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仲間の気遣い

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 それは次の日に予定されていた第二騎士団遠征中の出来事だった。
現地にて目的の魔獣に遭遇した第二騎士団は、特に問題なく討伐を成功させた。当初の予定通り山のふもとで野営を行い翌日には帰還の予定であったが、問題はその野営中に起こった。

「ヤソック・・・もう寝た方がいいよ」

「うん・・・まだ大丈夫。 僕もさ・・・それ食べたい・・・し」

 焚火の前でこっそりマシュマロを焼いているジョナスの横では、なんとか重い瞼を持ち上げるヤソックが気を抜く度にうつらうつらと船を漕いでいた。

出発前日に、うっかりヤソックの秘密の部屋で眠ってしまったジョナスは、おそらく自分が彼の寝不足の原因であろうと申し訳なく思っていた。

出発時間も早かったし、魔獣相手に二人共それなりに魔力を使った。寝不足の体で随分と無理をしていたのだろう。しかもヤソックは、遠征中ずっと自分の隣で話し続けていた。それは周囲にも異様な光景に映ったのだろうか、今日は不思議と他の団員からも話しかけられることが多かった気がする。

なんとなく周りが自分に気を遣っているように感じたけれど、ジョナスは気のせいだと思いたかった。

こんがりと焼き上がったマシュマロを持って、ジョナスはヤソックを見た。

「残念だが寝てるな。それじゃあ、これは俺のもんだな!」

ジョナスの手からマシュマロの刺さった枝を取ったのは、同じ第二騎士団のエイダンであった。大きな口を開けてカリッと齧ったマシュマロがとろりとチーズのように伸びた。

「おー! 夜中のマシュマロは最高だな、甘さが疲れた身体に染み渡るぞ」

はふはふと熱さに耐えながら美味しそうに食べるエイダンに、ジョナスの顔もほころぶ。

「あー・・・俺も食いたい、マシュマロー」

エイダンの声に引き寄せられたのか何人か起き出してきた。

「みんなまだ起きてたの?」

「まあなぁー・・・。なんかウトウトしながらヤソックの話を聞いてたっていうか」

「ああ、あれな・・・うるさくて寝れなかったぞ、まったく・・・古代の魔法がなんだかって小難しい話を永遠と」

「ジョナス、マシュマロって俺の分もある? お、この枝使うか」

「残り何個?俺、もう一個食いたい。あとさぁ、甘いからお茶入れないか?」

まるで力尽きて眠ってしまったヤソックの代わりのように、今度は皆がジョナスに話しかけてくる。

(なんか・・・これってやっぱり変だよね)

ジョナスが何か言いたそうに皆を見回すと、それに気づいたエイダンがジョナスに向かって 「俺は何も知らないぞ」 と言った。

「え?」 と、もう一度周囲を見ると、焚火の前でマシュマロを焼く皆と目が合った。

「何かあったのはお前なんだろう?」

「なんだかジョナスらしくないよ。いつもの元気がない」

「あとヤソックの異常行動か?何を考えてるのか知らんが一人で頑張り過ぎていて見てるこっちが心配になるくらいだったぞ。 まあ、今回の魔獣はそこまで大変な奴じゃなかったからいいけど、あんな強力な魔法を何発も何発も・・・必要なかっただろう」

それは昼間の魔獣討伐の際、不自然にヤソックが放った大きすぎる風魔法のことだった。

「ははっ、俺ら、剣を抜く暇もなかったしな。これはきっと、魔力の使い過ぎとしゃべり過ぎで気絶したんだな」

そう言われたヤソックは、ジョナスの隣に転がされ、食べ終わったマシュマロの枝で頬を突かれている。

「あれだろう? 見る度に暗い顔して何か考え込んでいるジョナス様の気を紛らわせればいいんだろう?」

目をぱちくりさせながらジョナスは皆の気遣いに驚いていた。やはりヤソックだけではなく騎士団の皆にも気を遣わせていたことを改めて知った。
先ほどまでの申し訳ない気持ちよりも、今は感謝の気持ちの方が上回ってしまい、つい目頭が熱くなってしまう。

そして、湿っぽい空気になりそうなのを皆は察知したようだ。

「ジョナス!悲しみに浸りたいなら俺の生い立ちなんかどうだ?聞くも涙語るも涙、俺の壮絶な人生について朝までみっちり語り合わないか? 泣けるぞ!?」

「いや、なんだよそれ、勘弁してくれ。それよりジョナス、俺とカード勝負しようぜ。負けた方が酒をおごるってのはどうだ?」

「ジョナス、俺さぁ、今度生まれて来る子供の為に歌を作ったんだよ」

「え、そうなの?子供? やだ、なんで言ってくれないのよぉー、おめでとう!」

「え?お前、歌って・・・おいおい嘘だろう、気持ち悪い奴だな・・・お前の作詞作曲かよ」

「あ!?なんだよその顔! まあいいから、お前らもちょっと聴いてくれって」

こうして、ジョナスは心の中で何度もありがとうと感謝しながら賑やかな夜は過ぎていった。


夜通し騒いで明け方にようやく眠りについたジョナスだったが、その後直ぐに緊迫した様子のヤソックに起こされた。
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