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ヤソックの思惑
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「昨日さぁ、・・・旦那さん帰って来たの?」
そんなこと聞いてどうする。・・・なのに、分かっていても聞いてしまった。分かっているのにどうしても確かめたくなってしまったのだ。
そして、ふふっ、と嬉しそうに微笑むジョナスにヤソックの心は凍りつく。
(なんでだよ、どうして! 俺があんなに二人を引き離す為に動いたのに)
第一騎士団と第二騎士団。自分が第二に加わることによって、開き過ぎていたパワーバランスをかなり縮めることができたはずだ。さすがに大型の魔獣相手では無理があるけれど、それ以外ならば地方と王都周辺を第一と第二が交代で守れるように、騎士団の上層部に話を持って行ったのはヤソックだった。
そうすることでジョナスとロステルをなるべく一緒にしないように画策したというのに、やはりそれだけでは上手く事は運ばなかった。
そんなのは分かっている。街でなんの事件も起こらない日だってあれば、魔獣の出ない平和な日だってあるだろう。訓練のない日もあれば、第一、第二がそろって王都に留まることだってある。だが完璧でないなりにも最近はそこそこ上手くいっていた。
苛立ちを抑えながらヤソックは心の中で毒を吐いた。
(ほんの少しの時間しかないくせに、それでもまだ彼女にしがみ付くのか)
「残念なことに僕はそんなにモテないんだよ」
歩きながらチラリと視線をよこしたジョナスに、ヤソックは困ったように微笑んだ。
「まさか!」
「いや、本当に。僕はこう見えて愛想がないからね。冷たいってよく言われるよ」
「えーと、誰の話?」
「だから僕のこと!僕は決まった相手にしか話しかけないし、感じの悪い男なのかもしれない。 だから君が言うほど僕は人気者ではないんだよ」
そうなんだ・・・。と難しい顔をしながらも、どこか納得しているようなジョナスの横顔を見て、ヤソックの脳裏に浮かんだのは魔法訓練場で会ったスカイであった。
スカイとのこれまでの関係を思えば魔法訓練場で会ったあの時、ジョナスは何か良くないことを聞かされたのだろうと簡単に推測できる。
つい不機嫌な顔を見せてしまいそうになるが、今はそんなことに腹を立てている場合ではない。
「本当の人気者ってさ、案外君の旦那さんみたいなタイプじゃないかと思うけどね・・・」
それまで話しながらも決して止まることのなかったジョナスの足がピタリと止まった。
「・・・どうして?」
いくら自分の話をしても立ち止まることのなかったジョナスが、ロステルの話になった途端に真顔で立ち止まった。先ほど感じた喜びが一気に失望に変わる。だがそれを今、態度に表すわけにはいかない。
「ごめん・・・話を聞いてしまったから」
「話って、どんな?」
珍しくジョナスからはピリピリとした苛立ちのようなものを感じる。
「普段誰とも話さない不愛想な彼が、自分にだけは笑顔で話しかけて来るって。だから・・・自分が特別に扱われていることが分かるって―――」
「そんなはずないわっ!!」
いきなり大きな声を出したジョナスが自分でも驚いたように手で口を押えた。
「やだ、私ったら・・・ごめんなさい、ヤソック」
想像以上のジョナスの反応に俯いたヤソックがほくそ笑む。そしてこれ以上ないくらいの優しい顔を張り付けて顔を上げた。
「やっぱりなにかあったんだね?」
「いやっ、あの、違うの。ただ、私も仕事仲間から聞いただけだから・・・別にたいしたことでもないし、昨日も特に変わった様子もなかったわ。私とヤソックだってこうして二人で話したりするでしょう?だから、それと同じことだと思うの。仕事だもの仕方ないじゃない・・・って、・・・私、ほんと、なに言って・・・。ごめんヤソック。ごめんね、今の話はなかったことにしてもらってもいいかな?」
苦しそうに瞳を揺らすジョナスを見て、さすがにヤソックの胸も痛みを感じた。本当だったらここでもう一押ししたいところではあったが、彼女のこんな辛そうな顔を見ているとその気も失せてしまう。
「うん、わかったよ。この話はもうやめよう。でもジョナス、一つだけ言わせて。何かあったら絶対僕に相談してほしい。ほら、さっきも言った通り、僕は普段感じの悪い冷たい男だけど大切な人にはとっても優しい男になれるからね」
ね? と、ヤソックは微笑みながらジョナスの背中に軽く手を当てた。
(俺がジョナスを痛めつける必要はない。自分が何もしなくても、あちらが勝手に壊しに来てくれるだろうから。 ふっ、なにせ向こうも必死だろうからな)
ヤソックはジョナスの背を擦りながら、自分と同じ歪んだ愛情に支配された一人の女性騎士を思い出していた。
そんなこと聞いてどうする。・・・なのに、分かっていても聞いてしまった。分かっているのにどうしても確かめたくなってしまったのだ。
そして、ふふっ、と嬉しそうに微笑むジョナスにヤソックの心は凍りつく。
(なんでだよ、どうして! 俺があんなに二人を引き離す為に動いたのに)
第一騎士団と第二騎士団。自分が第二に加わることによって、開き過ぎていたパワーバランスをかなり縮めることができたはずだ。さすがに大型の魔獣相手では無理があるけれど、それ以外ならば地方と王都周辺を第一と第二が交代で守れるように、騎士団の上層部に話を持って行ったのはヤソックだった。
そうすることでジョナスとロステルをなるべく一緒にしないように画策したというのに、やはりそれだけでは上手く事は運ばなかった。
そんなのは分かっている。街でなんの事件も起こらない日だってあれば、魔獣の出ない平和な日だってあるだろう。訓練のない日もあれば、第一、第二がそろって王都に留まることだってある。だが完璧でないなりにも最近はそこそこ上手くいっていた。
苛立ちを抑えながらヤソックは心の中で毒を吐いた。
(ほんの少しの時間しかないくせに、それでもまだ彼女にしがみ付くのか)
「残念なことに僕はそんなにモテないんだよ」
歩きながらチラリと視線をよこしたジョナスに、ヤソックは困ったように微笑んだ。
「まさか!」
「いや、本当に。僕はこう見えて愛想がないからね。冷たいってよく言われるよ」
「えーと、誰の話?」
「だから僕のこと!僕は決まった相手にしか話しかけないし、感じの悪い男なのかもしれない。 だから君が言うほど僕は人気者ではないんだよ」
そうなんだ・・・。と難しい顔をしながらも、どこか納得しているようなジョナスの横顔を見て、ヤソックの脳裏に浮かんだのは魔法訓練場で会ったスカイであった。
スカイとのこれまでの関係を思えば魔法訓練場で会ったあの時、ジョナスは何か良くないことを聞かされたのだろうと簡単に推測できる。
つい不機嫌な顔を見せてしまいそうになるが、今はそんなことに腹を立てている場合ではない。
「本当の人気者ってさ、案外君の旦那さんみたいなタイプじゃないかと思うけどね・・・」
それまで話しながらも決して止まることのなかったジョナスの足がピタリと止まった。
「・・・どうして?」
いくら自分の話をしても立ち止まることのなかったジョナスが、ロステルの話になった途端に真顔で立ち止まった。先ほど感じた喜びが一気に失望に変わる。だがそれを今、態度に表すわけにはいかない。
「ごめん・・・話を聞いてしまったから」
「話って、どんな?」
珍しくジョナスからはピリピリとした苛立ちのようなものを感じる。
「普段誰とも話さない不愛想な彼が、自分にだけは笑顔で話しかけて来るって。だから・・・自分が特別に扱われていることが分かるって―――」
「そんなはずないわっ!!」
いきなり大きな声を出したジョナスが自分でも驚いたように手で口を押えた。
「やだ、私ったら・・・ごめんなさい、ヤソック」
想像以上のジョナスの反応に俯いたヤソックがほくそ笑む。そしてこれ以上ないくらいの優しい顔を張り付けて顔を上げた。
「やっぱりなにかあったんだね?」
「いやっ、あの、違うの。ただ、私も仕事仲間から聞いただけだから・・・別にたいしたことでもないし、昨日も特に変わった様子もなかったわ。私とヤソックだってこうして二人で話したりするでしょう?だから、それと同じことだと思うの。仕事だもの仕方ないじゃない・・・って、・・・私、ほんと、なに言って・・・。ごめんヤソック。ごめんね、今の話はなかったことにしてもらってもいいかな?」
苦しそうに瞳を揺らすジョナスを見て、さすがにヤソックの胸も痛みを感じた。本当だったらここでもう一押ししたいところではあったが、彼女のこんな辛そうな顔を見ているとその気も失せてしまう。
「うん、わかったよ。この話はもうやめよう。でもジョナス、一つだけ言わせて。何かあったら絶対僕に相談してほしい。ほら、さっきも言った通り、僕は普段感じの悪い冷たい男だけど大切な人にはとっても優しい男になれるからね」
ね? と、ヤソックは微笑みながらジョナスの背中に軽く手を当てた。
(俺がジョナスを痛めつける必要はない。自分が何もしなくても、あちらが勝手に壊しに来てくれるだろうから。 ふっ、なにせ向こうも必死だろうからな)
ヤソックはジョナスの背を擦りながら、自分と同じ歪んだ愛情に支配された一人の女性騎士を思い出していた。
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