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離婚して実家に帰ります
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「ずっとずっと・・・君が好きだった」
「そうだったのね・・・。もしかして、学生の間も少しは恋人らしい関係にあったとか?」
その言葉に、ヤソックは下を向いたまま首を横に振る。
「あの特別授業を最後に、その後一度も会話はできなかったから」
「は!?・・・・いちども?」
驚きで声を詰まらせるジョナスの様子を窺うようにヤソックはこっそりと見上げた。
(え!?特別授業以来、一度も会話なしでずっと好きだったってこと? なんで!?)
きっとジョナスの顔にはそんな疑問が浮かんでいるのだろう。そんな顔をしている。
ジョナスには意味が分からなかった。
そんなに好意を持ってくれていたのなら、なぜ何年も、ただひたすらに心に秘めていたのだろう。
学園環境のせいなのか、家柄の問題なのか・・・もちろん彼なりに理由はあったのだろうが、その間に何も知らない自分は結婚までしているのだ。
それでも諦めきれないのであれば、なぜにもっと早く行動に移さなかったのだろうか・・・。
(だけど、今、この状態で恋人と言われても・・・やっぱりなにか違うわよね。どちらかと言えばこれって駄目なことだと思うし・・・)
「ええと・・・それで私達は、恋人一日目で意識不明ってこと?」
「いや・・・二日目」
「あのぉー・・・それって不倫よね?」
「ちがっ! そんな誤解されるようなことは何もしてないし、君はあいつにあんな酷いことをされて、たくさん傷付いて泣いていたし、それに―――」
「ああ、そっか、わかった・・・私は離婚するつもりだったのね? そうじゃないと、いくらあなたが弱みに付け込んだところで私が首を縦に振るはずなんてないものね。もう修復不可能だったんでしょう?」
「・・・・・」
少しの沈黙の後、ヤソックはジョナスの瞳を真っすぐに見つめた。
「君の夫の浮気は、ずっと噂になっていたんだ。騎士団でも有名な話で、当然君も知っていた。君達夫婦のことだから詳しくは知らないけれど、それでもあの日までは表面上、上手くやっているように見えていた」
未だ理解できない部分は多々あるが、結局こういうことだろう。
世間で噂になるほど浮気性の夫に自分は気づかない振りをして夫婦生活を続けていた。
けれども、ついに夫の不貞現場を自分で目撃してしまい心が折れた。
落ち込んで泣いている自分を慰めてくれたのが同僚のヤソックであり、親切と思って甘えてみたら、それは厚意ではなく好意だった・・・。
その後は大型の魔獣と戦って意識を失う。
・・・で?
「私は魔法を失い、夫とはそれ以来話もしていない。にも拘わらず既に恋人はいる?」
「うん・・・」
なぜか申し訳なさそうに俯くヤソックを見下ろしながらジョナスは思った。
(なんじゃそりゃ!)
情報量が多すぎる。自分は本当にこんなに大変な状況の中にいたのだろうか。けれど、この信じられない話によって数々の疑問が腑に落ちたことも事実だった。
夫婦だというのに一度も見舞いに訪れぬ夫。
自分は恋人と言いながら全く女性慣れしていないヤソック。
長すぎる期間、無駄に愛情を拗らせてしまった彼が、なんとしてでもジョナスを屋敷に留めようと必死な姿。
そして彼が、これまでジョナスの夫に関して一切口を開かなかった理由も。
全てが納得のいくものになってしまった。
・・・さて、
(じゃあ、まずは何から手をつけるべきか・・・)
とりあえず婚約者どころか既婚者である自分がいつまでもヤソックに甘えている訳にはいかない。やはり一番はここからだろう。
「ヤソック、話してくれてありがとう。・・・それで私、まずは夫と離婚しようと思うの」
「うんっ!!」
勢いよく顔を上げたヤソックの瞳は、まるで子供のように生命力に溢れキラキラと輝いて見える。
(無駄に眩しいわね)
だがジョナスの次の言葉を聞くなりそれまで美しく輝いていた瞳が一瞬で灰色に曇った。
「それで勝手を言って申し訳ないんだけど、一旦恋人関係というのを保留にしてもらえないかしら」
「・・・え」
魂が抜け落ちたような彼の絶望顔に胸が痛い。鼓動がうるさいのは彼の涙を見たくないせいだろうか。
「あの・・・あなたとの関係は、やっぱり離婚してからでないといけないことだと思うの。あと、既婚者の自分がいつまでもこちらでお世話になっている訳にはいかないわ。父に手紙を書いて迎えに来てもらおうと思うの」
「なっ!! それは駄目だよ!!絶対ダメ!ジョナスはここに居なきゃダメだよ!ダメったら駄目だ!! 出て行くなんて絶対許さないから!」
「そうだったのね・・・。もしかして、学生の間も少しは恋人らしい関係にあったとか?」
その言葉に、ヤソックは下を向いたまま首を横に振る。
「あの特別授業を最後に、その後一度も会話はできなかったから」
「は!?・・・・いちども?」
驚きで声を詰まらせるジョナスの様子を窺うようにヤソックはこっそりと見上げた。
(え!?特別授業以来、一度も会話なしでずっと好きだったってこと? なんで!?)
きっとジョナスの顔にはそんな疑問が浮かんでいるのだろう。そんな顔をしている。
ジョナスには意味が分からなかった。
そんなに好意を持ってくれていたのなら、なぜ何年も、ただひたすらに心に秘めていたのだろう。
学園環境のせいなのか、家柄の問題なのか・・・もちろん彼なりに理由はあったのだろうが、その間に何も知らない自分は結婚までしているのだ。
それでも諦めきれないのであれば、なぜにもっと早く行動に移さなかったのだろうか・・・。
(だけど、今、この状態で恋人と言われても・・・やっぱりなにか違うわよね。どちらかと言えばこれって駄目なことだと思うし・・・)
「ええと・・・それで私達は、恋人一日目で意識不明ってこと?」
「いや・・・二日目」
「あのぉー・・・それって不倫よね?」
「ちがっ! そんな誤解されるようなことは何もしてないし、君はあいつにあんな酷いことをされて、たくさん傷付いて泣いていたし、それに―――」
「ああ、そっか、わかった・・・私は離婚するつもりだったのね? そうじゃないと、いくらあなたが弱みに付け込んだところで私が首を縦に振るはずなんてないものね。もう修復不可能だったんでしょう?」
「・・・・・」
少しの沈黙の後、ヤソックはジョナスの瞳を真っすぐに見つめた。
「君の夫の浮気は、ずっと噂になっていたんだ。騎士団でも有名な話で、当然君も知っていた。君達夫婦のことだから詳しくは知らないけれど、それでもあの日までは表面上、上手くやっているように見えていた」
未だ理解できない部分は多々あるが、結局こういうことだろう。
世間で噂になるほど浮気性の夫に自分は気づかない振りをして夫婦生活を続けていた。
けれども、ついに夫の不貞現場を自分で目撃してしまい心が折れた。
落ち込んで泣いている自分を慰めてくれたのが同僚のヤソックであり、親切と思って甘えてみたら、それは厚意ではなく好意だった・・・。
その後は大型の魔獣と戦って意識を失う。
・・・で?
「私は魔法を失い、夫とはそれ以来話もしていない。にも拘わらず既に恋人はいる?」
「うん・・・」
なぜか申し訳なさそうに俯くヤソックを見下ろしながらジョナスは思った。
(なんじゃそりゃ!)
情報量が多すぎる。自分は本当にこんなに大変な状況の中にいたのだろうか。けれど、この信じられない話によって数々の疑問が腑に落ちたことも事実だった。
夫婦だというのに一度も見舞いに訪れぬ夫。
自分は恋人と言いながら全く女性慣れしていないヤソック。
長すぎる期間、無駄に愛情を拗らせてしまった彼が、なんとしてでもジョナスを屋敷に留めようと必死な姿。
そして彼が、これまでジョナスの夫に関して一切口を開かなかった理由も。
全てが納得のいくものになってしまった。
・・・さて、
(じゃあ、まずは何から手をつけるべきか・・・)
とりあえず婚約者どころか既婚者である自分がいつまでもヤソックに甘えている訳にはいかない。やはり一番はここからだろう。
「ヤソック、話してくれてありがとう。・・・それで私、まずは夫と離婚しようと思うの」
「うんっ!!」
勢いよく顔を上げたヤソックの瞳は、まるで子供のように生命力に溢れキラキラと輝いて見える。
(無駄に眩しいわね)
だがジョナスの次の言葉を聞くなりそれまで美しく輝いていた瞳が一瞬で灰色に曇った。
「それで勝手を言って申し訳ないんだけど、一旦恋人関係というのを保留にしてもらえないかしら」
「・・・え」
魂が抜け落ちたような彼の絶望顔に胸が痛い。鼓動がうるさいのは彼の涙を見たくないせいだろうか。
「あの・・・あなたとの関係は、やっぱり離婚してからでないといけないことだと思うの。あと、既婚者の自分がいつまでもこちらでお世話になっている訳にはいかないわ。父に手紙を書いて迎えに来てもらおうと思うの」
「なっ!! それは駄目だよ!!絶対ダメ!ジョナスはここに居なきゃダメだよ!ダメったら駄目だ!! 出て行くなんて絶対許さないから!」
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