ムーンダンジョンのマスターは支援できるか

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17話目 セバス

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「天使は回復と通信に専念を! 戦闘は鎧武者に任せるように!」

「ユウジ様、セバスでございます」

私の名前はセバス。
我が主のムーン様よりこの目の前のダンジョンマスター、ユウジ様を守る命令を受けた。

ユウジ様は他方に指示を出されており、逼迫した状況なのだとわかる。

「すまない、敵に襲われてから3日で防衛にも穴が空いてる。城の内部に入られた。簡潔に言おう。敵は今いる地下ではなく天守閣に向かって侵略を始めている。方法は問わないが倒してくれ、そもそも倒せるか? その、何ができる」

私の見た目はただの人形、何ができるかわからないのは当然ですね。

「そうですね。そこの鎧を着たもの達10人と戦って勝てると思いますが」

銃に触れながら私はそう断言する。
ユウジ様は驚いたような顔をしている。

「わかった。それだとすごく助かる。ならもう自由に動いて敵を倒してくれ、生死は問わない」 

「かしこまりました」

ムーン様より賜ったリボルバーを握りしめた。



「城の内部に入ればこちらのものだ!上がれ上がれ!  生まれたばかりのダンジョンマスターなど直接囲んで殺せば良い! やつはこの上にいるぞ、倒したら褒美は思いのままだ!」

指揮官がそう兵を鼓舞する。
中に入らせないようにしていたことでダンジョンの中は防衛ができていないのだろうと欲で目がくらみそう思っていた。

「キャー!」

逃げる兎族を兵士が見つける。

「こっちだぁ!いたぞー」

兎族を追いかける兵士達。

「喰らえ!クソフォーリナ!」

「ウグゥ!」

待ち受けていた兎族と鎧武者が兵士を討ち取る。

「ひひぃ!」

仲間がすぐ横であっさりと死んだ事で腰を抜かす兵士。

「伏兵だぁ!伏兵に注意しろ! 数はいないはずだ!」

そう指揮官が声を発する。

城の内部に敵を招き入れたのはユージの策だった。

簡単に攻撃から防御へ意識を切り替えれたら苦労はない。
生まれたばかりのダンジョンに入った事であとは殲滅戦だと油断していた彼らは気付く事なく次々に討ち取られていく。

「これでは私はあまり必要なさそうですが……いえ、あの焦りようは少しでも被害を出したくないというものですか」

セバスはそう呟きながらも兵士にやられそうになる兎族をリボルバーで助けていく。

「おい、あの黒いうるさい奴を狙え!」

指揮官がそう叫ぶ。
セバスを狙って矢が放たれるがアダマンタイト製の人形部分を貫通できるはずがなかった。

「無駄です」

銃声が響く。

「な、なに……ぉ」

セバスは再装填しながらゆっくりと指揮官の元へ歩いていく。
周りの兵士は恐慌に包まれる。

「ひ、ひぃ! 隊長がやられたぞー! 逃げろー!」

兵士たちが逃げていく。
それを追うセバス。

「もう外ですか、青々とした空というものは美しい」

そう言いながらもフォーリナの兵士達を撃ち抜いていく。
たまに魔法も使っていた。


「おや、あなた達は敵ですか?」

セバスはココロの軍が逃げるフォーリナの兵士を倒していたところまで来てしまっていた。

「お前のような英雄級の化け物がいるとは聞いてはいない。戦う気はない。全軍、撤退するぞ!」

ココロ軍は恐る恐る帰ろうとする。
だがそこに空から火の玉が降ってくる。

その火の玉の衝撃でココロ軍は壊滅した。

「新米ダンジョンマスターを虐めるいけない子はこのアバタル教育部トップのアカネがゆるさないんだからね!」

現れたのは女の子、もしイクオがこの場にいればこう言うだろう。

『ピンクのフリフリスカートを履いた魔法少女だ!ピンクだ!!』と。

「ご助力感謝致します。ですがあなたは敵ですか?」

セバスはその女の子アカネに淡々とそう言った。

「あっれー、ずいぶん強そうな子だぞー?  ここの子じゃないみたいだし……」

アカネはいつものようにぶりっ子でそう言う。

「私はムーン様のご友人の為、こうして戦っております。あなたは敵ですか?」

「へ~~、ムーンね。あの噂の……面白ーい! あっ、なら報告しなきゃね。もしもーしハイマスター?」

そう耳元に手を当て一人でしゃべり続けるアカネにセバスは困惑した。

「大丈夫ですか?」

無視してアカネは一人でしゃべり続けている。

「それで、着いたのはいいけどムーンの眷属っていう黒い奴がいてさ……そうそう、あー、君セバスだよね?」

「そうですが」

セバスは名前を言い当てられ警戒した。

「うん、そうみたい。うん、わかった殺しはなしね。実はちょっと殺しちゃったけど守る為だから……わかった。ノバには謝る。うん、はーい!」

一人でそう元気に返事をしたアカネはセバスに向き合う。

「一体何をしていたのですか」

「さっきの質問だけど、アカネは敵じゃないよ」

そう言われたセバスはひとまず感謝を述べた。

「それは良かったです。先ほどの攻撃には感謝します」

「ごめんね、でも味方でもないんだね!『ファイヤーボール』」

アカネの手のひらから火の玉が発射された。

「水よ」

咄嗟にセバスは水の魔法を使って腕を濡らしながら火の玉をその手で受け止めた。

幸いアダマンタイトの人形は火の玉程度では壊れることは無かった。

「へー、魔法も使えるし、その体はやっぱりアダマンタイトだね。なんて贅沢なんだ。でも眷属をここまで強くするのは無駄が多いんだよ、ね」

アカネはセバスに駆け寄る。
セバスは銃でアカネを狙うが簡単にかわされるか弾を魔法か何かで逸らされる。

「不思議な武器だね。でも効かないよ。それ、パーンチ! キック! ってこっちが痛くなるよね?」

そう笑いながら言っているもののセバスはあまりの速さに着いていけなかった。
ただでさえ速いがフェイントまで使われてはどうしようもなかった。
本気で殴られていればセバスの本体であるスライムは無事ではなかっただろう。

「火の玉パーンチ! 火の玉キッーク」

炎を纏ったパンチとキックで炙られる。

「水よ! 冷気よ! 土よ!」

セバスは炎に耐え、足場を不安定にさせることで対抗した。

「君は生まれたばかりだろうから、やっぱりアカネについてこれないよね。眷属っていうのは所詮使い捨ての道具だよ。でも命令だから、生かしておくから、これから頑張ってほしいな。その体が勿体無いもん」

それでもセバスは戦い続けた。

「遠隔の射撃ならば 」

セバスは空中に放り投げたリボルバーを魔法で操りアカネの背中から射撃までもしてみせたがアカネはやすやすと回避して見せた。

「そんなダダ漏れの魔力じゃ全然、無駄なんだよ。じゃあね、おやすみパーンチ!」

その言葉を最後に魔力の纏ったアカネの拳を受けてセバスの意識は途絶えた。
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