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蠢く影

休息

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「……マ……リ……ん」

誰が名前を呼んでいる気がする。
起きたいが体が重く、ガンガンとハンマーで殴られているような感覚の痛む頭に熱った身体それなのに内側は底冷えのように冷たくて動けない。
辛うじて動くのは指先ぐらいだ。

首の後ろに何かが入り込んできて上半身を起こされ、口に筒状のものを入れられて苦味のある液体が口の中に広がり、息苦しくなり飲み込んでいく。

液体を飲み込むと体の内側が僅かだが暖かいと感じた。
また液体が流れてきて飲み込んだ。

右手が握られて手のひらからも温かいものがじんわりと染み渡っていく。

「これで、魔力を回復と暴走はなんとかなりそうですね」

だれ……?

聞き覚えのあるような声が僅かに意識が戻ったマリの耳に届いたけれど誰のものか認識する前に、また深く眠りに落ちた。



♢♢♢♢♢♢♢

「ん……?」

少し温かい日差しがマリの顔をカーテンの隙間から浴びてゆっくりと瞼を開ける。

ぐいぐいと肩のあたりを柔らかいものが押してくる反対側の手で触ると手触りのいい羽がマリの手を包む。

「ネェージュ……おはよ……ってここはどこかなー


掠れたマリの声が空気を揺らして部屋の中に響く。

視線を天井に向けると深い青色の手触りの良さそうな生地が目に入った。体を起こしてあたりを見渡しても全く知らない部屋。

壁は白く置かれている家具も木彫りがされ、装飾も綺麗に施されお高そうな物が置かれていて、マリの寝ていたベットも縁取るように金の刺繍がされていて掛け布団も軽く温かく、滑るように手触りがいい。

「天蓋付きのベッド……」

寂しさを紛らわせる様にずっと擦り寄ってくるネェージュの背を撫でながら、自分に何が起こったかを思い出していた。

「そういえばゴブリンジェネラルとゴブリンキングを倒すために有りったけの魔力使ったんだっけ?」

魔力を込めた火の魔石を使い、爆弾がわりに放り投げたまではいいがそこから先記憶がない。

「ネェージュ…ありがとう。心配かけて…」

「ホォー!ホォ…」

抗議するように鳴いた後にマリを突き、寂しそうに小さく鳴くとぐりぐりと頭を顎に寄せられ反動で上を報いてしまう。

「ごめんで……………あれからどうなったんだろう?」

ぐうぅ~!

マリの思考とは裏腹に体が空腹を訴えて来た。ここがどこかもわからずアイテムスペースから食べ物を取り出す勇気もなく。

どうしたものかと下を向くと白いネグリジェに着替えさせられていて装備品が一切ないことに気がついた。

「まあ、そうだよねー……」

ベッドに寝かせられていたのだからそれなりの格好にはさせられるだろう。
ここは多分裕福な家だろうから人手もあるだろう。

コンコン

控えめな扉を叩く音が部屋の中に響き、静かに入ってきたメイド服に身を包んだ女性2人の手には水差しと湯気の立った桶とタオルと病人用の水差しがあった。

向こうは完全にマリが起きてないと思っていたのかベッドの上で体を起こしていたマリを見ると目を見開く。

「しっ失礼しました。お目覚めになられようございいました。お体を拭かせていただいてもよろしいでしょうか?マリ様」

わずかに驚きはしたもののすぐに冷静さを取り戻したのか慌てることなく、水差しを持った女性が言葉を口にした。

「はい、その……お願いします」

「何か食べられそうなら消化にいいものを用意いたしますがいかが致しましょう?」

ぐうぅーー

空気を読んだのか読んでいないのかお腹がなり赤くなりお腹を抑えたマリにクスリと笑うとお辞儀して出て行ってしまった。

これは何か持ってくるのは確定だ。お腹が減っていたのでありがたいが恥ずかしい。

残った桶を持った女性が静かに近づいてきてテーブルに荷物を置くとゆっくり布団を捲った。

「それでは食事の用意ができるまでにお体を清めてしまいましょうか?」

にこりと優しく微笑みをくれているはずなのにその笑みが無性に何故かぞくっと恐怖を感じた。



清めてもらっただけなのに何故か疲れたマリ。
終わった頃を測ったように先程の女性が食事を手にして戻ってきて。コロコロとサービスワゴンを押してマリのところまでやってくると少し深さのある皿を取りスプーンで掬い息を吹きかけてから口元に差し出してきた。

「あの……一人で……いただきます」

有無を言わさぬ笑みを浮かべられて逆らうことなく口を開ける。

恥ずかしさで顔が火照るのが分かる。
試しにスプーンを持たせてくれたが力が入らず、落としてしまいそうになり、何も言わずに食べさせてもらうことにした。

食べ終わるとまた眠気がやってきて、船を漕ぎ始めたマリの口に丸い苦味のあるものが転がされ水を流された。飲み込むとベッドに横になるように促されそのまま眠りに落ちた。

次に起きた時にはソグムの領主が部屋にやってきて落ち着かなかった。
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