神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

王都

食事

　襲撃者たちを街の警備兵に引き渡し、屋敷の使用人たちは片付けと朝という大忙しの時間においでなさってくれたお客人のおかげで公爵家としては2時間遅い朝食となった。

「皆様、少々……いえ、かなり遅い朝食となりますのでお昼も近いということで軽いものを用意いたしました」

　クスリと女主人フランソワが使用人に笑う。

「あなた方も大変な目にあったというのに、用意してくれてありがとう。さあ、食べましょうか」

　一口代のサンドイッチにサラダ、綺麗に切られたフルーツが綺麗に盛られている。

　病み上がりであるマリの所にはパン粥やスープなどが置かれている。

　フランソワの声にゆっくりと娘のアリアーナやユリウスも口に食べ物を口を持っていく。

「どうした？食べないのか？」

　ソワソワと落ち着かない様子で、キョロキョロと視線を彷徨わせているマリにそっと静かに声をかけたユリウスは主人マリの視線をを追う。

　綺麗に磨かれたカトラリーや食器、テーブルクロスがあった。

「………高そうで動けないと」

　少々呆れたような心配して損したという様な表情を出していた。

　パクパクと声にならず心で叫んでいた。

（一般家庭の普通の暮らししかしてないよー！壊して汚すのが落ちだよっ！）

　心と心で会話などできないが心情を悟った彼は可笑しそうに笑う。

　そして、静かに笑う声がもう一つ。この屋敷の女主人であるフランソワ。

「汚しても構いませんわ。お気持ちだけで結構ですわ」

「今は美味しくお食べになってくださいな」

　女のアリアーナもおかしそうにしながら、マリを見ていて、さあさあと目で促していく。

「い、いただきます……」

　そっと恐る恐るスプーンを手に取り野菜を細かくして煮込まれたスープを口へ運び入れた。

　口に入れた瞬間、トマトの酸味と玉ねぎによく似た酸味と甘味が口いっぱいに広がり、マリの目がキラキラと輝いた。それを見たフランソワとアリアーナはふっと同じような笑みを浮かべ自分たちの食事を再開した。

「口にあったみたいだな、野菜を煮たスープ結構すぎだからなお前は」

「手頃に野菜が食べやすくて加熱したら栄養が増すものもあるから……好き…」

　慣れない人物がいる為か、言葉はいつものゆったりした話し方ではなく。少し固く緊張したような声色で話す。

「そうか」

　ポンっと頭に手を置く。

「しっかり食べて、今日1日は動き回るなよ、街の散策は明日からな」

「うん、そのつもりだけど、なんで？」

「…今夜から明日の夜にかけて俺は抜ける。ここの家はいいが他の貴族には気をつけろ。というか顔見知り以外警戒しろ。認識阻害をきちんと使え……あと、気配察知も使え、妙な奴には近づくなよ。それと……」

　次々と話していくユリウスを手で制して止める。

「ま、まって、私子供じゃないし、お菓子に釣られてついていかないし、元々人見知りだし他人に興味薄いし」

「ここは王都だ。主人がここにきていることはもう貴族に知れ渡ってる。気をつけることに越したことはない」

　ユリウスがマリについているのは貴族がマリへ何かしらのコンタクトで機嫌を損ねさせたり、大きな問題に勝手に巻き込まれることを避けるためだ。

　森で暮らしていたことになっているマリは他の冒険者に比べ、貴族への他者の仕方を知らない。

　教えても魔法で水浸しか氷漬けにしてしまうのではないかという危惧をしユリウスをつけられた。

　他にも事情はあるにしろ、貴族への対処要員である、ユリウスは最低限の自衛、ということいつになく言葉を発していた。

「さっきも言ったがここは王都だ、気をつけることに越したことはない。付けられているかどうかも気にしろ」

「気配察知を使えってことね」

　マリ自身気配察知のスキルを身につけているが熟練度は高いが、普段魔物相手などに使っている為、人間相手は不思議と普段より疲れる為苦手意識が高い。

　そこら辺は本業が本業あんさつしゃだけにマリが気づかなくても彼は気づいていることの方が多いように思う。

ソグムの街にいた頃も何回か敵を撒くように指示をされたことがある。あちらも糸筋縄では気がつかせてくれないようだった。

「……人相手の気配察知は苦手だけど頑張る」

「まあ、気をつけることに越したことはない。本当の意味で一人にはならないようにしとく。信頼ができる同業が勝手についてるとは思うが……」

最後の方は聞こえないほど小さく言われ首を傾げるマリに容赦なく、手をつけていないパン粥を口に入れられる。

「さっさと食え」

それだけ言うと気は済んだのか淡々と食事を続行したのでまりも食べれるだけ食べ、部屋に戻ることにした。