銀河のかなたより

羽月蒔ノ零

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プロローグ

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 子供にとって最も幸せなのは、この世に生まれてこないことだ。

 僕はいつの頃からか、そう考えるようになった。
 
 こんな汚れた世界に生み出されるくらいなら、生まれてこない方が断然ましである。
 

 僕は人生に、希望など持ってはいない。

 
 こんなことを言うと、罰当たりなことを言うなとか、親不孝者とか、親に謝れとか、そんなようなことを色々と言われるかもしれないが、たとえば仏教でも、生まれることは苦しみであるとされている。四苦八苦の「四苦」のひとつだ。
 
 生まれることを否定的に捉える考え方は、決してひねくれた考え方などではなく、聖徳太子の時代からこの国に存在しているはずの考え方なのである。

 幸いなことに、僕は特別不幸というわけではない。
 ただ、特別幸せだというわけでもない。
 
 家族は父と母、それに姉が一人、弟が一人いる。幸いなことに、みんな元気でやっている。

 恵まれてはいる。それはわかっている。

 けれど、毎日勉強して、進学して、就職して、社会の歯車として生きて、生きて、生きて、その先に一体何があるというのだろうか。
 
 これからの人生、『生きててよかった』なんて思えることなどあるのだろうか。正直、ない気がする。

 
 子供がいれば、それが生き甲斐になるという人もいるかもしれないが、僕は自分の人生を豊かにするための道具として我が子を利用するなんて、まっぴらごめんだ。

 親という生き物は、どうも子供を自らの所有物、『物』として考える傾向が強い気がする。だが、断じてそうではない。子供は独立した一人の人間なのだ。決して『物』などではない。

 親といえば、やたらと偉そうにするのが世の常ではないかと思うが、一体あいつらのどこがそんなに偉いのか。僕にはさっぱりわからない。

 働いているから?
 いや、大人なら親じゃなくても働いていることが多いだろう。

 家族を養っているから?
 いや、養いたいから結婚して子供を産んだんだろう。自分のしたいことをしているだけなのに何が偉いんだ。

 子供の世話をしているから?
 いや、これも同じだ。子供の世話をしたいから子供を産んだんだろう。ただ自分のしたいことをしているだけだ。

 それに、働いていない親、家族を養っていない親、子供の世話をしない親など、いくらでもいる。なかには、子供を殺す親だっている。

 親になるのに何か資格が必要で、その資格を取るのがものすごく難しいというのなら、まだ「おお、親ってすごいな」と思えることもあるかもしれない。

 だが現実には、親になるのに資格などいらない。とんでもないクズのゴミ野郎でも、親になれてしまう。

 やはり親なんていうものは、決してたいした存在ではないのだ。自分の願望を満たすために子供を利用し、酷い場合は殺す。その程度の存在なのだ。


 「誰のおかげで生きていけると思ってるんだ」と親から言われたことのある人はきっと多いのではないだろうか。僕も似たようなことを言われたことがある。

 「親のおかげです」と言ってほしいのだろうが、それは無論、その子のおかげである。その子が『生きる』という意志に基づいて生きているから生きているのである。死のうと思えばとっくに死んでいる。

 子供が生きていく上で最も大事なのは、『子供の生きる意志』だ。別に親のおかげで生きているわけではない。

 それを言うなら、では一体、
「誰のおかげで、『親になりたい』という願望を満たせているのか」、
「誰のおかげで、『子育てがしたい』という願望を満たせているのか」、
どちらも、子供のおかげである。

 親のおかげで子供が生きていけるのではなく、子供のおかげで親は親として生きていけるのだ。そこのところを勘違いしている親が非常に多い。おそらく、たいして何も考えずに子供を産んだのだろう。
 
 ……あれ、何の話だっけ? ああ、人生に希望など持ってはいないっていう話だ。ちょっとヒートアップして話が脱線してしまった。


 そもそも、人はなぜ生きるのか。答えは簡単で、苦痛を回避するためである。

 目の前に複数ある選択肢のうち、一体どれを選べば最大限苦痛を回避することができるかを考え、選ぶ。

 そうやって生まれてから死ぬまで、延々と苦痛を回避するための選択を繰り返す。それが人生だ。きっと、ただそれだけだ。
 
 生きる意味だとか、使命だとか、そんなものはきっと何もない。

 苦痛を味わいたくないから、ただそれとは反対の方向へ進むだけ。

 痛くない方へ、疲れない方へ、恥をかかない方へ、悲しくない方へ、苦しくない方へ、怖くない方へ、寂しくない方へ、そうやって苦痛から遠ざかろうとする。どうせこれが、人生のすべてだろう。

『自分に降りかかる苦痛を最小限にとどめられるように行動する』

 人生とは、きっとただそれだけのことである。

 生きることによる苦痛が死ぬことによる苦痛を上回ると判断したとき、人は死を選ぶのかもしれない。

 この前、学校で先生から、「あなたが今いるのは本当に狭い世界。世界はもっともっと広い」そんなようなことを言われた。だがどうせ、世界の広さなんてたかが知れているだろう。

 そもそも、広いからといって、それが素晴らしいものだとは限らない。砂漠のど真ん中で、「この砂漠はとても広いぞ」などと言われても、希望など抱きはしない。

 試しに海外などへ行ってみたところで、治安の悪さ、口に合わない食事、日本とはまた別の様々な問題を抱えている様子など、『世界の醜さ』をよりまざまざと見せつけられることになってしまうかもしれない。

 歴史のある綺麗な建物などを見たところで、それが生きる気力になんかなるわけがない。

 
 どうせ、何をしたってつまらない。
 こんなつまらない日々が、あと何十年続くのか。考えただけでも気が滅入る。
 世界なんて、いっそのこと滅んでしまえばいいんだ。

 大抵いつも、こんなようなことを考えている。
 昔はこうではなかったはずだが、いつの間にか、こんな風になってしまった。

 今日もいつもと同じように、巨大な小惑星なんかが地球に衝突して、一瞬で世界が滅びればいいなあなどと考えながら街を歩いていた。

 そんな僕の前に突然宇宙船が現れたのは、ちょうどその時だったと思う。

 それはよく晴れた、ある冬の日のことだった。
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