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とある銀河のとある星より
民衆の意思
しおりを挟む とある銀河のとある星、『メルヴィアベル』
この星では現在、民主主義、選挙に関しての様々な議論が行われていた。
「選挙によって議員を選ぶ。それが民主主義に基づいたものであるのはよくわかるのだが、どうもいくつか、引っかかることがある」
「まず、立候補した者の中からしか議員を選べないという現在の制度は、星民の主権を制限することにならないだろうか。立候補したのがAさん、Bさん、Cさんしかいなかった場合、主権者たる星民が、たとえDさんに議員になってもらいたいと思っていたとしても、その願いはDさんが立候補しない限り、叶うことがない」
「立候補していない者を無理矢理議員にするというのはおかしな話な気もするが、確かに、主権者が『この方に投票したい』と思っているにも関わらず、『いいえ、駄目です。立候補した者の中から選んでください』と投票先を制限するのは、主権の制限に当たるかもしれない」
「それに、政治家の数が少なすぎるのも問題だ。100万の星民が住む都市において、議員として選ばれるのはたったの3名だけ。たったこれだけの数で、民衆の意思をしっかりと政治に反映させることなどできるはずがない」
「更に、落選した候補者に投票した民のことも考えなければならない。少数派であるからという理由だけで、彼らの意思が政治にまったく反映されなくなるというのはどうもおかしい気がする」
「んー、だがしかし、議員の数が多すぎても困るだろう。議員が何万名もいたら、話がまとまらなくなる。議員の数が多すぎると困るからこそ選挙を行うのだ。よって、議員の数が少ないのは致し方ないことと言える」
「それに、多数決で物事を決めようという場合には、少数派の意見がないがしろにされるのはある程度仕方のないことだ。すべての者の意見を取り入れようとすれば、物事が決まらず前に進めなくなる。決断とは、複数ある選択肢の中からひとつを選ぶことだ。よって、その他の選択肢が切り捨てられるのは、心苦しいことではあるものの、やはり仕方のないことだ」
「ただ、立候補した者の中からしか議員を選べないという制度は、改善の余地があるかもしれない」
「どうだろう。一度、この星に住むすべての者を対象とした選挙をやってみては」
「なるほど。おもしろそうだ。ぜひやってみよう」
ということで、過去に例を見ない、まったく新しい選挙が行われることとなった。候補者は、この星に住む者『全員』である。
およそ1億の星民の中から、議員になってほしいと思う者に対して自由に投票するのだ。
そして投票数の多い順に議員を選ぶ。ただし、最低でも100票を獲得しなければ当選できないという制約を設けた。
初めての、そして画期的な試みであるため、今回の選挙に対する星民の注目度は高かった。
「うーん。誰に投票しよう。できれば自分が議員になってみたい。だが、難しい課題が山積みだ。議会で何か難しい質問をされたとしても、答えられそうにない。それに、何かの決定をすれば、その責任が伴う。そう考えると、自分が議員になるというのはやっぱり嫌だなあ。だからといって、友達にその責務を押しつけるのも気が引ける。一体誰に投票するのがいいのか……」
「僕は、僕自身に投票しようと思う。元々議員になりたかったし、どんな選挙だろうが関係ない。必ず多くの支持を集めて、より良い星へと変えてみせるんだ」
「んー、やはり、この星の舵取りを行う者を選ぶとなれば、あの方が最適ではないかなあ。とりあえず、僕はあの方に投票してみよう。」
選挙当日。星民は、思い思いの者に投票した。珍しい試みであったため、投票率は90%を超えていた。
その夜、開票作業が行われ、この度の選挙の結果が出たのだが……、
「おお、なんと……」
当選者は、たった一名しかいなかった。
「え? 私が!?」
当選したのは、この星の君主、『星王』であった。
どうやら、この星のほぼすべての者が星王に投票したようだ。
自分自身に投票した者も数名いたようだが、最低でも100票を獲得しなければ当選できないという制約を満たせなかったため、落選した。
しかし、星王は政治的権能を有しないと憲法で定められている。
ならば憲法を改正しようということになり、後日、憲法改正のための星民投票が行われた。
その結果、憲法は改正され、星王は星民から選挙で選ばれた場合に限り、政治的権能を有するということになった。
こうしてメルヴィアベルは、あくまで主権者は星民であり、公権力は引き続き憲法による制限を受けるものの、主権者たる星民から選ばれた星王が統治する星へと生まれ変わった。
しかし、星王ただ一名がこの星に関するあらゆる事柄についての決断を下すことは極めて難しいため、星王の意思に基づき、それを補佐する『元老』という者たちが官僚の中から数名選ばれることとなった。
元老の数に制限はないが、あまり多いとややこしくなるので、選ばれるのは多くとも10名ほどである。このように、極めて少数の者たちが、この星を統治してゆくこととなった……。
「ありゃ? 星民の主権をより尊重し、より多くの星民の意思が政治に反映されるような、更に進んだ民主主義を実現するためにこのような選挙を行ったのに、これじゃあ民主主義が根付く前の、数百年前の体制とほとんど同じじゃないか。なんでこうなっちゃったのかな? いや、あくまで民衆の意思に基づいてこうなったのなら、これもひとつの民主主義のかたちなのかな。民主主義って、むずかしい」
この星では現在、民主主義、選挙に関しての様々な議論が行われていた。
「選挙によって議員を選ぶ。それが民主主義に基づいたものであるのはよくわかるのだが、どうもいくつか、引っかかることがある」
「まず、立候補した者の中からしか議員を選べないという現在の制度は、星民の主権を制限することにならないだろうか。立候補したのがAさん、Bさん、Cさんしかいなかった場合、主権者たる星民が、たとえDさんに議員になってもらいたいと思っていたとしても、その願いはDさんが立候補しない限り、叶うことがない」
「立候補していない者を無理矢理議員にするというのはおかしな話な気もするが、確かに、主権者が『この方に投票したい』と思っているにも関わらず、『いいえ、駄目です。立候補した者の中から選んでください』と投票先を制限するのは、主権の制限に当たるかもしれない」
「それに、政治家の数が少なすぎるのも問題だ。100万の星民が住む都市において、議員として選ばれるのはたったの3名だけ。たったこれだけの数で、民衆の意思をしっかりと政治に反映させることなどできるはずがない」
「更に、落選した候補者に投票した民のことも考えなければならない。少数派であるからという理由だけで、彼らの意思が政治にまったく反映されなくなるというのはどうもおかしい気がする」
「んー、だがしかし、議員の数が多すぎても困るだろう。議員が何万名もいたら、話がまとまらなくなる。議員の数が多すぎると困るからこそ選挙を行うのだ。よって、議員の数が少ないのは致し方ないことと言える」
「それに、多数決で物事を決めようという場合には、少数派の意見がないがしろにされるのはある程度仕方のないことだ。すべての者の意見を取り入れようとすれば、物事が決まらず前に進めなくなる。決断とは、複数ある選択肢の中からひとつを選ぶことだ。よって、その他の選択肢が切り捨てられるのは、心苦しいことではあるものの、やはり仕方のないことだ」
「ただ、立候補した者の中からしか議員を選べないという制度は、改善の余地があるかもしれない」
「どうだろう。一度、この星に住むすべての者を対象とした選挙をやってみては」
「なるほど。おもしろそうだ。ぜひやってみよう」
ということで、過去に例を見ない、まったく新しい選挙が行われることとなった。候補者は、この星に住む者『全員』である。
およそ1億の星民の中から、議員になってほしいと思う者に対して自由に投票するのだ。
そして投票数の多い順に議員を選ぶ。ただし、最低でも100票を獲得しなければ当選できないという制約を設けた。
初めての、そして画期的な試みであるため、今回の選挙に対する星民の注目度は高かった。
「うーん。誰に投票しよう。できれば自分が議員になってみたい。だが、難しい課題が山積みだ。議会で何か難しい質問をされたとしても、答えられそうにない。それに、何かの決定をすれば、その責任が伴う。そう考えると、自分が議員になるというのはやっぱり嫌だなあ。だからといって、友達にその責務を押しつけるのも気が引ける。一体誰に投票するのがいいのか……」
「僕は、僕自身に投票しようと思う。元々議員になりたかったし、どんな選挙だろうが関係ない。必ず多くの支持を集めて、より良い星へと変えてみせるんだ」
「んー、やはり、この星の舵取りを行う者を選ぶとなれば、あの方が最適ではないかなあ。とりあえず、僕はあの方に投票してみよう。」
選挙当日。星民は、思い思いの者に投票した。珍しい試みであったため、投票率は90%を超えていた。
その夜、開票作業が行われ、この度の選挙の結果が出たのだが……、
「おお、なんと……」
当選者は、たった一名しかいなかった。
「え? 私が!?」
当選したのは、この星の君主、『星王』であった。
どうやら、この星のほぼすべての者が星王に投票したようだ。
自分自身に投票した者も数名いたようだが、最低でも100票を獲得しなければ当選できないという制約を満たせなかったため、落選した。
しかし、星王は政治的権能を有しないと憲法で定められている。
ならば憲法を改正しようということになり、後日、憲法改正のための星民投票が行われた。
その結果、憲法は改正され、星王は星民から選挙で選ばれた場合に限り、政治的権能を有するということになった。
こうしてメルヴィアベルは、あくまで主権者は星民であり、公権力は引き続き憲法による制限を受けるものの、主権者たる星民から選ばれた星王が統治する星へと生まれ変わった。
しかし、星王ただ一名がこの星に関するあらゆる事柄についての決断を下すことは極めて難しいため、星王の意思に基づき、それを補佐する『元老』という者たちが官僚の中から数名選ばれることとなった。
元老の数に制限はないが、あまり多いとややこしくなるので、選ばれるのは多くとも10名ほどである。このように、極めて少数の者たちが、この星を統治してゆくこととなった……。
「ありゃ? 星民の主権をより尊重し、より多くの星民の意思が政治に反映されるような、更に進んだ民主主義を実現するためにこのような選挙を行ったのに、これじゃあ民主主義が根付く前の、数百年前の体制とほとんど同じじゃないか。なんでこうなっちゃったのかな? いや、あくまで民衆の意思に基づいてこうなったのなら、これもひとつの民主主義のかたちなのかな。民主主義って、むずかしい」
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