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新婚生活

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 初めての気持ちにロステルは困惑していた。いくら考えないようにしても、どうしても自分の目は彼女の姿を追いかけてしまう。
それでも見ているだけで満足していた頃はまだ良かった。そのうち話しかけてもらいたくて彼女の側に行くようになってしまった。

そうすれば何も考えていない彼女は近くにいる自分に話しかけてくれる。ロステルが無理に表情を作らなくても、頑張って言葉を発しなくても、ジョナスは一人で話しながら楽しそうに笑ってくれるのだ。
彼女が自分を見て話しかけてくれることが嬉しかった。彼女の側にいるだけでなぜか心が温かくなりどうしても目が離せなくなってしまう。

だから結婚を受け入れてもらった時は本当に嬉しかった。

ジョナスを陰で慕っていた人間はヤソックだけではなかったし、彼らがいつジョナスに近寄って来るのかと考えると心配で夜も眠れなくなっていた。
結婚が決まってからも、離れたくない、ずっと側にいたいと思う気持ちは日々募って行った。遠くからジョナスを見つめているヤソックを何度も見かけたが、その度にわざとジョナスに触れて彼女は俺のものだと知らしめた。

洗濯物を干しているあの場所には、男女を問わずジョナスを好きな人間がたくさんいた。
ただ単に彼女の水魔法に癒されている者もいれば、純粋に彼女を慕っている者もいた。だが彼女がそれに気づく気配は全くなかった。

唯一、自分が好かれていると知ることが出来た相手は、短い言葉ではっきりと結婚を申し込んできたロステルただ一人だけだったのだ。

結婚を申し込んだ後も彼の少ない口数は相変わらずだったが、熱のこもった眼差しは決してジョナスから離れることはなく、常に彼女への強い愛情を表していた。
ここまではっきり言われたなら、さすがに鈍すぎるジョナスでも彼の気持ちは理解できたし真面目な性格のロステルを彼女はもともと好意的に見ていた。

面倒な駆け引きや誤魔化しを嫌うジョナスに、寡黙であっても本当に思ったことは口にするロステル。二人はとても純粋で素直という意味で似ていたのかもしれない。


こうして二人は結婚した。


爵位を持たないロステルは、男爵家であるジョナスの両親に反対されるのではないかと密かに心配していた。
だが、ジョナス本人が結婚した後も今の仕事を続けたいと言っていることもそうだが、寡黙なロステルと一緒にいる娘からは、無理をしている様子が一切見られないと言うことが何よりも彼女の両親を安心させた。

そもそも、ジョナスに貴族の奥様が務まるわけがないということを一番よく分かっていたのは彼女の両親なのだ。
そんなことで二人の結婚は思った以上にあっさりとまとまった。

 結婚した二人は、ロステルの父親であるモンテナス伯爵が用意してくれた小さな一軒家で生活を始めた。
本当はもっと大きな屋敷と数人の使用人を用意すると言われたが、二人は小さな一軒家で庶民らしく質素な暮らしを望んだ。
それまで一人暮らしをしていた二人には、使用人も広い屋敷も必要なかったし、魔法使いのジョナスと騎士のロステルに防犯面での心配もいらなかった。

結婚してもロステルの無表情は健在であった。それでも返事もしない夫を相手にジョナスは毎日嬉しそうに話しかけていた。
ロステルが妻を無言で追いかけまわすことも変わっていない。それは職場でも家の中でも同じだ。
ジョナスが気付いた時、夫は必ず近くにいるのが今となっては当たり前のことになっていた。結婚してその距離はさらに縮まり、今もこうして後ろから夫に抱きしめられながら彼女は本を読んでいる。

本当は今すぐにでも寝室に連れ込んで、目一杯愛し合いたいロステルであったが、彼がいくら妻の肩にぐりぐり頭を擦り付けて甘えようと、ひんやりとした頬に吸い付くようにキスをしようと、本の世界に入り込んでいるジョナスには気付いてもらえない。

彼は知っているのだ。何事も自分が喋らないのが悪いということを。何も言わないのだから気付かれないのは当たり前、ましてや自分の妻はそのような細やかな神経は持ち合わせていない・・・。だからロステルは、寝室に行きたいのを我慢して妻の読んでいる本の話に耳を傾ける。

「もうっ! アルフォンスが大事なことを全然言わないからどんどん二人の仲が拗れるわ! なんてじれったいのかしら。心の中ではミズリーナへの愛を何十回も叫んでいるというのに本人に何も言わないで、そんなもの伝わる訳ないじゃない!!」

・・・少々耳の痛い内容であってもロステルは黙って聞く。

そんなロステルだったが、彼はいつだってジョナスとの生活には満足していた。
彼女は働き者だった。夫と同じ第二騎士団での仕事も、王宮での洗濯メイドの仕事だって決して楽ではないはずだ。頑張り過ぎた日には魔力切れを起こして動けなくなることだってある。それでも家に帰るなり掃除に洗濯に炊事が待っている。ロステルだってもちろん手伝うけれど、文句も言わず元気に働く妻に感謝しない日はなかった。
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