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二人は夫婦
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夕方の街はずれ、突如現れた中型の甲虫魔獣めがけてジョナスは得意の水魔法を放った。
彼女の両手から放たれた大量の水が数匹の虫魔獣を丸ごと包むと、飛べなくなった魔獣は水と共に次々と地面に落ちて行く。
すると、ロステルを先頭に数人の騎士が走り込んで行った。彼らの剣が動けなくなった魔獣を突き刺し、息絶えると同時に魔獣を包んでいた水も弾け飛んだ。
水魔法の使い手である洗濯メイドのジョナスと第二騎士団に所属しているロステルは、魔獣討伐のコンビといっても言い過ぎではない。
普段は王宮での洗濯に重宝されているジョナスの水魔法が、戦闘開始の合図により騎士団を優位に導く攻撃魔法に変わる。
「あーあ・・・、早く着替えないと風邪を引いてしまうわ」
ジョナスの水魔法によってずぶ濡れとなったロステルは、彼女にされるがままに腰を曲げ頭をガシガシとタオルで拭かれている。
「私が風魔法でも使えたら、風邪を引く前に乾かしてあげられるのにね」
残念だわ。と呟くジョナスに、ロステルは何も言わずに濡れた前髪の隙間から彼女を見つめていた。
「はい、終了。後は私達で片付けるからあなたは着替えてきてね」
そう言って背を向けようとしたジョナスの手を引いたロステルは、無表情で自分の目の下を指差した。
「ちょっ、もうっ、それくらい自分で拭きなさいよ!」
呆れて笑うジョナスは、なんだかんだ言いながらもその少しの水滴をちゃんと拭いてくれる。
ロステルはそんな彼女を知っているから子供のように甘えることができる。
ほとんど変わらぬ表情とあまりに少ない口数。
ロステルが抱えるそんな引け目や欠点などは、きっと目の前の彼女が驚くほどの水量で全て押し流してしまうだろう。
ロステルが甘えられるのも我儘になれるのも、小さなことなど気にしない大きな器を持つ彼女の前でだけだった。
ジョナスに顔の水滴を拭いてもらって満足したロステルは、着替える為にジョナスに背を向けて歩き始めた。
しかし数歩進んだところで後頭部にピューっと冷たい水が当たるのを感じた。
ばっと振り返ると、やはり犯人はジョナスだった。
こちらに向ける人差し指の先から細い水を出して自分を狙ってくるが、堪えきれない笑いのせいで手がプルプル震えてしまい水は真っすぐに飛んでこない。
ロステルが無表情で走り出すと、キャーキャー騒ぎながらジョナスは逃げ回った。
そんな仲の良い二人は、夫婦であった。
彼女の両手から放たれた大量の水が数匹の虫魔獣を丸ごと包むと、飛べなくなった魔獣は水と共に次々と地面に落ちて行く。
すると、ロステルを先頭に数人の騎士が走り込んで行った。彼らの剣が動けなくなった魔獣を突き刺し、息絶えると同時に魔獣を包んでいた水も弾け飛んだ。
水魔法の使い手である洗濯メイドのジョナスと第二騎士団に所属しているロステルは、魔獣討伐のコンビといっても言い過ぎではない。
普段は王宮での洗濯に重宝されているジョナスの水魔法が、戦闘開始の合図により騎士団を優位に導く攻撃魔法に変わる。
「あーあ・・・、早く着替えないと風邪を引いてしまうわ」
ジョナスの水魔法によってずぶ濡れとなったロステルは、彼女にされるがままに腰を曲げ頭をガシガシとタオルで拭かれている。
「私が風魔法でも使えたら、風邪を引く前に乾かしてあげられるのにね」
残念だわ。と呟くジョナスに、ロステルは何も言わずに濡れた前髪の隙間から彼女を見つめていた。
「はい、終了。後は私達で片付けるからあなたは着替えてきてね」
そう言って背を向けようとしたジョナスの手を引いたロステルは、無表情で自分の目の下を指差した。
「ちょっ、もうっ、それくらい自分で拭きなさいよ!」
呆れて笑うジョナスは、なんだかんだ言いながらもその少しの水滴をちゃんと拭いてくれる。
ロステルはそんな彼女を知っているから子供のように甘えることができる。
ほとんど変わらぬ表情とあまりに少ない口数。
ロステルが抱えるそんな引け目や欠点などは、きっと目の前の彼女が驚くほどの水量で全て押し流してしまうだろう。
ロステルが甘えられるのも我儘になれるのも、小さなことなど気にしない大きな器を持つ彼女の前でだけだった。
ジョナスに顔の水滴を拭いてもらって満足したロステルは、着替える為にジョナスに背を向けて歩き始めた。
しかし数歩進んだところで後頭部にピューっと冷たい水が当たるのを感じた。
ばっと振り返ると、やはり犯人はジョナスだった。
こちらに向ける人差し指の先から細い水を出して自分を狙ってくるが、堪えきれない笑いのせいで手がプルプル震えてしまい水は真っすぐに飛んでこない。
ロステルが無表情で走り出すと、キャーキャー騒ぎながらジョナスは逃げ回った。
そんな仲の良い二人は、夫婦であった。
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