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キスマークとは独占欲
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翌日、洗濯の仕事が終わったジョナスは、そのまま第一騎士団の詰所に向かっていた。魔法使いが二人になったことで新しくなった戦闘訓練をジョナスも受ける必要があったからだ。ヤソックとの連係魔法はもちろん、弓を使っての援護射撃、近距離での剣攻撃。強力な魔法使いが一人増えたこともあり新たな戦闘方法は多岐にわたる。
ジョナスがドアをノックして中に入ると、どうしたことか中にはヤソックが一人、ポツンと椅子に座ってこちらを見ていた。
「あら?ヤソック一人?・・・え、もしかして私、集合時間を間違えた!?」
「ははっ、大丈夫。みんな少し前に訓練場に向かったばかりだよ」
じゃあ僕たちも行こうか。と、にこにこしながら近づいて来たヤソックだったが、その目がジョナスの首元に留まった瞬間、ぐっと眉間に皺が寄り表情が曇った。そんなことに気づくはずのないジョナスは、彼が自分を待ってくれていたことに対し素直にお礼を言っている。
ジョナスの首元に付いている赤い痕を忌々しい気持ちで睨みつけながらもヤソックはジョナスの話に耳を傾けた。
「これでも急いで来たんだけど、やっぱり迷惑をかけてしまうわね・・・。随分と待たせてしまったんでしょう?本当にごめんなさい」
「いや・・・そんなに待っていないからもう謝らないで。洗濯だって大切な仕事なんだし、なによりそれが君の本業だろう?ジョナスが自分の仕事に一生懸命なのはみんな分かってることなんだし、そんなに気にする必要ないよ」
優しい言葉を掛けながらもヤソックの不機嫌な顔はそのままだった。早く行かなきゃ!と、急ぎ足で前を歩くジョナスは、ヤソックの苛立った気持ちには当然気づいていない。
「ヤソックは優しいのね。団長の無理な注文にだっていつも嫌な顔ひとつしないし、今だって文句も言わずに私を待っていてくれたわ。その上、そんな慰めの言葉までかけてくれるんですもの。あなたは第一騎士団でも女性に大人気だったんでしょうね。 ふふっ、さすがの私もそんな彼女たちの気持ちが分かってしまうわ」
「えっ?」
急に立ち止まったヤソックは、ぽかんと口を開けて目を見開いている。
「って、あら?どうしたの、ヤソック」
信じられないという様子で立ち尽くしているヤソックに気づくと、ジョナスは慌てて戻りヤソックの手を引っ張った。
「ちょっと、ヤソックどうしたの、早く行くわよ。みんなをこれ以上待たせられないわ。ほら、動いて」
早く早く!と、ジョナスに手を引かれて歩き出したヤソックの顔は真っ赤になっていた。
(気持ちが分かるって・・・)
確かに侯爵家の嫡男で強力な魔力を持つヤソックは、スラリとした美丈夫だった。もちろん女性に好意を寄せられることも少なくはなかった。
長い時間をかけてジョナスへの想いを拗らせてしまったヤソックにしてみれば、そんな女性達の気持ちなど迷惑以外の何物でもなかったが、ジョナスに彼女達の気持ちが分かると言われたことは素直に嬉しかった。
(それって、好かれる可能性があるってことだよな)
そう思い期待の眼差しを向けるも、手を引く彼女の首元に目が行った途端、再び怒りの感情が蘇る。
ジョナスがドアをノックして中に入ると、どうしたことか中にはヤソックが一人、ポツンと椅子に座ってこちらを見ていた。
「あら?ヤソック一人?・・・え、もしかして私、集合時間を間違えた!?」
「ははっ、大丈夫。みんな少し前に訓練場に向かったばかりだよ」
じゃあ僕たちも行こうか。と、にこにこしながら近づいて来たヤソックだったが、その目がジョナスの首元に留まった瞬間、ぐっと眉間に皺が寄り表情が曇った。そんなことに気づくはずのないジョナスは、彼が自分を待ってくれていたことに対し素直にお礼を言っている。
ジョナスの首元に付いている赤い痕を忌々しい気持ちで睨みつけながらもヤソックはジョナスの話に耳を傾けた。
「これでも急いで来たんだけど、やっぱり迷惑をかけてしまうわね・・・。随分と待たせてしまったんでしょう?本当にごめんなさい」
「いや・・・そんなに待っていないからもう謝らないで。洗濯だって大切な仕事なんだし、なによりそれが君の本業だろう?ジョナスが自分の仕事に一生懸命なのはみんな分かってることなんだし、そんなに気にする必要ないよ」
優しい言葉を掛けながらもヤソックの不機嫌な顔はそのままだった。早く行かなきゃ!と、急ぎ足で前を歩くジョナスは、ヤソックの苛立った気持ちには当然気づいていない。
「ヤソックは優しいのね。団長の無理な注文にだっていつも嫌な顔ひとつしないし、今だって文句も言わずに私を待っていてくれたわ。その上、そんな慰めの言葉までかけてくれるんですもの。あなたは第一騎士団でも女性に大人気だったんでしょうね。 ふふっ、さすがの私もそんな彼女たちの気持ちが分かってしまうわ」
「えっ?」
急に立ち止まったヤソックは、ぽかんと口を開けて目を見開いている。
「って、あら?どうしたの、ヤソック」
信じられないという様子で立ち尽くしているヤソックに気づくと、ジョナスは慌てて戻りヤソックの手を引っ張った。
「ちょっと、ヤソックどうしたの、早く行くわよ。みんなをこれ以上待たせられないわ。ほら、動いて」
早く早く!と、ジョナスに手を引かれて歩き出したヤソックの顔は真っ赤になっていた。
(気持ちが分かるって・・・)
確かに侯爵家の嫡男で強力な魔力を持つヤソックは、スラリとした美丈夫だった。もちろん女性に好意を寄せられることも少なくはなかった。
長い時間をかけてジョナスへの想いを拗らせてしまったヤソックにしてみれば、そんな女性達の気持ちなど迷惑以外の何物でもなかったが、ジョナスに彼女達の気持ちが分かると言われたことは素直に嬉しかった。
(それって、好かれる可能性があるってことだよな)
そう思い期待の眼差しを向けるも、手を引く彼女の首元に目が行った途端、再び怒りの感情が蘇る。
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