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憑依に至るまでの話

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俺は今人型のロボットに乗っていた。
全長は10メートルちょいぐらいで、見た目は白い西洋甲冑だ。
のっぺりとした顔に目元の切れ込みが特徴的といえば特徴的か。
ちなみに周りは魔物だらけ、ロボットに乗っていれば数だけが取り柄の雑魚魔物共と言える存在が相手だ。
ファンタジーの雑魚敵といえば、スライムかゴブリンが思い浮かぶだろう。
コボルトやオークもいるかもしれないな。

そんなやつらが数千匹以上群がっていた。

俺は指パッチンでクレーターを作れるほどの大魔法が唱えられるチート転生者でもチーターでもないただの一般ゲームプレイヤーだ。
こいつらを倒すのも一苦労ではある。

機体を動かしてチマチマ倒すしかないのだ。
だがそれが、それこそが楽しい。

一体の巨人が足元で群がる魔物相手に無双しているのだ!

敵の魔法による射撃をすり足で避ける!

そのまま足元に群がるゴブリンやコボルトをズリっとすり足でミンチにし、手に持った刀を振り近くのオークやオーガなど中型の敵を屠る。
オークやオーガはこちらの半分ほどの大きさ、大体5メートルぐらいの奴らだ。

生身じゃなかなか苦労する相手だな。

刀を振り払う動きに合わせて全身を回転させまとわりついてきていたスライム共を振り解く。

自爆するタイプのスライムや装甲を溶かしたり油を撒いたりなどしてデバフを与えてくるタイプのスライム共だ。
地面に隠れているのはもちろんのこと後方の魔法使いの手で転移させてきたりオークなんかが投げつけてきたり俺の機体にくっついてくる地味にうざい奴らだ。

空中にその体を飛ばしたスライムの自爆の爆風がさらに魔物を殺す。
爆風に乗ったスライムの体液が広範囲の魔物にデバフをばら撒く
俺はそのまま駆ける。

止まらず、あらゆる動きで敵を殺す。
これは生身の体ではなく、魔法の合金を全身に使った巨大なロボットだ。
刀だけではなく全身が武器となる。
蹴りやパンチだって鍛え上げたプレイヤーの補正で十分な威力になるのだ。

ほれ、かかと落とし。
潰れるオークを仕留めたことだけを確認してさっさっと意識を次へ。

「火器なんて邪道だ」

出撃前に機体の両肩両腕に装備していたミサイルランチャーやらアサルトライフルなどの存在は都合よく忘れていた。
今あるのは刀一本に機体だけだ。
このゲームを始めたばかりの頃は遠距離魔法や銃火器に頼っていたが、やり方がわかれば近接で殴るのが一番早い……。

銃の弾薬が集められればそれが一番早いのだがすぐ弾が切れて結局殲滅スピードが遅くなる。
弾薬はそんなに持ち運べないし高価だ。

近接最高!

殴って殺せば良いのだ。

まったくいつやってもこれは、ここだけは神ゲーだ。
接近戦ゆえに咄嗟の判断と数手先を予測する事を同時に要求される。
視野を広く、されど考えすぎずに囲まれないよう最小限の動きで機体を動かすのだ。

これがパズルの様で楽しいのだ。

ただ未だにこのゲーム中に感じる胸やら股間の違和感だけは慣れないが。

戦況を確認すれば、司令本部へと魔物が迫っていた。

主力は何をやっていたのか……あ、好感度上げやってねぇわ。
フラグを立ててイベントを進めてないと司令部にいるキャラの一人が司令部事ここで死ぬんだったな。
イベント的にはどうでもいいイケメンが死ぬだけだがここまで戦って敗北はないな。

「ちっ、赤字だが仕方ない。生徒権限申請! 軌道爆撃をポイントA29へ」

貯めたポイントを使って爆撃を要請するのはこういう戦闘するゲームではよくあることだよな。

今やっているのは乙女ゲーなのだがなぜにここまで戦闘に凝っているのか全くわからない。
何故乙女ゲームとして販売されたのか。

「軌道爆撃要請を確認。承認された場合、存在力を5万奉納します。よろしいですか」

コストは高いがまぁいいだろう。

「さっさとやれって」

NPCのわざわざ確認するこのゲーム文化はなくならないもんだな。
AIなんていっても所詮これだ。

「承認されました。5分後にポイントA29への爆撃が開始されます。全体アナウンスされますか?」

「くどい、はぁ……してくれ」

くどいとか言っても何もしてくれないからな。

「生徒マリアからの軌道爆撃要請が確認されました。司令部はこれを承認。着弾予想時刻は9分32秒後です」

俺は司令部がある戦場へと機体を走らせる。
爆撃前に部隊の撤退を援護しないとな。


「マリアお嬢様! そちらに向かうのは危険です」

俺の足元に飛んできた人間よりは一回りでかい西洋甲冑を着込んだやつから話しかけられる。

咄嗟に敵かと思って咄嗟に踏み潰すか蹴るかしそうになるがなんとか堪える。

今は顔を見れないし名前もすぐには出てこないがハイエルフのイケメンキザ野郎だ。

能力値だけで部隊メンバーに選んだが戦闘シーンでちょくちょく口を挟んでくるわ、恋愛パートで恋愛イベントを起こしてくるわでうざいやつだ。

普通の乙女ゲームとして遊んでいるプレイヤーからは人気がある。
色々有能だし、この激戦の中生き残ってるし。

「隊長と呼べと言ってるだろうが、命令に従え。いや、少し疲れたな。ログアウト」

興を削がれた俺はそのままログアウトを宣言した。
再ログインしたら大迫力の軌道爆撃をみれるからまぁ良いかな。

楽しみをとっておくとまたやる時はさらに楽しくなるからな。


「ふぅ~~、恋愛要素やら女性アバター限定じゃなければもっと楽しめるんだが」

VRヘルメットを俺は外した。
俺が今やっていたのは恋愛VRゲーム『女神の花園』だ。
簡単に説明すれば乙女ゲーだな。
魔物と戦う学園に入学した主人公がいろんなタイプのイケメン野郎を誑し込んでハーレム作ってハッピーエンドだ。
なんでロボットに乗って戦ってるかっていうのはその世界観がかなりシビアなものだからだ。
物語の正規ルートでは学園は魔物によって潰される。
魔物がまだ来ない国に行ってイケメンに囲まれて幸せに暮らしましたとさという終わりがハッピーエンド扱いなほどだ。

説明がなんか適当だって?
そりゃそうだ。
俺は男であって、イケメン野郎とイチャイチャなんてすまんが気持ち悪すぎるのだ。
男の娘もいるっちゃいるが俺には無理だ。
一応ハッピーエンドもしたものだがどうにも俺には女性の感覚はわからないものだ……男を手玉に取る自分に怖気というか吐き気というか、それしかなかったぞ。

まぁそんな俺がなぜその怖気を我慢してまでこのゲームをやっているのかだが、それは当然戦闘パートを目当てにしてる。

このゲームの戦闘パートは最高だ。
人型ロボットに乗りファンタジーの魔物相手に無双できるゲームだ。

劣勢の中、人型ロボットに乗って奮闘するなんてワクワクするだろ?

さらには学園パートがあって、それもまた素晴らしい。
普通はイケメン相手に好感度稼ぎをするわけだが、俺はしないぞ。

なんと学園パートでは学園の生徒や学園外の人物、他には奴隷なんかをも集めて自分の部隊や機体を作ることができるのだ。

司令官プレイが出来るのだ。

機体の改造はもちろん、ひたすら後方で撃ちまくる大砲のみの部隊だって作れたりもちろん補給部隊のみや整備部隊のみの部隊編成もできてロールプレイングもできる自由度の高さが非常に良い。

これぞ、ゲームの進化というものだ。
VRになってまで既存のゲームに似たものしかない中でこれはかなり面白いゲームだった。

もちろん俺は上げた中の全てをやった。
楽しかったぜ。

このゲームをまともに恋愛ゲームとして遊ぶなんてもったいないしクソくらえだ。

そんな感じで全体の完成度までも非常に高いのが『女神の花園』だ。

ただ惜しむらくは人型ロボットに乗れるのが女性限定という点だな。

男性限定で魔導鎧という興を削いできたイケメン野郎が着ていたやつを装備できるのだが魔導鎧は所詮は人型ロボットの劣化版だ。

整備がロボットに比べて楽だから使い捨てで着回して戦ってみた時もあったが、やはり大型の人型ロボットの性能や魅力には勝てない。

一応、これを乙女ゲー目線として改めて説明するとイケメンな男を集めて一緒に魔物と戦うというゲームだな。

魔物に負けそうな窮地のイケメンをロボットで救ったり、逆に大量の魔導鎧に囲まれて醜悪な魔物から守られたりする事ができるわけだ。

ここで戦力を求めて部隊の女性パイロットを多くすると部隊内の目当ての男が盗られるわ、そのまま離脱してライバル部隊が出来上がるという要素も一応ある。

一言で言うとイケメンズ育成ゲームである……うげぇ。
言葉にすると寒気がしたぜ。

ただ部隊構築も戦闘も楽しいのは説明した通りだ。

そんなこんなで俺は選べる複数のキャラのうち男性ではなく女性の方をよく選んでプレイしている。

そして胸やら股間の違和感を感じながら、恋愛パートにイライラしながらもこのゲームにダイブしていた。

我ながらどハマりしたものだ。

男と大して変わらない胸のロリキャラは残念な事に成長ステータスが戦闘パイロット向けじゃなかったから俺は仕方がなく、巨乳キャラでこのゲームを遊んでいたのだった。
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