ムーンダンジョンのマスターは支援できるか

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5話目 ムーンダンジョン地下へ

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「おお、外では叫んだだけだったけどジャンプすると滞空時間長いなぁ、ってうわわわ」

一キロ先の扉に向けて歩くのが……いや正確にはセバスとの会話が気まずかったのでジャンプして行ったら早く着くかな、と思って僕はジャンプしたのだけれど。

月の重力は地球に比べて六分の一、その知識を実感した。
ジャンプは体重が軽くなる分、より高く飛んでしまうし、落下も遅いから空中で姿勢を崩してしまった。

「ムーン様。大丈夫ですか」

「ああ、ありがと。軽く飛ぶ感じで向かうとするよ」

すぐにセバスが助けてくれた。
その動きの機敏さは僕の比じゃない。

「あれ、セバスの人形ってアダマンタイトっていう重い金属なんだよね」

「はい、ムーン様。体重でいうと200kgはあるでしょうか」

「じゃあここだと40……いや33kgぐらいか、ここの重力はアースの六分の一だと思うからね」

「おお、そうなのですか。私の知識はアースとダンジョンについての、ほんの少し。ですから知りませんでした。道理で体が軽すぎる訳です。力を制御しないと上手く動けないので困惑しておりました」

とーん、とーん、と軽く浮遊感を楽しみながら会話すると気まずかったセバスとの会話も乗ってくる。
セバスも飛んでいる。

「はは、なるほど。それでもその動きっていうのはすごいね。って、いま思ったんだけどkgっていったけれど単位が統一されているのっておかしくない? そもそも念話とはいえ会話が出来ていることが僕には不思議なんだけど」

「ああ、それは神の力でこの世界に言葉の壁がないだけですよ。通訳が為されているのです。それに合わせて異世界の尺度とこの世界の尺度が何故か一致しているだけでございます、一部の地域ではまた違った尺度を持つ種族も少なからずあるでしょうが」

「そうなんだ。聞きづらいけど気になるから聞いちゃうんだけどセバスの前世みたいなのってあるの? どこから生まれたのか気になるんだよね」

「いいえ、ございません。いえ正確には記憶にないだけなのかもしれませんが、そういったことは考えるだけ無駄でしょう」

「そっか、そうだね。ところでその人形どう?使いやすいかな」

「大変素晴らしいものです、人形スライムを超えた何かになったような気分です。ムーン様の偉大さを感じます」

「そう良かった。でもそうおだてなくてもいいよ、執事っていうのは飴と鞭をバランス良くもってないといけないし、セバスには相談役になってもらいたいしね。えっと、言い忘れてたけどこれからよろしくね」

「おお!誠そのとうりでございます。かしこまりました。こちらこそよろしくお願いいたします」

非常に満足そうにセバスは答えた。

(うん。セバスの性格がなんとなく分かったかな、きっと執事道に生きているんだろう。確かに執事をイメージしたけれどここまで執事っぽくなるとは思わなかった)

そうして少しは仲良く慣れたような気がした僕達はダンジョンの地下に続く透明な扉の前に到着した。
普通に見ると四角い穴があるようにしか見えない。

「セバスもこのダンジョンの壁って見えるの?」

「いいえ私にはみえませんが、ムーン様の眷属でありますからムーン様のダンジョンを感じることが出来ます」

「なるほど。ああ、いいよ。今回は僕があけたいから」

セバスが扉を開けてくれようとしたので止めた。
何せ自分が考えたダンジョンだ自分で見て回りたい。

こちらも出口と同じように透明なエアロックを模した扉を二回通ったあと、穴に声をかけた。

「おーい!上がってきてー」

少しすると水色のスライムに覆われた四角い箱が上ってきた。

「これは人形スライムですか」

セバスが驚いたように言う。
人形スライムはスライムが殻に籠った種族で一般的にはそれが人形だから人形スライムと呼ばれているんだけど殻の形は何でもいいらしい。
ということでエレベーター型の殻を作ってそれをスライムに操らせればいいと思ったんだ。

エレベーター型人形スライム「エレベ君」だ。
お値段50万なり。
四角い箱を二つ使っている。
外側にある四角い箱にあいた所々の穴はスライムが出てくるところである。
あそこからスライムが出てきて月の砂でできた穴の壁蹴って箱を動かす。
箱に機動力を持たせたかったけれど三倍くらいスライムの値段が変わってしまうから断念した。
多分人形じゃない殻を操る能力が高いスライムは高価なんだと思う。
そもそも眷属を使いたくなかったんだけどこっちの方が安かった。

でもセバスを作ったことに後悔はない。

この世界にステータスはない。
だから性能もわからないけれど。
50万もかけたからきっとちゃんとしているはず……大半が中の椅子やらに使ったけど。

「そうだよ、人形スライムだよ。セバスには嫌悪感とかあるかな」

エレべ君には知性はないはず。
機械のようなもので僕や眷属の言うことに従うようにイメージした。

「いえいえ、ユニークな眷属で素晴らしいと思います」

「そっか、そうだよね、良かった。まぁさっさと地下に行こうか。よろしくエレべ君」

眷属虐待ー! とかそんな馬鹿みたいな話になったらどうしようかと思ったよ。
エレベ君の中には各壁に3つづつの、合わせて9つの椅子が固定されていた。
シートベルト(仮)つきであり昔のエレベーターさながら扉がない。

明かりは座席の上と下の壁に周囲の魔力に反応してぼんやり光るという光石というものが埋め込んである。

座り込み、シートベルトを付けて僕は言う。

「エレべ君、おりていいよ」

すると扉がない部分を水色の半透明なスライムが覆い、エレべ君は多分壁を上手く蹴り、落下を始める。
半透明の向こう側には月の砂でできた壁が見えるから落ちているのが分かる。

「ここ、これはすごいなぁ」

急速なふわっとした感覚を受けながら急速に900メートル落ちていく。
しばらくするとスライムが減速をかけたのか揺れを感じながら抑えつけられるような感覚を受けた。

「すこしGが強かった。エレべ君今度は少し遅くなってもいいからもう少し優しくしてくれ」

了解です-という意識が伝わってきた。
席を立ち透明じゃないエアロックモドキを潜り抜けて地下フロアに足を踏み入れた。
高さ約800メートルの広大な空間が広がった。

うん、地下は特に何も作ってないんだ。
広げただけだ。
円柱も立っているし、地下貯水槽みたいな感じだ。
等間隔に配置した光石のおかげで神殿のような厳かな雰囲気になったように思いたい。
僕はこの雰囲気大好きだ。

フロア名は神殿フロアならぬ増築予定フロアかな……
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