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ヤソックのもう一つの顔
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「俺も第二騎士団に異動できないかと思ってさ・・・」
会話の中で聞こえてきた言葉に、ヤソックは一気に現実に引き戻された。
(は!?・・・何言ってんだ・・・こいつ)
「いや、ロステルが第二に戻りたいって団長に言っててさ」
「え、ロステルが?」
「ああ、だけど第二にはやっぱりジョナスの他にも魔法使いが必要だろ?だからロステルと一緒に俺も異動したいって話してて・・・。俺の魔力が弱いのは認めるけど、水と氷の相性は抜群だろう?ジョナスが出した水を凍らせるだけならそこまで魔力も消費しないし・・・って、おい、なんだよその顔! 俺だって学生の頃に比べたら魔力量も増えたし技術だってかなり上がったんだぞ!」
そこまで聞いたヤソックは自分の平常心を保てなくなるのを感じた。
「ジョナス、もう行こう。他の人たちの邪魔になっているよ」
突然表情の消えたヤソックに気がつき軽く目を瞠ったジョナスであったが、ここが魔法の訓練所だった事を思い出すと、二人に向かって申し訳なさそうに謝った。
そんなこと気にするなと言ったスカイが、俺たちの仲だろ?とジョナスの肩に手を置くと、それを冷やかに一瞥したヤソックが二人を無視するように出口に向かって歩いて行ってしまった。
「あいつ、第二でもあんな感じなの?」
スカイのうんざりしたような顔を不思議に思ったジョナスは、「ん?」と首を傾げる。
「さっきまで優しそうに笑ってたけど、あれって全部作り笑いだろ?本当はあいつが一番俺達を見下してると思うぞ」
「え、そう? そんなふうに思ったことないけど・・・。スカイは彼に何か言われたの?」
「いや、何も?」
「だったら―――」
「俺なんて相手にもされてなかったからな。今だってお互い挨拶もしなかっただろう?」
「あ・・・いや、でも」
「いくら仕事といえど、あんな奴に合わせなくちゃいけないなんてお前も大変だな。早く俺とロステルの異動が正式に決まればいいけどな。まあ、何かあったら言って来いよ。話くらいは聞いてやるからさ。時間見つけてまた飲みにでも行こうぜ!」
そう言って爽やかに笑うスカイに対し、ジョナスは疑問に感じながらも笑顔で別れを告げた。
誰にでも温厚で礼儀正しいヤソックだが、スカイが持つ彼の印象はそれとは随分違うようだった。
ジョナスは変な違和感に首を傾げながらも、先に行ってしまったヤソックの後を追った。
魔法訓練場を出たヤソックは、不機嫌な顔を隠すこともできないほどに苛立っていた。
(なにが第二騎士団に異動だよ。馴れ馴れしくジョナスの肩に手なんか置きやがって!俺が第二に入る為にどれほどの根回しをしたと思ってるんだ。・・・あいつらの思い通りになんて絶対させない。これからジョナスを支えるのは、彼女と同等の強い魔力量を誇る俺だけだ)
あまりの怒りに我を忘れそうになったヤソックの体から、じわじわと魔力が漏れ出てきた。
(やばい!!)
咄嗟に心を静めようと深呼吸したが気持ちが粗ぶっているせいか静まるどころか新たな魔力がどんどん溢れてきてしまう。
(駄目だ、止まらない! 早く人のいない場所に)
焦って走り出そうとした時、大好きな人の声で名前を呼ばれた。
「ヤソック、ごめん」
走って来たのだろう、ジョナスは随分と呼吸を乱している。はあ、はあ、と荒い息を吐きながら謝るジョナスはヤソックの魔力が漏れ出ていることに気が付いていないようだった。
「ごめんね。忙しい中、せっかく私の為に時間を作ってくれたのに。ねぇ・・・ヤソック怒った? そうよね・・・私ってば、久々だったものだからつい会話に夢中になってしまって・・・無神経だったわ。本当にごめんなさい。どうしたら許してもらえるかしら・・・」
上目づかいで申し訳なさそうに謝っているジョナスに、ヤソックの目は釘付けになってしまう。彼女が自分の為に走って来てくれた。自分の為にこんなに謝ってくれている。怒ったことに気づいてくれただけでなく、友人のスカイよりも自分を選んで追いかけて来てくれた。
学生時代にどんなに努力してもスカイに勝てなかった自分が、今こうして彼女に優先されるようになった。ヤソックはジョナスを見つめながら自分の心が喜びに震えるのを感じた。
「謝らなくてもいいよ。大丈夫、心配しなくても僕は君に怒ったりなんかしない」
そう言ったヤソックは少し目元を赤くしながらも、フッ、と笑ってジョナスの髪に手を伸ばした。
「どれだけ走ったの? 髪がこんなに乱れてしまってる」
ジョナスの柔らかな髪が指に絡みつく。このまま艶やかな髪に口づけ、ふっくらとした彼女の頬に手を伸ばしたい・・・。
気づいた時には、暴走しかけていたヤソックの魔力はすっかり落ち着きを取り戻していた。
会話の中で聞こえてきた言葉に、ヤソックは一気に現実に引き戻された。
(は!?・・・何言ってんだ・・・こいつ)
「いや、ロステルが第二に戻りたいって団長に言っててさ」
「え、ロステルが?」
「ああ、だけど第二にはやっぱりジョナスの他にも魔法使いが必要だろ?だからロステルと一緒に俺も異動したいって話してて・・・。俺の魔力が弱いのは認めるけど、水と氷の相性は抜群だろう?ジョナスが出した水を凍らせるだけならそこまで魔力も消費しないし・・・って、おい、なんだよその顔! 俺だって学生の頃に比べたら魔力量も増えたし技術だってかなり上がったんだぞ!」
そこまで聞いたヤソックは自分の平常心を保てなくなるのを感じた。
「ジョナス、もう行こう。他の人たちの邪魔になっているよ」
突然表情の消えたヤソックに気がつき軽く目を瞠ったジョナスであったが、ここが魔法の訓練所だった事を思い出すと、二人に向かって申し訳なさそうに謝った。
そんなこと気にするなと言ったスカイが、俺たちの仲だろ?とジョナスの肩に手を置くと、それを冷やかに一瞥したヤソックが二人を無視するように出口に向かって歩いて行ってしまった。
「あいつ、第二でもあんな感じなの?」
スカイのうんざりしたような顔を不思議に思ったジョナスは、「ん?」と首を傾げる。
「さっきまで優しそうに笑ってたけど、あれって全部作り笑いだろ?本当はあいつが一番俺達を見下してると思うぞ」
「え、そう? そんなふうに思ったことないけど・・・。スカイは彼に何か言われたの?」
「いや、何も?」
「だったら―――」
「俺なんて相手にもされてなかったからな。今だってお互い挨拶もしなかっただろう?」
「あ・・・いや、でも」
「いくら仕事といえど、あんな奴に合わせなくちゃいけないなんてお前も大変だな。早く俺とロステルの異動が正式に決まればいいけどな。まあ、何かあったら言って来いよ。話くらいは聞いてやるからさ。時間見つけてまた飲みにでも行こうぜ!」
そう言って爽やかに笑うスカイに対し、ジョナスは疑問に感じながらも笑顔で別れを告げた。
誰にでも温厚で礼儀正しいヤソックだが、スカイが持つ彼の印象はそれとは随分違うようだった。
ジョナスは変な違和感に首を傾げながらも、先に行ってしまったヤソックの後を追った。
魔法訓練場を出たヤソックは、不機嫌な顔を隠すこともできないほどに苛立っていた。
(なにが第二騎士団に異動だよ。馴れ馴れしくジョナスの肩に手なんか置きやがって!俺が第二に入る為にどれほどの根回しをしたと思ってるんだ。・・・あいつらの思い通りになんて絶対させない。これからジョナスを支えるのは、彼女と同等の強い魔力量を誇る俺だけだ)
あまりの怒りに我を忘れそうになったヤソックの体から、じわじわと魔力が漏れ出てきた。
(やばい!!)
咄嗟に心を静めようと深呼吸したが気持ちが粗ぶっているせいか静まるどころか新たな魔力がどんどん溢れてきてしまう。
(駄目だ、止まらない! 早く人のいない場所に)
焦って走り出そうとした時、大好きな人の声で名前を呼ばれた。
「ヤソック、ごめん」
走って来たのだろう、ジョナスは随分と呼吸を乱している。はあ、はあ、と荒い息を吐きながら謝るジョナスはヤソックの魔力が漏れ出ていることに気が付いていないようだった。
「ごめんね。忙しい中、せっかく私の為に時間を作ってくれたのに。ねぇ・・・ヤソック怒った? そうよね・・・私ってば、久々だったものだからつい会話に夢中になってしまって・・・無神経だったわ。本当にごめんなさい。どうしたら許してもらえるかしら・・・」
上目づかいで申し訳なさそうに謝っているジョナスに、ヤソックの目は釘付けになってしまう。彼女が自分の為に走って来てくれた。自分の為にこんなに謝ってくれている。怒ったことに気づいてくれただけでなく、友人のスカイよりも自分を選んで追いかけて来てくれた。
学生時代にどんなに努力してもスカイに勝てなかった自分が、今こうして彼女に優先されるようになった。ヤソックはジョナスを見つめながら自分の心が喜びに震えるのを感じた。
「謝らなくてもいいよ。大丈夫、心配しなくても僕は君に怒ったりなんかしない」
そう言ったヤソックは少し目元を赤くしながらも、フッ、と笑ってジョナスの髪に手を伸ばした。
「どれだけ走ったの? 髪がこんなに乱れてしまってる」
ジョナスの柔らかな髪が指に絡みつく。このまま艶やかな髪に口づけ、ふっくらとした彼女の頬に手を伸ばしたい・・・。
気づいた時には、暴走しかけていたヤソックの魔力はすっかり落ち着きを取り戻していた。
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