優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

文字の大きさ
上 下
43 / 75

スカイとの会話

しおりを挟む
『妻とはさ、子供の頃に親が勝手に決めた政略結婚だったんだ。まあ、それでも幼馴染みたいなもんだし、今はそれなりに上手くいってるんだけどさ、結婚当時はお互い好きな人がいたから完全な仮面夫婦だったよ』

 以前、遠征先でジョナスとロステルの夫婦仲をいいだけからかった後に、独り言のようにスカイが自分のことを語り出したことを思い出す。

深くは考えたくないが、もしかしたら彼もヤソックと同じで・・・のかもしれない。

それをロステルは聞かないし、スカイも言いはしないだろう。ただ、その可能性が少しでもあるのなら、自分の噂の原因を彼にはきちんと話すべきだろうと思った。

「俺は彼女の名前も知らない」

「は?」

「俺の顔がもし緩んでいたのであれば、それは彼女がいつもジョナスの話をするからだ」

「そうなのか?でも、なんで彼女が?・・・ジョナスと知り合いじゃないだろう?」

「ああ。ジョナスの話でもしないと、俺との会話が続かないからだと思っていた」

「・・・そこは自覚あったのかよ。でもそう言われてみればお前って、俺と話してる時もジョナスの話になった時だけ顔が変わるかもしれないな」

「・・・・」

「そっかそっか」 と笑うスカイを横目に、ロステルは自分の気持ちがきちんと伝わったようで良かったと密かに思った。
それは、話を聞いて納得した彼が、どこか安心したように優しさを含んだ顔に変わっていたからだ。

「けど、向こうだってお前と噂になってることを知ってるんだろう?それでもまだ話しかけてくるのか?」

訝しげに眉を寄せるスカイに黙って頷いたロステルであったが、ジョナスに誤解を与えてしまったあの日以来、やたらと頻繁に話しかけてくる女性騎士を思い出して胃がムカムカするような嫌な気分になった。

初めこそ奥さんに悪いことをしてしまったと申し訳なさそうな素振りを見せていたけれど、ジョナスが動けなくなってからは、何を勘違いしているのか手作りのプレゼントを用意してきたり、武器屋に行って一緒に武器を選んでほしいと頼んで来たりと頻繁に現れては面倒なことを言い出すようになった。
当然ロステルは全て断っていたが、さすがに自分の家に来て料理を作ると言われた時は、常に表情のないロステルの顔が怒りに変わった。

『なぜお前が俺とジョナスの家に来て飯を作る必要がある』

まるで敵に向けるような鋭い視線にロステルの強い怒りを感じる。苛立ったような低い声にビクリと体を震わせた女は、怯えたように手を握り締め顔を引き攣らせてまでどうにか笑顔を作っていた。

『仕事以外で二度と俺に話しかけるな』

そう冷たく言い放ちその場を去ったロステルの背中を女は唇を噛み締めて涙目になりながら見ていた。



「いいかロステル。所詮噂だと安易に考えるなよ?いくら真実ではないと言ったってそれを聞かされたジョナスは絶対にいい気はしない。ジョナスが目覚めたらちゃんと相手が納得するまで説明しろよ!?ジョナスは面倒くさがりだから考えが浅いんだ。その上、お前は何もしゃべらないんだから放っておいてどうにかなるなんて絶対にないからな!? 誤解を甘く見るなよ、ほったらかしたら夫婦関係壊れるからな!」

「・・・・」

真顔で頷くロステルを見ながら、こいつ本当に分かってるのか?と心配そうな顔を見せたスカイだったが、

「悪いが俺はジョナスの味方だからな! 絶対悲しませんなよ!」

軽くロステルを睨むと、ジョナスが目覚めたら教えろよと言いながら帰って行った。





 二人を閉じ込めていた水の玉が壊れたのは、それから八日後のことだった。
勢いよく飛び散った水の中からはずぶ濡れになったジョナスとヤソックがその場に崩れるように倒れ込んだ。

控えていたカミューと魔法省の人間が急いで両手を彼らに向けると癒しの魔法をかけてゆく。次々と体の傷は治ってゆくが、なぜか二人は眠ったまま意識を取り戻さなかった。

しかも新たな問題も発生した。どうしてか二人の体が離れないのだ。
魔力の強い者には見えるようだった。体がくっ付いている箇所で風と水の魔力が混じり合っていると。

どうやらジョナスとヤソックは無意識の状態にも拘らず水の玉が壊れた後もお互いに保護魔法をかけ合っているらしい。
無理に引き剥がすことも出来ずに、どちらかの意識が戻るまでは・・・と、二人はそのまま王宮の医務室に運ばれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...