地平線のかなたで

羽月蒔ノ零

文字の大きさ
上 下
23 / 37
第三章

死の薔薇

しおりを挟む
 5人はその青い薔薇を、『死の薔薇』と呼ぶことにした。

「あまり人間が立ち入らない植物の多い場所に、まだその死の薔薇が咲いている可能性があるというわけか……。もし今後、誰かが死の薔薇を見つけ出して、それがきっかけで動物たちの大量死が引き起こされるとしたら……。ねえ、もしかして私たちが抱いてる違和感の原因は、これじゃないだろうか?」
 優莉が一層険しそうな表情でそう言った。

「動物たちの大量死……。それが俺たちの能力をゆがませているわけか……。誠志郎、その大量死する動物たちのなかには、人間も含まれてるんだろうか?」

「僕の見た過去の風景には、人間らしき生物の遺体は見当たりませんでしたが、猿のような生物の遺体は確認できました。なので恐らく我々人間も、ほかの動物たちと同様、死の薔薇の影響を受けるものと思われます」

「死の薔薇は、どのような方法で動物を死に追いやるんだろう? もしウイルスや細菌によるものなら、私の専門だから、力になれると思う。ぜひ頼ってほしいな」

「そっか! レーコさんは感染症研究の第一人者だもんね! ということは……、つまり……、他の誰かが見つけるより先に、私たちが死の薔薇を見つけて、レーコさんの研究所へと運ぶ。これだ! きっとこれが、私たちの使命なんだ!」

 ようやく話がまとまってきた。俺たちなら、きっとできる。

「ねえ咲翔、君の能力で調べてみてよ。そう遠くない未来に、死の薔薇を誰かが発見しちゃうのかどうなのか。それがわかれば、対策が打てる!」
 優莉にそう頼まれた。

「うん。わかった。けど、俺一人の力じゃ見えないと思うから、みんなの力を貸してほしい」
「おうよ! もちろんだぜ!」

 みんなが差し伸べてくれた手の重さを右の手の甲でしっかりと受け止めながら、5人分の力で未来を見るべく、俺は目を閉じた。
 
 やはりそこには、無限に拡大された未来空間が広がっている。
 そう遠くない時期に、この未来のどこかで、誰かが死の薔薇を見つけるはずだ。一体いつ、誰が、どこで見つけるんだ……?
 
 俺は神経を集中させ、未来空間のどこかに存在するはずの死の薔薇の姿を探し回った。

 
「……ん? これは……、これだ……、これだ!! 見つけた!!」

――今からおよそ3ヶ月後、坂東来世ばんどうらいせという植物学者が、高々と青い薔薇を掲げて記者会見を行っている――。

 間違いない。これこそ誠志郎が言っていた、青い薔薇……、死の薔薇だ!
  
 この植物学者によって、今から3ヶ月後に死の薔薇が見つけ出されてしまう。
 けれど、それより先に俺たちが死の薔薇を見つけ出すことで、人間を含めた動物たちを、大量死から救うことができるはずだ。何としても、俺たちが先に死の薔薇を見つけ出さないといけない。


 俺は自分が見た未来について、みんなに詳しく説明した。

「やっぱりそうだったのか。死の薔薇が見つけ出されてしまうのを阻止するのが私たちの役目なんだ。それで、死の薔薇はどこに咲いてるの? 外国?」優莉が身を乗り出すようにして尋ねてきた。

「いや、運が良いのか悪いのか、どうやら日本国内みたいだ」
「ほお。具体的にはどのあたり?」

「樹海だよ。青木ヶ原樹海」


「……樹海、かあ……。行ったことないなあ。入ったら二度と出て来られないとか、自殺の名所だとか、案外普通の場所だとか、いろいろ聞いたことはあるけど……」優莉が少し不安げにそう言った。

「とにかく樹海へ行ってみよう。そしてあの迷惑な植物学者よりも先に、俺たちが死の薔薇を見つけ出そう。ただ、俺たちもそれなりの用意をしていかないと。防護服とか、消毒剤とか、……具体的には何が必要なんだろう?」

「そこは私にお任せください。 最先端の装備をふんだんに持っていくので」


 玲子さんが日本感染症研究所の職員の方に事情を説明してくれたおかげで、俺たちは、玲子さんをはじめとした日本感染症研究所の職員の方々の全面的な協力のもとで樹海へ行けることとなった。色々な準備や手続きなどで3週間ほどかかるらしいが、あの迷惑な学者が死の薔薇を見つけるのは3ヶ月後だから、十分間に合う。

「3週間か。結構あるけど、あっという間だろうな。私はたまに学校に行くくらいでほとんど暇だけど、みんなは何して過ごすの?」

「私は仕事だなあ。また3週間後に会いましょう!」

「わたしも仕事かなあ。そういえば本当はみんなを取材しに来たんだったけど、なんかそういう感じじゃなくなってきたし、山形さんが帰ってきてるだろうからそっちを手伝おうかな」

「僕も京都へ戻って仕事です。腕が落ちてないといいですが」

「俺は家で瞑想してるよ」

「なんじゃそりゃ。咲翔も私と同じで暇そうだな!」

 ということで、3週間後に樹海へ行く約束をし、俺たち5人は一旦それぞれの生活へ戻ることとなった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

琥珀と二人の怪獣王 二大怪獣北海道の激闘

なべのすけ
SF
 海底の奥深くに眠っている、巨大怪獣が目覚め、中国海軍の原子力潜水艦を襲撃する大事件が勃発する!  自衛隊が潜水艦を捜索に行くと、巨大怪獣が現れ攻撃を受けて全滅する大事件が起こった!そんな最中に、好みも性格も全く対照的な幼馴染、宝田秀人と五島蘭の二人は学校にあった琥珀を調べていると、光出し、琥珀の中に封印されていた、もう一体の巨大怪獣に変身してしまう。自分達が人間であることを、理解してもらおうとするが、自衛隊から攻撃を受け、更に他の怪獣からも攻撃を受けてしまい、なし崩し的に戦う事になってしまう!  襲い掛かる怪獣の魔の手に、祖国を守ろうとする自衛隊の戦力、三つ巴の戦いが起こる中、蘭と秀人の二人は平和な生活を取り戻し、人間の姿に戻る事が出来るのか? (注意) この作品は2021年2月から同年3月31日まで連載した、「琥珀色の怪獣王」のリブートとなっております。 「琥珀色の怪獣王」はリブート版公開に伴い公開を停止しております。

サイバーパンクの日常

いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。 派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。 楽しめたところがあったら、感想お願いします。

宇宙を渡る声 大地に満ちる歌

広海智
SF
九年前にUPOと呼ばれる病原体が発生し、一年間封鎖されて多くの死者を出した惑星サン・マルティン。その地表を移動する基地に勤務する二十一歳の石一信(ソク・イルシン)は、親友で同じ部隊のヴァシリとともに、精神感応科兵が赴任してくることを噂で聞く。精神感応科兵を嫌うイルシンがぼやいているところへ現れた十五歳の葛木夕(カヅラキ・ユウ)は、その精神感応科兵で、しかもサン・マルティン封鎖を生き延びた過去を持っていた。ユウが赴任してきたのは、基地に出る「幽霊」対策であった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...