優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

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学生の心無い言葉

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 本人の気持ちは別として、第二騎士団から第一騎士団に異動になったロステルは、言わば大きな出世といえる。
問題はその逆の立場の人間だ。現在、第二騎士団に所属する魔法使いはジョナス一人。しかもジョナスの魔法はあくまでも補助にしか使えないということになっている。
そうすると必然的に第一から異動してくる者への期待が高まってしまう。

だがエリート集団から一人抜けるその人物は一体どう思っているのだろう。
それを思うジョナスからは、どうしても深い溜息が漏れてしまう。
ジョナスは過去にそんな彼らと同じ魔法学校に通っていた・・・。

膨大な魔力量を誇るジョナスが、洗濯メイドを自分の仕事に選んだ理由。
それは、この魔法学校で幾度となく思い知らされた彼らとの価値観の違いからだった。

そもそも魔法を使える人間は、貴族の中でも爵位の高い者が大半であった。稀にジョナスのように爵位の低い家や平民の中にも現れることがあるが、魔力量はとても少ないことがほとんどだったので、学園内の上下関係は貴族間の爵位と同じようなものであった。

日々、彼らの心無い言葉がジョナスを戸惑わせ、魔法で人々の役に立ちたいと思っていた純粋な気持ちを失望に変えた。
魔法使いの彼らは、自分達が誰よりも優れていると錯覚しており、そもそも他の命などには関心すら持っていなかったのだ。

すっかり上を目指す意欲を失ってしまったジョナスであったが、彼女と同じような考えを持つ友人のお陰で学園生活はそれなりに楽しめたし、人の為になる仕事に進むきっかけにもなった。


 ジョナスは大きなタライの中に両足をつけると洗濯物をジャブジャブ踏み洗いしながら忘れたくても忘れられない当時の言葉を思い出す。

『戦闘? そんなもの後方で適当に援護すればいいだけだろ?』

『魔法省に入れば戦場にも行かなくていいし、この先は魔法に関する法律もそうそう変わることもない。研究って言ったって、もう大半の調べは付いてるんだから、まあ楽なものだよな』

『騎士団って言っても、第一騎士団は半分以上が魔法騎士よね。命を賭けて戦うのは剣を振るうことしかできない無能な者たちのことでしょう?』

『ははっ、あいつらだって命を落とすようなドジさえ踏まなければ、回復魔法で復活できるんだ。もっと俺達魔法使いに感謝するべきだよな』

実際に騎士団に入団して実戦を経験した者であれば、何も知らなかった学生時代の自分を恥じたことであろう。敵の恐怖をたりにした上、仲間を失うどころか自分の命ですら簡単に落とすかもしれない日々に直面するのだから・・・。

けれど、そんな彼らがいくら現実を知ったからといっても、これから先は自分の大切な夫がそんな彼らと行動を共にするのだ。
ジョナスは学生時代を思い出す度に様々な感情に支配されてしまい、どうしても心が落ち着かなかった。

これからは魔力を持たないというだけで人を蔑むような人間と、夫だけではなく自分までもが一緒に仕事をすることになる。
考えれば考えるほど頭の痛くなる思いだった。
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