優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

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スカイとの会話

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『妻とはさ、子供の頃に親が勝手に決めた政略結婚だったんだ。まあ、それでも幼馴染みたいなもんだし、今はそれなりに上手くいってるんだけどさ、結婚当時はお互い好きな人がいたから完全な仮面夫婦だったよ』

 以前、遠征先でジョナスとロステルの夫婦仲をいいだけからかった後に、独り言のようにスカイが自分のことを語り出したことを思い出す。

深くは考えたくないが、もしかしたら彼もヤソックと同じで・・・のかもしれない。

それをロステルは聞かないし、スカイも言いはしないだろう。ただ、その可能性が少しでもあるのなら、自分の噂の原因を彼にはきちんと話すべきだろうと思った。

「俺は彼女の名前も知らない」

「は?」

「俺の顔がもし緩んでいたのであれば、それは彼女がいつもジョナスの話をするからだ」

「そうなのか?でも、なんで彼女が?・・・ジョナスと知り合いじゃないだろう?」

「ああ。ジョナスの話でもしないと、俺との会話が続かないからだと思っていた」

「・・・そこは自覚あったのかよ。でもそう言われてみればお前って、俺と話してる時もジョナスの話になった時だけ顔が変わるかもしれないな」

「・・・・」

「そっかそっか」 と笑うスカイを横目に、ロステルは自分の気持ちがきちんと伝わったようで良かったと密かに思った。
それは、話を聞いて納得した彼が、どこか安心したように優しさを含んだ顔に変わっていたからだ。

「けど、向こうだってお前と噂になってることを知ってるんだろう?それでもまだ話しかけてくるのか?」

訝しげに眉を寄せるスカイに黙って頷いたロステルであったが、ジョナスに誤解を与えてしまったあの日以来、やたらと頻繁に話しかけてくる女性騎士を思い出して胃がムカムカするような嫌な気分になった。

初めこそ奥さんに悪いことをしてしまったと申し訳なさそうな素振りを見せていたけれど、ジョナスが動けなくなってからは、何を勘違いしているのか手作りのプレゼントを用意してきたり、武器屋に行って一緒に武器を選んでほしいと頼んで来たりと頻繁に現れては面倒なことを言い出すようになった。
当然ロステルは全て断っていたが、さすがに自分の家に来て料理を作ると言われた時は、常に表情のないロステルの顔が怒りに変わった。

『なぜお前が俺とジョナスの家に来て飯を作る必要がある』

まるで敵に向けるような鋭い視線にロステルの強い怒りを感じる。苛立ったような低い声にビクリと体を震わせた女は、怯えたように手を握り締め顔を引き攣らせてまでどうにか笑顔を作っていた。

『仕事以外で二度と俺に話しかけるな』

そう冷たく言い放ちその場を去ったロステルの背中を女は唇を噛み締めて涙目になりながら見ていた。



「いいかロステル。所詮噂だと安易に考えるなよ?いくら真実ではないと言ったってそれを聞かされたジョナスは絶対にいい気はしない。ジョナスが目覚めたらちゃんと相手が納得するまで説明しろよ!?ジョナスは面倒くさがりだから考えが浅いんだ。その上、お前は何もしゃべらないんだから放っておいてどうにかなるなんて絶対にないからな!? 誤解を甘く見るなよ、ほったらかしたら夫婦関係壊れるからな!」

「・・・・」

真顔で頷くロステルを見ながら、こいつ本当に分かってるのか?と心配そうな顔を見せたスカイだったが、

「悪いが俺はジョナスの味方だからな! 絶対悲しませんなよ!」

軽くロステルを睨むと、ジョナスが目覚めたら教えろよと言いながら帰って行った。





 二人を閉じ込めていた水の玉が壊れたのは、それから八日後のことだった。
勢いよく飛び散った水の中からはずぶ濡れになったジョナスとヤソックがその場に崩れるように倒れ込んだ。

控えていたカミューと魔法省の人間が急いで両手を彼らに向けると癒しの魔法をかけてゆく。次々と体の傷は治ってゆくが、なぜか二人は眠ったまま意識を取り戻さなかった。

しかも新たな問題も発生した。どうしてか二人の体が離れないのだ。
魔力の強い者には見えるようだった。体がくっ付いている箇所で風と水の魔力が混じり合っていると。

どうやらジョナスとヤソックは無意識の状態にも拘らず水の玉が壊れた後もお互いに保護魔法をかけ合っているらしい。
無理に引き剥がすことも出来ずに、どちらかの意識が戻るまでは・・・と、二人はそのまま王宮の医務室に運ばれた。
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