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離婚はしない
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「ジョナスの代わりにディルクが第二に異動になったぞ」
魔法で手のひらに小さな氷を二つ出したスカイは、一つを自分の口に放り込むと、もう一つをロステルの顔目掛けて投げつけてきた。
片手で難なく掴んだロステルが氷を口に入れると、それまでのスカイの仏頂面が溜息交じりの呆れ顔に変わった。
「また痩せたんじゃないのか?酒ばかり飲んでないでちゃんと飯も食えって言ってるだろ」
「・・・・・」
ジョナスとの仲を心配するスカイは、最近ロステルが通う酒場に現れることが多くなった。
会話の成立しない男からジョナスの近況を聞き出すのは大変なことだったが、目に見えてやつれていくロステルを前に、放っておくことも出来ずにいた。
ロステルはといえば、自分とは違いよく回る男の口を鬱陶しく思いながらも心の中では彼の存在に感謝していた。
『俺の青春の一ページには常にジョナスがいるんだ!』
などと周囲の失笑を買うだけあって、スカイの単純で浅はかな言動は、どこかジョナスと似通ったところがあった。
『ジョナスが水風船をぶつけた相手が生徒会長でなぁ・・・あれはやばかった。その場の全員が蜘蛛の子を散らすように逃げたよ。公爵家の息子の頭にだぞ?・・・今考えても寒気がする』
スカイは酒に酔うと必ず学生時代のジョナスの話をした。
そんな時ロステルは、元気いっぱいに水魔法を楽しむジョナスを想像しながら静かに話を聞いていた。
そんなジョナスの過去を知るスカイを羨ましく思った。
学生時代、もしかしたらスカイはジョナスのことを好きだったのかもしれない。そう考えると、様々な気持ちが溢れてきてしまい多少落ち着かなくもあるが、スカイの話に出て来るジョナスを想うと心が軽くなり、酒のせいもあってか先の見えない現実から解放される気がした。
「明日、ヤソックが復帰するぞ」
(あいつが相手じゃ、そう簡単に話は進まないだろうがな・・・)
ヤソックの気持ちに学生の頃から気づいていたスカイは、ガリっと音を立てて氷をかみ砕いた。
「・・・・」
ロステルが言葉を返すことはなかったが、その鋭い瞳には強い闘争心が現れていた。
次の日、第一騎士団の詰所では書類を差し出すヤソックとロステルが無言で睨み合っていた。
「さっさと署名してくれないかな」
ヤソックが苛立った口調で差し出す書類には、もう何度も目にしている離婚届の文字と既に記入済みのジョナスの署名。
「離婚はしない」
いくら睨み続けても表情一つ変わらないロステルを前に、ヤソックの苛立ちは増す。
「これがジョナスの直筆だって夫の君なら分かるよね?彼女は離婚したいと言っている」
「ジョナスは記憶を失っていると聞いた。これは彼女の本当の意思ではない」
「はっ、・・・目の前で浮気した奴が何言ってんだよ」
「浮気などしていない」
「この目で見てんだけど。ジョナスを泣かしておいて勝手なこと言わないでもらいたいね。彼女の記憶があろうがなかろうが、お前が不貞を働いたあの日の夜に離婚は決まったことなんだよ!」
話しの通じないロステルにヤソックの言葉が荒れ始めた。
魔法で手のひらに小さな氷を二つ出したスカイは、一つを自分の口に放り込むと、もう一つをロステルの顔目掛けて投げつけてきた。
片手で難なく掴んだロステルが氷を口に入れると、それまでのスカイの仏頂面が溜息交じりの呆れ顔に変わった。
「また痩せたんじゃないのか?酒ばかり飲んでないでちゃんと飯も食えって言ってるだろ」
「・・・・・」
ジョナスとの仲を心配するスカイは、最近ロステルが通う酒場に現れることが多くなった。
会話の成立しない男からジョナスの近況を聞き出すのは大変なことだったが、目に見えてやつれていくロステルを前に、放っておくことも出来ずにいた。
ロステルはといえば、自分とは違いよく回る男の口を鬱陶しく思いながらも心の中では彼の存在に感謝していた。
『俺の青春の一ページには常にジョナスがいるんだ!』
などと周囲の失笑を買うだけあって、スカイの単純で浅はかな言動は、どこかジョナスと似通ったところがあった。
『ジョナスが水風船をぶつけた相手が生徒会長でなぁ・・・あれはやばかった。その場の全員が蜘蛛の子を散らすように逃げたよ。公爵家の息子の頭にだぞ?・・・今考えても寒気がする』
スカイは酒に酔うと必ず学生時代のジョナスの話をした。
そんな時ロステルは、元気いっぱいに水魔法を楽しむジョナスを想像しながら静かに話を聞いていた。
そんなジョナスの過去を知るスカイを羨ましく思った。
学生時代、もしかしたらスカイはジョナスのことを好きだったのかもしれない。そう考えると、様々な気持ちが溢れてきてしまい多少落ち着かなくもあるが、スカイの話に出て来るジョナスを想うと心が軽くなり、酒のせいもあってか先の見えない現実から解放される気がした。
「明日、ヤソックが復帰するぞ」
(あいつが相手じゃ、そう簡単に話は進まないだろうがな・・・)
ヤソックの気持ちに学生の頃から気づいていたスカイは、ガリっと音を立てて氷をかみ砕いた。
「・・・・」
ロステルが言葉を返すことはなかったが、その鋭い瞳には強い闘争心が現れていた。
次の日、第一騎士団の詰所では書類を差し出すヤソックとロステルが無言で睨み合っていた。
「さっさと署名してくれないかな」
ヤソックが苛立った口調で差し出す書類には、もう何度も目にしている離婚届の文字と既に記入済みのジョナスの署名。
「離婚はしない」
いくら睨み続けても表情一つ変わらないロステルを前に、ヤソックの苛立ちは増す。
「これがジョナスの直筆だって夫の君なら分かるよね?彼女は離婚したいと言っている」
「ジョナスは記憶を失っていると聞いた。これは彼女の本当の意思ではない」
「はっ、・・・目の前で浮気した奴が何言ってんだよ」
「浮気などしていない」
「この目で見てんだけど。ジョナスを泣かしておいて勝手なこと言わないでもらいたいね。彼女の記憶があろうがなかろうが、お前が不貞を働いたあの日の夜に離婚は決まったことなんだよ!」
話しの通じないロステルにヤソックの言葉が荒れ始めた。
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