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これがお守り?
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目覚めてから初めて見た鏡には正直驚いた。
「うわー、本当に大人になってる・・・すごい、なにこれ・・・え?ちょっと老けた?」
あらゆる角度から自分の姿を何度も確認した。
後ろでクスクス笑っているヤソックに気づき恥ずかしさに顔を赤らめていると、ごめんごめんと謝るヤソックが自分の座っているソファーの横をぽんぽんと叩いて 「おいで」 と目で訴えた。
ヤソックにはベッドから起き上がれない間にたくさんの話を聞かせてもらった。
学園を卒業後、なぜか自分が王宮の洗濯メイドになっていたこと。
もっと驚いたのは、まさかの騎士団に所属していたということ。
「私、水で戦うの?・・・でも・・・魔法で人を殺めるなんてそんなこと・・・」
ショックを隠せないジョナスに、ヤソックは騎士団での彼女の役割を丁寧に説明した。
「ううぅ・・・じゃあ、私のお仕事はあくまでも補佐ということなのね・・・」
それでも他の命を奪うことに加担はしているのだろう。大人しく王宮で洗濯をしていればいいものを一体何を考えて自分は騎士団になど入ったのだろう。
複雑な心境がジョナスの胸を重くした。
その騎士団でヤソックとも再会したらしい。なにやら第二騎士団で魔法を使えるのはヤソックと自分の二人だけという話だ。
そのせいもあってか自分達は随分と親しい間柄だったらしい。
目覚めてすぐの頃、ヤソックに名前を呼び捨ててほしいと言われたジョナスは、困った顔で目を逸らした。
「いえ・・・侯爵家の方を呼び捨てにするのは難しいといいますか・・・せめて様付けで許していただけませんか?」
ヤソックはきっぱりと 「駄目!」 と言った後、君と再会した時も同じことを言われたと言って、当時を思い出したのか嬉しそうに目を細めて笑っていた。
今のヤソックは記憶の中の彼と随分違って見える。もちろん完璧な外見は学生の時のままである。
・・・いや、正直に言うと、男爵家の自分が近付いてはいけないレベルの素敵すぎる男性に成長している。
だが、彼の持つ柔らかい雰囲気や思いやり溢れる内面においては、ジョナスの記憶にある彼とはまるで別人にしか見えない。
「あの・・・、私ってあなたに嫌われてませんでしたか?」
ヤソックとの特別授業を思い浮かべると、どう考えても恋人というのは無理があるように思える。それに古臭い考えに囚われた学園内において、これほど大きな身分差を無視した恋愛が成立するとも思えなかった。
そんなジョナスの心境など全て見透かしたように微笑むヤソックは、彼女の瞳には随分と大人の男性に映っている。
「特別授業を受けたあの時から、僕は君のことがずっと好きだったんだよ。君のおかげで僕の人生はとても良い方に変わったんだ。まあ、確かに当時の僕は突拍子もない君の言動に戸惑って苛立ちをぶつけることしかできなかったけれどね。 くくっ、あの時は二人で何度も失敗を繰り返して毎日ずぶ濡れになったね」
覚えてる?と、笑いを堪えているヤソックに、ジョナスは情けない顔で 「はい」 と頷いた。
「ふふっ、一番格好つけたい年頃なのにあんなに水攻めにされて、ふっ、思い出したら笑ってしまうね。でもね、今思うと毎回信じられない量の水を頭から被ったせいで僕の自尊心やプライドも丸ごと全部洗い流されたんじゃないかと思ってるんだよ。 ・・・って、違うよジョナス、そんなに落ち込まないで、僕は責めてなんかいないよ。だって、そんなもの・・・僕には最初から必要のないものだったんだから」
本当に感謝してるんだ・・・。そう言ったヤソックは、すっと胸ポケットから何かを取り出すとジョナスの手の上に乗せた。
(あ・・・この模様)
それは手のひらサイズにカットされたタオルだった。
もしかしたら、切った端はヤソックが自分でかがったのかもしれない・・・随分と残念な仕上がりだ。これではポケットの中がタオルの繊維で面倒なことになりそうだが、少し色あせている変な模様のタオルには見覚えがあった。
魔法で失敗の多いジョナスを心配した母が、毎日必ず持ち歩きなさいと言って大量に持たせてくれたジョナス専用タオルだ。
「これは僕のお守りなんだ」
そう言ったヤソックは、意味ありげな笑みを浮かべてジョナスをじっと見つめている。
(え!?こんなものがお守り? ・・・って、じゃあ恋人って・・・もしかして本当のことなの?)
君は命の恩人だから是非とも甘えてほしいという理由だけで、当時のタオルを持ち出してまで嘘を吐く必要があるのだろうか・・・。
さすがのジョナスもこのまま知らん顔を続けるわけにはいかなくなってきた。
これは・・・面倒でも、きちんと真実を知るべきことのような気がする。
ジョナスは覚悟を決めた。
「うわー、本当に大人になってる・・・すごい、なにこれ・・・え?ちょっと老けた?」
あらゆる角度から自分の姿を何度も確認した。
後ろでクスクス笑っているヤソックに気づき恥ずかしさに顔を赤らめていると、ごめんごめんと謝るヤソックが自分の座っているソファーの横をぽんぽんと叩いて 「おいで」 と目で訴えた。
ヤソックにはベッドから起き上がれない間にたくさんの話を聞かせてもらった。
学園を卒業後、なぜか自分が王宮の洗濯メイドになっていたこと。
もっと驚いたのは、まさかの騎士団に所属していたということ。
「私、水で戦うの?・・・でも・・・魔法で人を殺めるなんてそんなこと・・・」
ショックを隠せないジョナスに、ヤソックは騎士団での彼女の役割を丁寧に説明した。
「ううぅ・・・じゃあ、私のお仕事はあくまでも補佐ということなのね・・・」
それでも他の命を奪うことに加担はしているのだろう。大人しく王宮で洗濯をしていればいいものを一体何を考えて自分は騎士団になど入ったのだろう。
複雑な心境がジョナスの胸を重くした。
その騎士団でヤソックとも再会したらしい。なにやら第二騎士団で魔法を使えるのはヤソックと自分の二人だけという話だ。
そのせいもあってか自分達は随分と親しい間柄だったらしい。
目覚めてすぐの頃、ヤソックに名前を呼び捨ててほしいと言われたジョナスは、困った顔で目を逸らした。
「いえ・・・侯爵家の方を呼び捨てにするのは難しいといいますか・・・せめて様付けで許していただけませんか?」
ヤソックはきっぱりと 「駄目!」 と言った後、君と再会した時も同じことを言われたと言って、当時を思い出したのか嬉しそうに目を細めて笑っていた。
今のヤソックは記憶の中の彼と随分違って見える。もちろん完璧な外見は学生の時のままである。
・・・いや、正直に言うと、男爵家の自分が近付いてはいけないレベルの素敵すぎる男性に成長している。
だが、彼の持つ柔らかい雰囲気や思いやり溢れる内面においては、ジョナスの記憶にある彼とはまるで別人にしか見えない。
「あの・・・、私ってあなたに嫌われてませんでしたか?」
ヤソックとの特別授業を思い浮かべると、どう考えても恋人というのは無理があるように思える。それに古臭い考えに囚われた学園内において、これほど大きな身分差を無視した恋愛が成立するとも思えなかった。
そんなジョナスの心境など全て見透かしたように微笑むヤソックは、彼女の瞳には随分と大人の男性に映っている。
「特別授業を受けたあの時から、僕は君のことがずっと好きだったんだよ。君のおかげで僕の人生はとても良い方に変わったんだ。まあ、確かに当時の僕は突拍子もない君の言動に戸惑って苛立ちをぶつけることしかできなかったけれどね。 くくっ、あの時は二人で何度も失敗を繰り返して毎日ずぶ濡れになったね」
覚えてる?と、笑いを堪えているヤソックに、ジョナスは情けない顔で 「はい」 と頷いた。
「ふふっ、一番格好つけたい年頃なのにあんなに水攻めにされて、ふっ、思い出したら笑ってしまうね。でもね、今思うと毎回信じられない量の水を頭から被ったせいで僕の自尊心やプライドも丸ごと全部洗い流されたんじゃないかと思ってるんだよ。 ・・・って、違うよジョナス、そんなに落ち込まないで、僕は責めてなんかいないよ。だって、そんなもの・・・僕には最初から必要のないものだったんだから」
本当に感謝してるんだ・・・。そう言ったヤソックは、すっと胸ポケットから何かを取り出すとジョナスの手の上に乗せた。
(あ・・・この模様)
それは手のひらサイズにカットされたタオルだった。
もしかしたら、切った端はヤソックが自分でかがったのかもしれない・・・随分と残念な仕上がりだ。これではポケットの中がタオルの繊維で面倒なことになりそうだが、少し色あせている変な模様のタオルには見覚えがあった。
魔法で失敗の多いジョナスを心配した母が、毎日必ず持ち歩きなさいと言って大量に持たせてくれたジョナス専用タオルだ。
「これは僕のお守りなんだ」
そう言ったヤソックは、意味ありげな笑みを浮かべてジョナスをじっと見つめている。
(え!?こんなものがお守り? ・・・って、じゃあ恋人って・・・もしかして本当のことなの?)
君は命の恩人だから是非とも甘えてほしいという理由だけで、当時のタオルを持ち出してまで嘘を吐く必要があるのだろうか・・・。
さすがのジョナスもこのまま知らん顔を続けるわけにはいかなくなってきた。
これは・・・面倒でも、きちんと真実を知るべきことのような気がする。
ジョナスは覚悟を決めた。
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