41 / 75
やるせない気持ち
しおりを挟む朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
10
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる