ゴーレムマスターは願わない

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第零話 太陽帝国にいるごくごく普通のオタク

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「隣国の挑発行為を許すなー! 許すなー! 我々の軍備を増強しようー! しようー!」

太陽帝国の議事堂前で30人前後の人々が集まっていた。
もちろん当然のことながら彼らは警察の許可を取って合法的に抗議を行う有志の市民たちだ。
政治的な活動を行っている、そう聞くと一見意識高い系などと思われるかもしれないが、この国会議事堂前に集まっているものたちの大半の風貌は完全にオタクのそれである。
だが不潔感はない。
この太陽帝国が世界に誇るアニメ文化の影響を受けた者たちだからだ。

そこに俺は向かう。
俺も彼らと同じように好きなアニメのヒロインが書かれたTシャツを着ている。
嫁ではなくヒロインである。

「おー!アキラがきたぞ!」
「しようー!……お、同士アキラよー!」
「アキラー! 握手してくれーーー!俺も来ちゃったぜー!」

「あー皆さんどもー!」
「アキラさん!今日はツアー企画ありがとうございます!よろしくお願いしますー!」
「お、ハットリさんですかこちらこそよろしくですー」

このデモは俺が提案したツアーの一部なのである。
昨今の情勢が不穏なのは確かだし、待ち合わせ場所が分かりやすくなるゆえである。
叫んでる内容も現政権の方針と同じだし過激なものでもないから完全にお遊びである。
こうしたデモ文化も太陽帝国独自のものだ。
ちょっとした批判を互いにしあうのが礼儀でこうしたデモも議員や国に対して敬意を表すことになるわけで。
よくネットではおかしな国だな太陽帝国(誉め言葉)と言われるがお前たちも十分おかしいぞと言いたい。
他国の人と話すときはなるべく気をつけるようには皆しているが、こう行った話題は度々口喧嘩になることもあるらしい。

話を戻して、それからしばらくして、俺は演説をすることになった。

「えーおほん! 先進国であり先の大戦においての敗者でもありながら長らく平和を享受していた我が国太陽帝国は隣国の挑発行為に手をこまねいている!
それは何故か!
この近代化の進んだ国際社会においては如何に弱小な隣国であろうと、その背後には様々な他の大国の思惑が絡み合うからだ。
我が国内部にも多数の工作員がいることだろう!
だがメディアは先の大戦の教訓を忘れたのかのように、いや、戦争という脅威をただ目を閉じてないかのようにふるまっている。
そこには我が国を狙う大国の工作員も紛れ込んでいるのかもしれない!
だからこそ今ここにネットを介して有志諸君が集まったのである!
武力のバランスが崩れれば戦争になってしまう!
是非我が国の議員には隣国から自国を守れるようにしっかりとした軍備を整えてもらいたいものである!

決まった……

あー、あとはネットで見ている諸君!
諸君からの応援が今日の打ち上げの質に影響する、視聴者はぜひぜひ応援よろしく!
あと一時間デモをやったら博物館巡り! 戦艦大和が遂に我々も見れるぞ!!」


「おおー!!大和楽しみだーー!俺はこの日の為に貯金したんだぞー!」
「アキラー!途中からかっこ悪いぞー!」
「もっとまじめにやれー! 俺も来たぞー!」

これでわかると思うが、俺たちは高尚なものではない。
単なるにわか軍事オタクである。
ネットで交流を持ったオフ会のノリでこんなデモをやったわけが、今日の本命だってわざわざ田舎から出てきて先の大戦の歴史的建造物を見ることだ。
もっともらしくデモをしたがこれも先人の気持ちを知ろうというオタク心である。
意識高い系、勘違い系、とも批判されたりするのが俺たちである。
実際にそうかもしれないが俺たちは俺たちでそれが好きなのだ。
意識高い系と勝手に決めつけるのよくないと言いたい。

まぁ繰り返すが太陽帝国は寛容の国なのだ。
オタク活動も巷で白い目で見られることはない。
物好きなものだな程度の好感は持ってもらえるのだ。

戦艦大和を見るときは特殊な制度があって金がかなりかかるんだがそれは置いとこう。
そんなことはもうどうでもよくなるのだから。


一日のツアーが終わった。
俺は数人のオフ会のメンバーの会話を聞きながら一緒に帰路についていた。

「いやーーー!今日は楽しかった! 実物の大和がまさかあんな迫力あるものとはなー! やはりああいったものには精神が宿っていると僕は思ったね。感じたよ」
「戦艦なんて浮かぶ棺桶だろ、ワロタ。なんて当時は絶対に言えませんね。先人が必死に作ったのがわかりますよ。あんなのが海に浮かんでたら怖くて船を出せないですよ。先の大戦での離島防衛戦で沈まなくて良かったですよ本当に、ああして見れるなんて……ああ、俺は感動で感動で、よかった」
「司令部もすごかったな」
「ああー改修中の機密部分も見たかった……」

信号を皆で渡ろうとしたとき、前方に小学生ぐらいの小さな女の子が立っていることに気づいた。
青信号だというのに渡ろうとしていない。
スマホを操作しているからだ。

スマホ、スマフォ、熱中しすぎは危ない。

そんな風に小学生ぐらいの女の子に注目していると俺と女の子を交互に眺めてあるメンバーが言った。

「アキラさん、本当にありがとうございましってあれれ、むむむ、まさかアキラさんも吾輩と同じ同士ですかな」
「そうだが違う、犯罪を犯す気はないぞ」
「いやいや、それこと真の同士、最近の歩きスマホに憤慨する良き心をお持ちだ。ああ我々には誠に辛い世の中ですな、この国を離れると思わない、いい国でもありますし……」
「いや、一括りにしないでくれないか。愛する相手の好みは違うはずだろ!」
「おおー!かっこいいですな!まさしく同士!」

なんて他人にはキモいと思われそうな妙な一体感を得てしまったが、俺は信号を渡った後も後ろを向きその女の子を眺めていた。
なぜだか、とても気になったからだ。

「同士、流石にそれは」

眺めていると先ほどの同士が話しかけてくるが無視だ、とても気になるのだ。
女の子はスマホから目を話して信号を見ると歩き始めた。

「まずいだろ!」

俺は女の子に向かって駆け出した。
赤信号なのに前に歩き出したからだ。
車はいないと思ったが運悪くトラックが突っ込んできた。

「邪魔してすまん!俺の分まで生きてくれ!」
「きゃあ!」

俺は女の子に突撃をかまし、代わりにトラックに引かれて意識を失った。
多分俺は即死だった。
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