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1話目 自称神様が現れた
しおりを挟む教室の外が白い。
それが僕のこの現実に対する第一印象だった。
「やぁ、皆さんおはようございます。今日も出席をとっていこうか! あと一年で大学受験だぞー、就職かーはりきってなー。なーんてね! アハハ、ハ!」
今の状況を単純にいうと、朝のHR中に突然先生が切り裂かれ、その血が飛び散り、それを行ったとみられる優しそうな顔したスーツの男、つまりは狂った殺人鬼が先生だった物の上で先生のまねごとをしている。
そんな状況だ。
それ故に僕はあまりの現実感のなさに目を逸らして外を見た。
それが僕の第一印象。
(あれ、外の景色が白いな。景色って言っていいのかってぐらいだな。何もない。)
「きゃーーーーーーーー!!!!!」
「な、なんだよ、これ」
少し遅れて教室の皆がさわぎだした。
「うそ!? ドアが開かないわ!」
「窓も壊せねえぞっ!」
「おい、お前皆に手を出したら容赦しないぞ!」
「私には中学生の妹と共働きの両親とガンを患ったおばあちゃんがいるの! まだ死にたくないいい! まだ18歳にもなってないのー! だから殺さないでー!」
「先生!? 嘘だ! これは夢よ、そう、夢よ、うふ、ふふふ、あれ?頬をつねっても痛いわ、うふ、ふふふ」
「おえぇぇぇぇ……ひっひっく、リアルすぎんだろ……」
などなどなど……教室は阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた。
僕は外の景色を眺めたあとはただ教室をぼーっと眺めていた。
(いやいや、外の景色に現実逃避してる場合じゃない。まじ、怖い。なんなんだよこの状況は、脱出は無理そうだ。外は白い。邪神か悪魔とかはたまた超能力ものか、いやいや現実逃避してる場合じゃない。いやそれこそ現実逃避かもしれない。こんな不可思議な状況だ。何があってもおかしくない)
当然内心は教室の皆と同じく混乱の渦中にあった。
だけど、他のクラスメイトのように騒ぐ必要を僕は感じなかった。
感じない人間だったということでもあるんだろうけど、ただそれ以上に突然現れた殺人鬼はまるで現実離れした雰囲気をまとっていて。
「君たちうるさいな、もう少し図太くないと」
殺人鬼がそう呟くと途端に教室が静かになった。
その後僕らを一通り眺めたあと。
「とりあえず座りなよ」
そう言うと皆が席に着いていた。
ちなみに僕はいちばん窓側のうしろの席に座っているので皆の動きがよく見えていたわけだ。
そう。
半数ぐらいは席を立っていたはずなのに殺人鬼が話した瞬間、皆が席に座っていた。
目を擦り、頬をつねる。
景色は変わらず、痛みも感じる。
夢じゃない。
(この男が皆の声を封じたのか? それにテレポート?まで。外の景色も……)
試しに椅子から立ち上がろうとしたら椅子とお尻がくっついているように動かない。
(くっついている。椅子も持ち上げられない。お尻だけじゃなく椅子も床とくっついたのか)
「ああー。あれ、僕は声が出るのか? 皆が黙ってるのに?」
出ないものと思ったが声を出してしまった。
静かになった教室に僕の声はかなり響いた。
こんな状況だというのに僕をいじめていた奴らは首を回して僕を睨んでくる。
俗に言う不良グループだ
あの人たちのさっきの慌てぶりは面白かった。
真っ先に逃走を図っていたから。
というか危機感がないのか佐藤賢治が僕を見ながら手を口に持っていきメガホンのようにして何かを叫んでいる。
彼が人をバカにするときのしぐさだ
まぁあの人たちの視線やら動きは放っておける。
なぜならその分心配そうに僕を見てくれる人もいるから。
あの殺人鬼に向かって叫んでいた、今時珍しい正義感に暑い奴だ。
熱いんじゃあない、暑い奴。
いいやつだと思う。
名前は正徳有治
どんな奴かというとラノベに出てくるイケメンだ。
他にも僕を見る視線は様々だ。
大好きだった先生が死んでショックを受けた名前を忘れたあの子もいれば僕の友達でオタクでありさっき吐き出してた須藤郁男もいるし失禁した名前を忘れたあの子その2もいる。
でも気を失っている子も奴もいなければ、汚物の悪臭が漂うこともない。
おかしい。
臭いがしないのもおかしいし、一人ぐらい気を失ってたり漏らしてたりしてもいいはずだ。
なんて考えて、殺人鬼も僕をみてる、ということから逃避していると殺人鬼が口を開いた。
「あ、ああ、君は静かだったからね、アハハ。そうだね……せっかくだし何か質問はあるかい? 二つ許そう。いや、三つにしてあげよう。一気にだよ。一つづ様子を見させてはあげないよ。あはは、は」
(三つもか)
僕を直視するその視線を避けて殺人鬼の足元を見れば、先生だったものは消えていた。
赤い色一つない、いつも通りの教室の床。
周りを見渡せば、塵一つない綺麗な教室。
机だって新品のようになっている。
僕らが身にまとっている制服もなぜか新品同様だ。
そんな状況に僕はもう混乱しなくなっていた。
いや混乱できるほどの度合いを超えていた。
(こいつはきっと俗に言う神様だ。自愛溢れるかどうかな神様ではなく、超常的な力を持つという点で)
悪魔か天使か、神か邪神か神様か、なんて正体、そんな事はどうでもいいと思った。
質問を決めた。
やっとのことで僕は突然現れた殺人鬼の視線に向かい合う。
「いや、やっぱり一つだけにしよう」
そうのたまう殺人鬼。
先生がどうなったのか、元の日常に戻れるのか、そんな事を質問しようと思ったのに。
一番聞きたいことは決まっている。
「神様は、僕たちに何をしてもらいたいんですか?」
僕が話し出して周りの空気が変わる。
皆がどう思っているかはわからない。
でも僕が一番気になったのはこのことだ。
殺人鬼改め、神様は僕の質問に微笑むと言った。
「うん、いいね。君たちにはダンジョンマスターになって僕の世界をコントロールしてもらいたい」
コントロールと言ったか。
教室の空気がまた変わった。
そんな事を気にしないかのように先生を殺した優しい顔をした神様はこう言った。
「ちなみに拒否権は残念ながらないんだ。ごめんね」
僕を見るその視線、そこに含まれる意味を僕は一生をかけても理解できないだろう。
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