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王都

エインズワーズ家

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悲鳴や怒鳴る声が部屋の外から聞こえる。

そして、何より体に誰かがへばり付くように震えながら両手を握られている。

「マリ様…マリ様だけでも逃さなければ…」

震えた声がマリの体に落ちてくる。

よく周りを聞けば金属と金属がぶつかり擦れる音と悲鳴などは人がいる場所から少し離れたところで聞こえる。

記憶を辿れば、王都の門をくぐる列で体調が悪くなり、ユリウスに薬を飲まされたことは覚えている。

ここは宿なのだろうか、それにしても宿の主人が緊急の事態と言えど客の手を取ることはあり得るだろうか。

おかしいと思い、薄らと目を開ければメイドだということがわかるよく漫画やイラストなどでみるあの服装をした女性が潤んだ瞳が、目を見開き歓喜したような驚いたようななんとも言い難い感情をマリの瞳に移した。

そして、よく知る白梟…ネェージュが擦り寄ってきた。

久々の言葉が頭に浮かぶ感覚にピクリと握られた手が揺れる。


「あ、申し訳ございません……!」

メイドは謝りながらマリの手を話した。

そんなメイドにちらりとメイドを見た。

涙の理由も理解した。

“ここはエインズワース家、ソグムの街で騎士をしている男の生家。予期せぬ襲撃で屋敷中混乱中、私営騎士団が対処してるが押されてる。ユリウスも交戦中”

むくりと起き上がったマリはちらりとメイドに再び目をやり少し考えた。

「……私の短剣は?」

「え?あ、こちらに…」

アイテムスペースからこの世界に転生してから街に来るまで使っていたものを取り出しても良かったが、無闇に空間魔法で荷物を取り出しているのを見られると厄介なので、媒体と一体化の短剣を使うことにした。

荷物は管理されていたのかすぐに手渡せれた。

鞘から抜かず、握り手を持つとネェージュの頭を撫でた。

目を瞑り、人の気配を探せばあちこちに戦っている人たちと、怯えて固まっている人を気配で感知したが、どちらが敵なのか曖昧だ。

「ネェージュ、襲撃して来た敵をなんでもいいから教えて。その間に戦闘ができない人を結界で囲うよ」

「ホォ!」
心得たとでもいうように鳴いたネェージュはまだから飛び立っていく。

見送ったマリは大きく一つ息を吐き、屋敷敷地内で震えて留まっている人たちをこの部屋を含めて頭の中でドーム型に結界が張られるイメージをして目を開ける。

魔力を手のひらから短剣へと流し、装飾された石がきらりと輝いた。

目には見えない膜が張られ、ゴブリン討伐の時のように攻撃されれば反撃ができるようにしておく。

「氷の種」

そう呟けば結界の張られた直径に沿うように等間隔で松の実のような形をした氷の結晶が生まれる。

結界の中にいる人たちは突然沸いたその氷に怯えた表情を見せた。

しかし、マリがいる部屋から少し離れた部屋で怯えて執事の腕の中にいた綺麗なドレスを身につけている少女に剣を向けて振り下ろす襲撃者。

剣は二人に届かず阻まれジワリと伸びた氷が体に触れればそこから徐々に凍っていく。

「うん、うまく行ってるみたい……」

ほっと一息、息を漏らしベッドから床へと足をつけるとメイドが駆け寄ってくる。

「動かれて平気なのですか?」

心配する声が出されたが、その手にはいつも履いているブーツが持たれていた。

「大丈夫……だと思う。お姉さんはここにいてこの部屋に結界を張ったから、出なければ安全」

さっと渡されたブーツを履き服装は変えずそのまま部屋を出る。

部屋にいた時より一段と大きく当たり前だが戦闘している音がよく聞こえる。

走り出そうとしたマリの前方からネェージュが、羽を羽ばたかせ綺麗な動作でマリの方に止まる。

“敵に花を咲かせた。それが目標”

ネェージュから端的に伝えられる。

用は済んだと飛んでいく。彼女もマリに似て自由な鳥だ。

クスリと笑い今度こそ走り出し、音のする方へと向かえば剣を持った青い服を着た男と黒いフードを被った男が、戦っていた。

フードをかぶった男の背には小さな可愛らしい水色の花が咲いていた。

(これってわざわざ目印つけてもらう意味ってあったかなぁー)

いかにも敵ですという格好にため息がつきたくなった。

青い服を着た男は敵越しにマリに気づき力が緩んだのか押されかけたが、意識を敵に戻し均衡を保った。

「水流とともに氷の礫」

短く魔力の籠った声と短剣に魔力を流せばイメージ通りに敵に向かって勢いよく水と氷の粒が的に命中し、背後から押される形で倒れ、すかさず拘束した。

確認したマリは次の場所へと向かう途中に過ぎていった部屋から悲鳴が聞こえる。

「きゃー!!」

大人の女性の声だった。数歩戻り勢いよく開ければ。紫のドレスを身に纏いきれいに髪がゆわれた貴婦人と、頬に皺ができた貴婦人と同年代であろうメイドが二人寄り添うように怯えていた。

その前にはこちらを向いたフードの男がいた。ゆっくり伸びた蔦が気が付かれないように巻き付いた

「氷よ伝い凍れ!」

ダンっと勢いよく地面を踏むように下せばそこからメシメシと音を立て凍っていく。敵の足元にたどり着くと徐々に氷、男は氷のオブジェとなった。

「あの、その周りの氷の内側にいてください、結界はってありますから、出ない限り攻撃を受けません」

それだけ言い残してまた廊下を走る。

階段を降れば吹き抜けになった場所につきその下では大勢の人が戦っていた。花の目印つきも何人か存在して隙を見て何処かにいこうとしている輩もいた。

「滝の激流!」

その輩は激流に押し潰され気を失う。動けないように水分を凍らし拘束した。

戦っている人をよく見ればユリウスとディルク・エインズワーズの姿もあった。
手すりに手を置きグッと手に力を入れそのまま飛び越え二人の近くに少しと音を立てて着地した。

綺麗には着地したが振動が伝わりぴょこぴょことジャンプを繰り返した。

「ううっ、いっーたーい…」

敵の剣を防ぎいなしながらもこちらに顔を向けた声をかけた。

「あまり無理はするな、病み上がりが」

「大丈夫ー、それで?なんで襲われてるのー?」

周りのが戦っているが通常運転のマリからの疑問にため息をつきながら、殺しはしていないが鋭い一撃で沈めたユリウス。

「現国王の右腕で頭の宰相の家」

「てことはこの国で二番目にエライ人のお家?でよく知ってる騎士さんは結構な御坊ちゃま?」

ユリウスの返答に眉を顰めて頭の中に浮かんだ人と同一人物の人に視線をやりつつ攻撃を仕掛けて来たフード男の攻撃を短剣で防いで、剣を飛ばし剣を持っていた方の肩を刺す、そのまま倒れ込んだ男を氷の礫で四方を釘付けするようにして動きを封じた。

「そんな言われ方をされると恥ずかしいですが、そうなります。色々お聞きになりたいと思いますがこいつらをなんとかしないといけません」

「ここは俺らが制圧するから二、三階に行った敵を頼む」

「三階には母上と妹がいますのでお願いします」

「あー戦闘ができなさそうな人の周りに結界と反撃用の氷を張ったからそこは大丈夫じゃないかなー?」

パチクリと瞬きをすれば、襲撃されているが口を開けて笑い出した。

「ははっ今回マリさんがいて本当に良かった」

心からの言葉にむず痒くなり、逃げるように二階へと逃げる姿に騎士と暗殺者はクスリと笑う。
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