25 / 55
とある銀河のとある星より
遺跡
しおりを挟む
とある銀河のとある星、『ソロン』
この星では、多種多様な生物が、お互いに支え合いながら平和に暮らしている。
しかし残念ながら、この星で暮らす者の多くは、天寿をまっとうすることができない。
たいてい何かしらの病気を患い、それが原因で命を落としてしまうのだ。
残念だが、こればかりはどうしようもない。
病気の原因もまた多種多様であり、それらすべてを滅ぼしたり、それらから完全に身を守ることなど、到底できるはずがない。
と、思われていた。
しかし、ある科学者が、病気の原因に関するとんでもない大発見を成し遂げたのだ。
これまで、数えきれないほど存在すると思われていたあらゆる病気の原因が、実はたったひとつしかないということが判明した。
そのたったひとつの原因、それは、『日光』である。
この世界を照らし出してくれる、この星に住む多くの者にとってなくてはならない大切な光ではあるものの、それと同時に、この世界にあらゆる病気をもたらしているということが明らかになった。
日光にさえ当たらなければ、多くの者がもっと長生きできる。
『日光に当たりさえしなければいい』たったそれだけのことなのだが、
日光に当たらずに暮らすという課題は、きわめて難しいものだった。
だが、なんとかして、昼間でも日の光に当たることなく、皆が安心して快適に暮らしていけるような方法はないか。
その方法を求めて、世界中の科学者たちが研究を始めた。
そして、様々な角度から様々な研究を行った結果、望遠鏡を用いて隣の恒星系に存在する惑星の研究をしていた者が、この星には存在しないが、もしあったならば、日光の害をほぼ無害な水準にまで減少させることができる、そんな画期的なものを発見した。
それは、『雲』である。
もしこの星にも雲があれば、日光に含まれる有害な電磁波のほぼすべてを遮断し、あらゆる病気を防ぐことができるようになる。しかしそれでいながら、生命活動に必要となる有益な光が遮断されることはなく、しっかりと地表にまで届くのだ。
科学者たちは、その惑星を参考にしながら、雲の研究を急ピッチで推し進め、遂に雲のメカニズムを解明した。
そしてこの星にも、遂に雲を作り出すことに成功した。
あとは世界中に雲を広げ、不要な日光を遮断してしまえばいい。
だが、とても残念なことに、彼らはほんの少しだけ、遅かったようだ。
数年前から始まった、極端な恒星活動の変化により、ここ数年の日光の有害度は格段に上がってしまっていたのだ。
それにより、この星のあらゆる生物が次々と絶滅していった。
世界中に雲を作り、雲で星を覆ってしまおうという壮大な計画は、もはや叶えられそうにない……。
「私たちは、どうやらここまでのようだ……。だがしかし、この星の未来を生きる誰かが、きっと気づいてくれるはずだ。この雲は、自然にできたものではないということに。自然の力を利用してはいるものの、元々この星にあったものではなく、我々が作り出したものだということを……」
「我々が地上に建造したあらゆるものは、やがてそのすべてが朽ち果ててしまうだろう。だがしかし、雲は違う。すでにこの星の自然のサイクルの一部として完全に定着している雲ならば、我々が消え去ったあとも、ずっとこの星に残り続けるはずだ。この星が滅びてしまうその日まで、この星からすべての雲が消え去ってしまうことはきっとない。必ず世界のどこかで、その下に住む者たちを、日光の害から守ってくれるはずだ」
「いつかまた、この星に知的生命体が現れたならば、その者たちがきっと我々の意志を受け継ぎ、雲に覆われた安全な世界を完成させてくれるだろう……」
「あとは頼んだ……。この星の未来を生きる誰かよ……」
恒星活動の変化による生物の大量絶滅により、この星の『光の世界』は、静寂に包まれた。
しかし、その静けさは、一時的なものに過ぎなかった。
それまで日光を避けるように、ひっそりと『闇の世界』に暮らしていた夜行性の生物たちが、この大量絶滅時代を生き延びたのである。
やがて彼らは、昼行性の天敵がいなくなったその星で、どんどん『光の世界』へと進出していった。
その後、彼らは次々に進化を重ねてゆき、数千万年の長い長い時間を経て、遂にこの星に再び文明を築き上げる者たちが現れた。
だが、彼らとて日光の害を克服したわけではない。彼らもかつての者たちと同じように、日光を原因とした病気を患う。
数千万年前と同じように、病気のすべての原因は、世界を照らし出すその光にあるのだが、まだ誰も、そのことには気づいていない。
まさか、自分たちの生活を支えてくれている、エネルギーに満ち溢れたあの光が、この世界のすべての病気の原因となっているなどとは、決して誰も考えはしなかったのである。
かつて雲を作り上げた者たちが地上に建造したあらゆるものは、彼らの予測通り、そのすべてが朽ち果て、自然へと還っていった。
古代文明の痕跡は無きに等しく、かつて何千万年もの昔、自分たちとは異なる知的生命体がこの星に存在していたことなど、彼らにはわかるはずもない。
ましてや、当然のようにそこに浮かび、完全に空と調和したあの『雲』が、かつてこの星に生きた者たちによって作られた『遺跡』であることになど、到底考えが及ぶことはなかった。
彼らが雲の真実に気づくまでには、まだ途方もない時間が必要となることだろう。
あるいはもしかすると、永遠にその真実にはたどり着けないのかもしれない……。
「なんだ。今日も曇りか。気分が滅入るなあ」
「たまには晴れてほしいねえ。雲ひとつない晴天が待ち遠しいよ」
「そういえば、こんなものがあるよ」
「なにそれ。オバケ?」
「違うよ。てるてる坊主というんだ。晴れてほしいときにはこのてるてる坊主にお願いするといいらしい」
「ほー。おもしろそうだね。どこかに売ってるのかい?」
「いや、家にあるもので簡単に作れるんだ。あとで作り方を教えてあげるよ」
「ほお。ぜひ教えてくれ。うちにも飾りたい」
「ああ。そして、作ったらこう歌うんだ」
「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ~」
この星では、多種多様な生物が、お互いに支え合いながら平和に暮らしている。
しかし残念ながら、この星で暮らす者の多くは、天寿をまっとうすることができない。
たいてい何かしらの病気を患い、それが原因で命を落としてしまうのだ。
残念だが、こればかりはどうしようもない。
病気の原因もまた多種多様であり、それらすべてを滅ぼしたり、それらから完全に身を守ることなど、到底できるはずがない。
と、思われていた。
しかし、ある科学者が、病気の原因に関するとんでもない大発見を成し遂げたのだ。
これまで、数えきれないほど存在すると思われていたあらゆる病気の原因が、実はたったひとつしかないということが判明した。
そのたったひとつの原因、それは、『日光』である。
この世界を照らし出してくれる、この星に住む多くの者にとってなくてはならない大切な光ではあるものの、それと同時に、この世界にあらゆる病気をもたらしているということが明らかになった。
日光にさえ当たらなければ、多くの者がもっと長生きできる。
『日光に当たりさえしなければいい』たったそれだけのことなのだが、
日光に当たらずに暮らすという課題は、きわめて難しいものだった。
だが、なんとかして、昼間でも日の光に当たることなく、皆が安心して快適に暮らしていけるような方法はないか。
その方法を求めて、世界中の科学者たちが研究を始めた。
そして、様々な角度から様々な研究を行った結果、望遠鏡を用いて隣の恒星系に存在する惑星の研究をしていた者が、この星には存在しないが、もしあったならば、日光の害をほぼ無害な水準にまで減少させることができる、そんな画期的なものを発見した。
それは、『雲』である。
もしこの星にも雲があれば、日光に含まれる有害な電磁波のほぼすべてを遮断し、あらゆる病気を防ぐことができるようになる。しかしそれでいながら、生命活動に必要となる有益な光が遮断されることはなく、しっかりと地表にまで届くのだ。
科学者たちは、その惑星を参考にしながら、雲の研究を急ピッチで推し進め、遂に雲のメカニズムを解明した。
そしてこの星にも、遂に雲を作り出すことに成功した。
あとは世界中に雲を広げ、不要な日光を遮断してしまえばいい。
だが、とても残念なことに、彼らはほんの少しだけ、遅かったようだ。
数年前から始まった、極端な恒星活動の変化により、ここ数年の日光の有害度は格段に上がってしまっていたのだ。
それにより、この星のあらゆる生物が次々と絶滅していった。
世界中に雲を作り、雲で星を覆ってしまおうという壮大な計画は、もはや叶えられそうにない……。
「私たちは、どうやらここまでのようだ……。だがしかし、この星の未来を生きる誰かが、きっと気づいてくれるはずだ。この雲は、自然にできたものではないということに。自然の力を利用してはいるものの、元々この星にあったものではなく、我々が作り出したものだということを……」
「我々が地上に建造したあらゆるものは、やがてそのすべてが朽ち果ててしまうだろう。だがしかし、雲は違う。すでにこの星の自然のサイクルの一部として完全に定着している雲ならば、我々が消え去ったあとも、ずっとこの星に残り続けるはずだ。この星が滅びてしまうその日まで、この星からすべての雲が消え去ってしまうことはきっとない。必ず世界のどこかで、その下に住む者たちを、日光の害から守ってくれるはずだ」
「いつかまた、この星に知的生命体が現れたならば、その者たちがきっと我々の意志を受け継ぎ、雲に覆われた安全な世界を完成させてくれるだろう……」
「あとは頼んだ……。この星の未来を生きる誰かよ……」
恒星活動の変化による生物の大量絶滅により、この星の『光の世界』は、静寂に包まれた。
しかし、その静けさは、一時的なものに過ぎなかった。
それまで日光を避けるように、ひっそりと『闇の世界』に暮らしていた夜行性の生物たちが、この大量絶滅時代を生き延びたのである。
やがて彼らは、昼行性の天敵がいなくなったその星で、どんどん『光の世界』へと進出していった。
その後、彼らは次々に進化を重ねてゆき、数千万年の長い長い時間を経て、遂にこの星に再び文明を築き上げる者たちが現れた。
だが、彼らとて日光の害を克服したわけではない。彼らもかつての者たちと同じように、日光を原因とした病気を患う。
数千万年前と同じように、病気のすべての原因は、世界を照らし出すその光にあるのだが、まだ誰も、そのことには気づいていない。
まさか、自分たちの生活を支えてくれている、エネルギーに満ち溢れたあの光が、この世界のすべての病気の原因となっているなどとは、決して誰も考えはしなかったのである。
かつて雲を作り上げた者たちが地上に建造したあらゆるものは、彼らの予測通り、そのすべてが朽ち果て、自然へと還っていった。
古代文明の痕跡は無きに等しく、かつて何千万年もの昔、自分たちとは異なる知的生命体がこの星に存在していたことなど、彼らにはわかるはずもない。
ましてや、当然のようにそこに浮かび、完全に空と調和したあの『雲』が、かつてこの星に生きた者たちによって作られた『遺跡』であることになど、到底考えが及ぶことはなかった。
彼らが雲の真実に気づくまでには、まだ途方もない時間が必要となることだろう。
あるいはもしかすると、永遠にその真実にはたどり着けないのかもしれない……。
「なんだ。今日も曇りか。気分が滅入るなあ」
「たまには晴れてほしいねえ。雲ひとつない晴天が待ち遠しいよ」
「そういえば、こんなものがあるよ」
「なにそれ。オバケ?」
「違うよ。てるてる坊主というんだ。晴れてほしいときにはこのてるてる坊主にお願いするといいらしい」
「ほー。おもしろそうだね。どこかに売ってるのかい?」
「いや、家にあるもので簡単に作れるんだ。あとで作り方を教えてあげるよ」
「ほお。ぜひ教えてくれ。うちにも飾りたい」
「ああ。そして、作ったらこう歌うんだ」
「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ~」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. )
あおっち
SF
敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。
この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。
パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!
ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妖星学園
静馬⭐︎GTR
SF
岸田洋子という転校生が、妖星学園にやってきて、そこの「火星クラブ」の部員たちとワイワイガヤガヤ、仲良く冒険をして、たまに地球が滅びそうになる物語です。
人物紹介のところに、挿絵があります!
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる