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とある銀河のとある星より
遺跡
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とある銀河のとある星、『ソロン』
この星では、多種多様な生物が、お互いに支え合いながら平和に暮らしている。
しかし残念ながら、この星で暮らす者の多くは、天寿をまっとうすることができない。
たいてい何かしらの病気を患い、それが原因で命を落としてしまうのだ。
残念だが、こればかりはどうしようもない。
病気の原因もまた多種多様であり、それらすべてを滅ぼしたり、それらから完全に身を守ることなど、到底できるはずがない。
と、思われていた。
しかし、ある科学者が、病気の原因に関するとんでもない大発見を成し遂げたのだ。
これまで、数えきれないほど存在すると思われていたあらゆる病気の原因が、実はたったひとつしかないということが判明した。
そのたったひとつの原因、それは、『日光』である。
この世界を照らし出してくれる、この星に住む多くの者にとってなくてはならない大切な光ではあるものの、それと同時に、この世界にあらゆる病気をもたらしているということが明らかになった。
日光にさえ当たらなければ、多くの者がもっと長生きできる。
『日光に当たりさえしなければいい』たったそれだけのことなのだが、
日光に当たらずに暮らすという課題は、きわめて難しいものだった。
だが、なんとかして、昼間でも日の光に当たることなく、皆が安心して快適に暮らしていけるような方法はないか。
その方法を求めて、世界中の科学者たちが研究を始めた。
そして、様々な角度から様々な研究を行った結果、望遠鏡を用いて隣の恒星系に存在する惑星の研究をしていた者が、この星には存在しないが、もしあったならば、日光の害をほぼ無害な水準にまで減少させることができる、そんな画期的なものを発見した。
それは、『雲』である。
もしこの星にも雲があれば、日光に含まれる有害な電磁波のほぼすべてを遮断し、あらゆる病気を防ぐことができるようになる。しかしそれでいながら、生命活動に必要となる有益な光が遮断されることはなく、しっかりと地表にまで届くのだ。
科学者たちは、その惑星を参考にしながら、雲の研究を急ピッチで推し進め、遂に雲のメカニズムを解明した。
そしてこの星にも、遂に雲を作り出すことに成功した。
あとは世界中に雲を広げ、不要な日光を遮断してしまえばいい。
だが、とても残念なことに、彼らはほんの少しだけ、遅かったようだ。
数年前から始まった、極端な恒星活動の変化により、ここ数年の日光の有害度は格段に上がってしまっていたのだ。
それにより、この星のあらゆる生物が次々と絶滅していった。
世界中に雲を作り、雲で星を覆ってしまおうという壮大な計画は、もはや叶えられそうにない……。
「私たちは、どうやらここまでのようだ……。だがしかし、この星の未来を生きる誰かが、きっと気づいてくれるはずだ。この雲は、自然にできたものではないということに。自然の力を利用してはいるものの、元々この星にあったものではなく、我々が作り出したものだということを……」
「我々が地上に建造したあらゆるものは、やがてそのすべてが朽ち果ててしまうだろう。だがしかし、雲は違う。すでにこの星の自然のサイクルの一部として完全に定着している雲ならば、我々が消え去ったあとも、ずっとこの星に残り続けるはずだ。この星が滅びてしまうその日まで、この星からすべての雲が消え去ってしまうことはきっとない。必ず世界のどこかで、その下に住む者たちを、日光の害から守ってくれるはずだ」
「いつかまた、この星に知的生命体が現れたならば、その者たちがきっと我々の意志を受け継ぎ、雲に覆われた安全な世界を完成させてくれるだろう……」
「あとは頼んだ……。この星の未来を生きる誰かよ……」
恒星活動の変化による生物の大量絶滅により、この星の『光の世界』は、静寂に包まれた。
しかし、その静けさは、一時的なものに過ぎなかった。
それまで日光を避けるように、ひっそりと『闇の世界』に暮らしていた夜行性の生物たちが、この大量絶滅時代を生き延びたのである。
やがて彼らは、昼行性の天敵がいなくなったその星で、どんどん『光の世界』へと進出していった。
その後、彼らは次々に進化を重ねてゆき、数千万年の長い長い時間を経て、遂にこの星に再び文明を築き上げる者たちが現れた。
だが、彼らとて日光の害を克服したわけではない。彼らもかつての者たちと同じように、日光を原因とした病気を患う。
数千万年前と同じように、病気のすべての原因は、世界を照らし出すその光にあるのだが、まだ誰も、そのことには気づいていない。
まさか、自分たちの生活を支えてくれている、エネルギーに満ち溢れたあの光が、この世界のすべての病気の原因となっているなどとは、決して誰も考えはしなかったのである。
かつて雲を作り上げた者たちが地上に建造したあらゆるものは、彼らの予測通り、そのすべてが朽ち果て、自然へと還っていった。
古代文明の痕跡は無きに等しく、かつて何千万年もの昔、自分たちとは異なる知的生命体がこの星に存在していたことなど、彼らにはわかるはずもない。
ましてや、当然のようにそこに浮かび、完全に空と調和したあの『雲』が、かつてこの星に生きた者たちによって作られた『遺跡』であることになど、到底考えが及ぶことはなかった。
彼らが雲の真実に気づくまでには、まだ途方もない時間が必要となることだろう。
あるいはもしかすると、永遠にその真実にはたどり着けないのかもしれない……。
「なんだ。今日も曇りか。気分が滅入るなあ」
「たまには晴れてほしいねえ。雲ひとつない晴天が待ち遠しいよ」
「そういえば、こんなものがあるよ」
「なにそれ。オバケ?」
「違うよ。てるてる坊主というんだ。晴れてほしいときにはこのてるてる坊主にお願いするといいらしい」
「ほー。おもしろそうだね。どこかに売ってるのかい?」
「いや、家にあるもので簡単に作れるんだ。あとで作り方を教えてあげるよ」
「ほお。ぜひ教えてくれ。うちにも飾りたい」
「ああ。そして、作ったらこう歌うんだ」
「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ~」
この星では、多種多様な生物が、お互いに支え合いながら平和に暮らしている。
しかし残念ながら、この星で暮らす者の多くは、天寿をまっとうすることができない。
たいてい何かしらの病気を患い、それが原因で命を落としてしまうのだ。
残念だが、こればかりはどうしようもない。
病気の原因もまた多種多様であり、それらすべてを滅ぼしたり、それらから完全に身を守ることなど、到底できるはずがない。
と、思われていた。
しかし、ある科学者が、病気の原因に関するとんでもない大発見を成し遂げたのだ。
これまで、数えきれないほど存在すると思われていたあらゆる病気の原因が、実はたったひとつしかないということが判明した。
そのたったひとつの原因、それは、『日光』である。
この世界を照らし出してくれる、この星に住む多くの者にとってなくてはならない大切な光ではあるものの、それと同時に、この世界にあらゆる病気をもたらしているということが明らかになった。
日光にさえ当たらなければ、多くの者がもっと長生きできる。
『日光に当たりさえしなければいい』たったそれだけのことなのだが、
日光に当たらずに暮らすという課題は、きわめて難しいものだった。
だが、なんとかして、昼間でも日の光に当たることなく、皆が安心して快適に暮らしていけるような方法はないか。
その方法を求めて、世界中の科学者たちが研究を始めた。
そして、様々な角度から様々な研究を行った結果、望遠鏡を用いて隣の恒星系に存在する惑星の研究をしていた者が、この星には存在しないが、もしあったならば、日光の害をほぼ無害な水準にまで減少させることができる、そんな画期的なものを発見した。
それは、『雲』である。
もしこの星にも雲があれば、日光に含まれる有害な電磁波のほぼすべてを遮断し、あらゆる病気を防ぐことができるようになる。しかしそれでいながら、生命活動に必要となる有益な光が遮断されることはなく、しっかりと地表にまで届くのだ。
科学者たちは、その惑星を参考にしながら、雲の研究を急ピッチで推し進め、遂に雲のメカニズムを解明した。
そしてこの星にも、遂に雲を作り出すことに成功した。
あとは世界中に雲を広げ、不要な日光を遮断してしまえばいい。
だが、とても残念なことに、彼らはほんの少しだけ、遅かったようだ。
数年前から始まった、極端な恒星活動の変化により、ここ数年の日光の有害度は格段に上がってしまっていたのだ。
それにより、この星のあらゆる生物が次々と絶滅していった。
世界中に雲を作り、雲で星を覆ってしまおうという壮大な計画は、もはや叶えられそうにない……。
「私たちは、どうやらここまでのようだ……。だがしかし、この星の未来を生きる誰かが、きっと気づいてくれるはずだ。この雲は、自然にできたものではないということに。自然の力を利用してはいるものの、元々この星にあったものではなく、我々が作り出したものだということを……」
「我々が地上に建造したあらゆるものは、やがてそのすべてが朽ち果ててしまうだろう。だがしかし、雲は違う。すでにこの星の自然のサイクルの一部として完全に定着している雲ならば、我々が消え去ったあとも、ずっとこの星に残り続けるはずだ。この星が滅びてしまうその日まで、この星からすべての雲が消え去ってしまうことはきっとない。必ず世界のどこかで、その下に住む者たちを、日光の害から守ってくれるはずだ」
「いつかまた、この星に知的生命体が現れたならば、その者たちがきっと我々の意志を受け継ぎ、雲に覆われた安全な世界を完成させてくれるだろう……」
「あとは頼んだ……。この星の未来を生きる誰かよ……」
恒星活動の変化による生物の大量絶滅により、この星の『光の世界』は、静寂に包まれた。
しかし、その静けさは、一時的なものに過ぎなかった。
それまで日光を避けるように、ひっそりと『闇の世界』に暮らしていた夜行性の生物たちが、この大量絶滅時代を生き延びたのである。
やがて彼らは、昼行性の天敵がいなくなったその星で、どんどん『光の世界』へと進出していった。
その後、彼らは次々に進化を重ねてゆき、数千万年の長い長い時間を経て、遂にこの星に再び文明を築き上げる者たちが現れた。
だが、彼らとて日光の害を克服したわけではない。彼らもかつての者たちと同じように、日光を原因とした病気を患う。
数千万年前と同じように、病気のすべての原因は、世界を照らし出すその光にあるのだが、まだ誰も、そのことには気づいていない。
まさか、自分たちの生活を支えてくれている、エネルギーに満ち溢れたあの光が、この世界のすべての病気の原因となっているなどとは、決して誰も考えはしなかったのである。
かつて雲を作り上げた者たちが地上に建造したあらゆるものは、彼らの予測通り、そのすべてが朽ち果て、自然へと還っていった。
古代文明の痕跡は無きに等しく、かつて何千万年もの昔、自分たちとは異なる知的生命体がこの星に存在していたことなど、彼らにはわかるはずもない。
ましてや、当然のようにそこに浮かび、完全に空と調和したあの『雲』が、かつてこの星に生きた者たちによって作られた『遺跡』であることになど、到底考えが及ぶことはなかった。
彼らが雲の真実に気づくまでには、まだ途方もない時間が必要となることだろう。
あるいはもしかすると、永遠にその真実にはたどり着けないのかもしれない……。
「なんだ。今日も曇りか。気分が滅入るなあ」
「たまには晴れてほしいねえ。雲ひとつない晴天が待ち遠しいよ」
「そういえば、こんなものがあるよ」
「なにそれ。オバケ?」
「違うよ。てるてる坊主というんだ。晴れてほしいときにはこのてるてる坊主にお願いするといいらしい」
「ほー。おもしろそうだね。どこかに売ってるのかい?」
「いや、家にあるもので簡単に作れるんだ。あとで作り方を教えてあげるよ」
「ほお。ぜひ教えてくれ。うちにも飾りたい」
「ああ。そして、作ったらこう歌うんだ」
「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ~」
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