老後。・・・いいね、楽しみだ」
「そうだよ。俺達にはちゃんと幸せになれる道があったんだ。俺達の相性がいいのは魔法だけじゃなかったんだよ」
「あいつがいなければ・・・ ね、ジョナス」
「俺にもっと勇気があったなら・・・ね」
「愛してるよ、ジョナス。俺は、君をずっと見て来たんだ」
「だから・・・君のことは・・・どうしたってわかってしまうんだよ」
「愛してるよ、ジョナス。 だから、どうか・・・どうか、俺を忘れないでいて」
眠るジョナスに覆いかぶさるようにヤソックは優しく彼女を抱きしめた。
目を瞑るジョナスの瞳から流れる一筋の涙に、気付くことのないまま。
眠るジョナスの手を握り、ヤソックがぽつりと呟いた。
屋敷に戻るなり母親から話を聞いたヤソックは、眠り続けるジョナスの側で彼女の寝顔をじっと見ていた。
「記憶が戻るのは、君達が離婚した後の予定だったんだけどね。あいつの執着心の強さを見くびってしまったね。 本当に・・・上手くいかないものだね」
ヤソックは、繋いでいない方の手でふんわりとジョナスの頬に触れた。
「たくさん辛い思いをさせてしまったね。夫の他に恋人がいるなんて、真っ直ぐな君の性格では受け入れるだけでも大変なことだったろうね」
頬にあった手がスルリと唇に滑り落ちる。
「恋人だなんて嘘を吐いて・・・ごめんね。 でもジョナス、これだけは信じて」
優しく触れていた指がジョナスの唇から離れると、ヤソックはそこに自分の唇を重ねた。
「愛しているんだ」
ジョナスを起こさぬように、優しくついばむようなキスを繰り返す。 そして唇を離すごとに彼女に言葉を贈った。
「初めて会った学生の時から、ずっと好きだったんだ。俺はずっと君を見ていた」
「君が洗濯メイドとして働いている間もずっと、本当に呆れるほど君が大好きで・・・君が俺の全てだった。・・・君しか好きになれなかったんだ」
「だから君が結婚するって聞いた時、俺の人生は終わったと思ったよ。苦しくて辛くて、もう何もかもがどうでもよくなったんだ」
しつこいキスが苦しかったのか、ジョナスの口が少し開くと、ヤソックはそこにそっと舌を差し入れた。そのまま彼女の呼吸もろとも奪いつくしてしまいたいところだが、今はまだ眠らせてあげたい。
「だけど、俺の目はどうしても君を捜してしまうんだ。君が結婚しても、諦めることなんてできなかったんだよ」
「ジョナス、愛しているよ。 楽しそうに水を操る君が、いつだって俺には輝いて見えていた」
「ジョナス、大好きだよ。 腹が立つほど人の気持ちに無関心なくせに、きちんと気持ちを伝えれば、君はどこまでも寄り添ってくれる」
「・・・ジョナス、俺達が夫婦になれば、誰よりも幸せな家庭を築くことができたと思わない?」
眉間に皺を寄せ、ジョナスの瞼がピクピクと痙攣している。ヤソックは優しく微笑むと瞼に優しくキスをした。
「二人の子供だったら、きっと凄い魔力の持ち主になるだろうね。もしかしたら風と水、両方の使い手かもしれない。君は厳しく教育しながらも愛情をたっぷりと注ぐ。ははっ、俺が嫉妬するくらいね。 けど・・・心配はいらないよ。だって君との子供だもの、俺だってとことん可愛がるさ。君との子供だもの、可愛いに決まってる」
愛おしむようにヤソックはジョナスの頬を両手で包み込んだ。
「そして、二人で一緒に歳を取るんだよ。こうやって考えると、歳を重ねるというのも悪くないかもしれないね。 二人でのんびり過ごす老後。・・・いいね、楽しみだ」
「そうだよ。俺達にはちゃんと幸せになれる道があったんだ。俺達の相性がいいのは魔法だけじゃなかったんだよ」
「あいつがいなければ・・・ ね、ジョナス」
「俺にもっと勇気があったなら・・・ね」
「愛してるよ、ジョナス。俺は、君をずっと見て来たんだ」
「だから・・・君のことは・・・どうしたってわかってしまうんだよ」
「愛してるよ、ジョナス。 だから、どうか・・・どうか、俺を忘れないでいて」
眠るジョナスに覆いかぶさるようにヤソックは優しく彼女を抱きしめた。
目を瞑るジョナスの瞳から流れる一筋の涙に、気付くことのないまま。
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