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エピローグ
エピローグⅠ
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樹海へ行ったあの日から、1年と3ヶ月ほどが経過した。
みんなと出会った12月とは違い、世界はぽかぽかとした陽気に包まれている。
残念ながら私たちは、現在もウイルスに感染したままであり、引き続き入院生活を送ってる。
私たちが感染しているウイルスには、「ブルーローズウイルス(Blue Rose Virus)」という名前が付けられ、「BRウイルス」、または「BRV」と呼ばれるようになった。
BRウイルスに関する研究は、このおよそ1年ちょっとの間でだいぶ進んだようだ。
なかでも研究を劇的に発展させたのは、ある日突然レーコさんが持ち帰った謎のメモと謎の物質だ。
メモには、BRウイルスに関する様々な情報が記されており、物質はBRウイルスの治療薬のようだった。
メモによると、治療薬にはワクチンのように予防効果もあるらしいが、人間や動物に投与できるようには作られていないようで、改良する必要があるとのことだった。
そのメモには他にも、BRウイルスは青い光に乗ってばら撒かれ、その光を見た者が感染すること、潜伏期間は1年10ヶ月ほどであること、発症すると、眠るように亡くなってしまうこと、発症前に治療薬を投与することが重要で、投与が発症後になってしまうと、薬が効くかどうかわからないことなどが記されていた。
けれど、それを一体どうやって手に入れたのか、当の本人であるレーコさんにも、その時一緒にいた私たち4人にも、さっぱりわからなかった。
気づいたら、レーコさんのカバンの中に入っていたのだ。
もしかしたら、異星人からの贈り物なんじゃないかなんて話もしてたけど、実際のところ、今でも謎のままだ。
私は大学を休学し、ミューも会社を休んでいる。
レーコさんも基本的には入院生活を送っているが、たまに研究所へ行き、BRウイルスやその治療薬の研究を行っている。
誠志郎は毎日和菓子の修業を続けていて、咲翔は相変わらずのんびり過ごしているが、どうやら最近仕事を探し始めたようだ。退院したら働いてみることにしたらしく、「とりあえず派遣からやってみるぜ~」と言っていた。
あ、そういえば、ミューの同僚の山形さんのことなんだけど、実は山形さんは、レーコさんのようにテレパシー能力をうまくコントロールできず、無意識のうちに周りの人にテレパシーを送っちゃうことがよくあって、そのたびに不審がられた経験から、なるべく何も考えず、アホなふりをしながら生きてきたらしい。
けれど、最近は玲子さんとのテレパシー文通のおかげで、能力をコントロールできるようになり、しっかり物事を考える元々の性格を取り戻したらしい。
それと、碧風清流さんの絵のことなんだけど、やっぱり池野さんが描いた方の絵も池野さんのおばあちゃんの家に戻ってきたらしい。
けれど、「祖母の家には本物があるから」ということで、池野さんが描いた方の絵を私たちにプレゼントしてくれた。
その絵は今、私たちがよく集まる『ほのぼのラウンジ』に飾ってある。
今日はこれから、みんなでお花見をする約束をしている。
病院の中庭に咲いている桜の花を、5人で鑑賞する予定だ。
どんな花も美しいが、やはり桜は別格だなあと毎年思う。
「優莉~。お団子できたらしいよ~」
「うん。わかった~」
誠志郎が作ってくれたお団子を食べながら、みんなで桜の花を眺めた。
「平和だねえ。こんな日々が、ずっと続くといいなあ」
朗らかなそよ風に包まれながら、そんなことを思った。
私たちは謎のウイルスに感染してはいるが、恐怖心はない。
きっと全員助かるはずだ。
咲翔の目を見ればわかる。
あの日、初めて会った時の、あの死んだような目はもうしていない。
希望に満ちて、キラキラと輝いている。
ねえ咲翔、君にはどんな未来が見えてるの?
私にはわからないけど、でも、きっと大丈夫だよね。
きっとみんな、助かるんだ……。
みんなと出会った12月とは違い、世界はぽかぽかとした陽気に包まれている。
残念ながら私たちは、現在もウイルスに感染したままであり、引き続き入院生活を送ってる。
私たちが感染しているウイルスには、「ブルーローズウイルス(Blue Rose Virus)」という名前が付けられ、「BRウイルス」、または「BRV」と呼ばれるようになった。
BRウイルスに関する研究は、このおよそ1年ちょっとの間でだいぶ進んだようだ。
なかでも研究を劇的に発展させたのは、ある日突然レーコさんが持ち帰った謎のメモと謎の物質だ。
メモには、BRウイルスに関する様々な情報が記されており、物質はBRウイルスの治療薬のようだった。
メモによると、治療薬にはワクチンのように予防効果もあるらしいが、人間や動物に投与できるようには作られていないようで、改良する必要があるとのことだった。
そのメモには他にも、BRウイルスは青い光に乗ってばら撒かれ、その光を見た者が感染すること、潜伏期間は1年10ヶ月ほどであること、発症すると、眠るように亡くなってしまうこと、発症前に治療薬を投与することが重要で、投与が発症後になってしまうと、薬が効くかどうかわからないことなどが記されていた。
けれど、それを一体どうやって手に入れたのか、当の本人であるレーコさんにも、その時一緒にいた私たち4人にも、さっぱりわからなかった。
気づいたら、レーコさんのカバンの中に入っていたのだ。
もしかしたら、異星人からの贈り物なんじゃないかなんて話もしてたけど、実際のところ、今でも謎のままだ。
私は大学を休学し、ミューも会社を休んでいる。
レーコさんも基本的には入院生活を送っているが、たまに研究所へ行き、BRウイルスやその治療薬の研究を行っている。
誠志郎は毎日和菓子の修業を続けていて、咲翔は相変わらずのんびり過ごしているが、どうやら最近仕事を探し始めたようだ。退院したら働いてみることにしたらしく、「とりあえず派遣からやってみるぜ~」と言っていた。
あ、そういえば、ミューの同僚の山形さんのことなんだけど、実は山形さんは、レーコさんのようにテレパシー能力をうまくコントロールできず、無意識のうちに周りの人にテレパシーを送っちゃうことがよくあって、そのたびに不審がられた経験から、なるべく何も考えず、アホなふりをしながら生きてきたらしい。
けれど、最近は玲子さんとのテレパシー文通のおかげで、能力をコントロールできるようになり、しっかり物事を考える元々の性格を取り戻したらしい。
それと、碧風清流さんの絵のことなんだけど、やっぱり池野さんが描いた方の絵も池野さんのおばあちゃんの家に戻ってきたらしい。
けれど、「祖母の家には本物があるから」ということで、池野さんが描いた方の絵を私たちにプレゼントしてくれた。
その絵は今、私たちがよく集まる『ほのぼのラウンジ』に飾ってある。
今日はこれから、みんなでお花見をする約束をしている。
病院の中庭に咲いている桜の花を、5人で鑑賞する予定だ。
どんな花も美しいが、やはり桜は別格だなあと毎年思う。
「優莉~。お団子できたらしいよ~」
「うん。わかった~」
誠志郎が作ってくれたお団子を食べながら、みんなで桜の花を眺めた。
「平和だねえ。こんな日々が、ずっと続くといいなあ」
朗らかなそよ風に包まれながら、そんなことを思った。
私たちは謎のウイルスに感染してはいるが、恐怖心はない。
きっと全員助かるはずだ。
咲翔の目を見ればわかる。
あの日、初めて会った時の、あの死んだような目はもうしていない。
希望に満ちて、キラキラと輝いている。
ねえ咲翔、君にはどんな未来が見えてるの?
私にはわからないけど、でも、きっと大丈夫だよね。
きっとみんな、助かるんだ……。
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