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「イリスは王族なの?」


リーサの問いかけにレイラも相槌を打つ。

逆にイリスはレイラとトマを見て「あなたたちは聞いてない?」と首を傾げる。


「「え?」」

「イリスのお父様は隣国の現王様の弟なのよ。この国の貴族だったイリスのお母様に一目惚れして、国を捨てたの」

「え、ええ――!?」


イリスの家族の話をエマがぺろっとしゃべっている。それにも驚いた。


「だってうちの家族、もともとイリスのおうちの護衛なんですもの」

「だからわたしたち生まれたときから一緒なのよね」

「ねー」

たしかにイリスとエマは小さい頃からの幼馴染みだと聞いていた。そんな事情があったなんて。


「隣国の王弟は亡くなったと聞いていたけど…」

トマの呟きにリーサが同意する。仲良しね。


「国内の混乱に乗じて亡命したみたい。その手引きをしたのも、そもそもお母様をお父様に会わせたのも、モンタールド侯爵だそうよ?」


「え、えええ。お父様がー!?」

お父様ならやりそう!レイラは叫んだ。


「オレもはじめて聞いた。立派な内政干渉だよな…。でも」

父様ならやりそう。トマも頷いた。


「でも王弟って言っても元だし、うちのお父様ってば庭いじりしか趣味のない引きこもりよ」

「そんなことないわ!すごいアンニュイで素敵なのよ!」


イリスの言葉を全力で否定するエマ。


「エマってば、おじ専でうちのお父様のファンなの」


こそりと告げられたイリスの言葉に驚愕する。
エマってばそんな趣味が…。


「でもおかげでイリスの権力や、王子に対するフランクな対応も理解できたわ。それで、マルセル様はどうしてそれを知っていたの?」


レイラが訊ねると、口いっぱいにカップケーキを頬張っていたマルセルは、むぐむぐと飲み込んで「指輪」と言った。


「指輪?」


ちなみにカップケーキはトマがモンタールド邸から持ち込んだ差し入れだ。

レイラ好みに仕上げているため、イチゴミルク味とかレモン味とかチョコクリーム味とか。
マルセルはピンク色のカップケーキが気に入ったらしい。意外に甘党だ。


「入学パーティーでイリス殿下は指輪をしていただろう?あれは隣国の王族で受け継がれているものだから」

「あっ!」


レイラは声をあげた。あのときの。

マルセルはイリスを見て驚いたのではなく、イリスの指輪を見て驚いていたのか。

…あの距離から?

いや、やっぱりないわー。


レイラはマルセルの視力の良さにどん引いた。


イリスはにこにことマルセルを眺めている。その視線に気づいたマルセルが顔を上げると、「これからよろしくね?」とにっこり微笑んだ。


「マルセル様が今日訪ねてきたのは、お嬢様が雇ったお針子からタレコミがあったって言っていたわよね?」


ロイドの問いかけに頷くマルセル。


「ほら、お嬢様。外部の人間を雇うからこんなことになるのよ」

「だ、だって、ロイドにばっかり負担がいっていたから…」

「だからといって、貴重なお嬢様のアイディアが認めてもらえなかったり、他に流出していたら意味がないのよ」

めっ!とロイドはレイラの鼻をつまむ。

「ううう」

「噂の通り、仲がいいんだな…」


マルセルの呟きに「あら!」とリーサが声を張り上げる。トマの隣で。


「お言葉ですけど、レイラのお茶会に参加しないのはルチアーノ様なんですからね!」

「あら」

「そういえば…」


令嬢たちが顔を見合わせる。


「そういえば、ルチアーノ様はお茶会に参加されないわね?どうしてかしら?」

「それはもちろんルチアーノ様がお断りしているからよね?」

「レイラは誘っているの?」


エマ、リーサ、イリスに見つめられて、レイラははて?と首を傾げる。


「どうだったかしら?前に誘って断られたことも確かにあったけど、毎回誘ってもいなかったし…」

「あら、どうして?」

「え?だってトマが…あれ?」


わたくし、どうしてゆめかわお茶会にルチアーノ様を誘わないんだったっけ…?


レイラはぼんやりと遠い記憶を探るが、思い至るものはなかった。

下手な口笛でごまかすという古典的なトマの仕草は、冷めた視線のロイドだけが気づいていた。



***
『レイラパピヨンの服はたしかに独特のデザインだが、外部の職人が報告するようなものは存在しない』


腹いっぱいになるまでカップケーキを堪能したマルセルは、上層部にそう報告することを誓ってくれた。

…賄賂とかいわない。
当然のもてなしをしただけのことだ。

令嬢のいたずらでかわいく化粧されてしまったマルセルが、雑に顔を拭っただけで衛兵団に戻ったために起こる騒ぎは、また後日。


「レイラ、リーサ嬢を送ってくるよ」

「ええ、わかったわトマ」


お茶会がお開きになり、トマがリーサを、エマとイリスはロイドが送っていく。


「お嬢様、誰か来ても一人で対応してはいけませんよ」

「わかってるわロイド。大丈夫よ」


マリーにマルセルが訪れた際のことを聞いたのだろう。きつい調子で釘を刺してくる。

それでも気になったのだろう。
ロイドはマリーになにかを言い含めて出て行った。


「屋敷の迎えがくるまで少し時間があるわね。あらマリー、どこいくの?」

「店の受付にいます。また誰か来るとも限りませんから」

「休みの札を出しているし、来ないと思うけど……」
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