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それから侯爵令嬢ミリーは婚姻を理由に学園を退学し、一切公言しないギフトを理由に社交界から身を引いて、王家主催の公的行事にも姿をあらわさなくなった。
ミリーがいなくなって学園が平和になったかといえばその逆で、聖女と持ち上げられる『慈愛』のギフトの伯爵令嬢が幅を利かせて、小さなトラブルが続発しているのだとか。
そもそも彼女は自身のギフトについて、慈しみ愛するではなく、慈しみ愛されるものだと認識している。
頼みの綱の第四王子や高位令息たちも、あの日の勢いはどこへやら、いまは意気消沈している。
ミリーとの婚約打診を一方的に断ってしまったことが咎められたのだ。
ミリーのギフトがどんなものだったのか、いまとなっては不明だが、嫡男ではない彼らにとって一発逆転の優良物件だったという。
逃した魚は大きかった。
けれど、その魚が人食い魚だと言われたら誰だって逃がすだろう、と彼らは嘆く。
しかし嘆いたところではじまらない。
すでに侯爵令嬢は人妻だ。後の祭りである。
***
「ミリー、頼まれていた化粧品だよ。それから近頃人気の焼菓子も買ってきた。好きだろう?」
どうぞ、とまとめて手渡すとミリーの表情がぱあっと華やぐ。
「ありがとう、ルーファス様!」
「こんなものでいいのかい?他に欲しいものはないの?ミリーは以前ほどドレスや宝飾品を欲しがらなくなったね」
喜ぶ顔は以前と変わらないが、とルーファスは眉を下げる。
「まあルーファス様。わたくしは夜会にも参加しませんし、社交界からも遠退いて、どこで着飾るというのです?」
「私の前で?」
「あら」
だからお肌の手入れは念入りにするのよ、ところころ笑うミリー。愛らしくて、それでいて色香の漂う彼女に、ルーファスは目を細めた。
「わたくしは最近の流行も疎くなってしまって、ルーファス様が贈ってくれる素敵なものが日々の楽しみなんです」
「そうなのか。ではもっと気を引き締めないと」
しかし、とルーファスは頭を悩ませる。
「でも、ミリーより素晴らしいものは存在しないんだ。困ったな」
「まあ!」
「それは困りましたね」とミリーが背を向けてしまい、慌てたルーファスは後ろから腕を伸ばしてその腰を抱き寄せた。
「本当だよ、私はしあわせ者だ」
ルーファスのコレクションルームにはミリーの生み出した様々な宝石が大切に仕舞われていた。
色とりどりのまろい形の石たちは日々数を増やし、ルーファスの目を楽しませる。
時折、愛しさが募って口に運んでしまうが、増えていくばかりで減ることは決してない。
「ふふ」
腕の中でミリーがうれしそうに笑う。
ちらりと振り返ると、背後から覆い被さる彼の唇を目掛けて、つま先立ちになってちょんと触れる。
「わたくしもよ。大好き、ルーファス様」
「んん…っ!!」
ルーファスはぶるりと身を震わせた。
かわいい、かわいい、かわいい。
かわいいミリー。愛らしいミリー。甘やかしたくて堪らない。
大きな手が不埒に動いて、ミリーが「あん」と甘く鳴く。
「ミリー、今日も私に石をちょうだい」
ミリーを抱いて足早に寝室へと向かいながら、コレクションルームの宝石たちを思い浮かべる。
ミリーからもらっていない石はあとなんだろう。
ああそうだ。
歩きながらミリーの片胸を掴み、その先を少しきつく摘んで囁いた。
「この胸の頂から溢れる白い石をちょうだい?」
「あ…っ、やだ、そんなすぐ出ないぃ…!」
「はは。がんばろうね」
ルーファスの愛はミリーにしか注がれない。
たくさんの愛が降り注ぎ、秘された甘い石はそれからもずっと人知れず煌めき続けた。
おしまい
ミリーがいなくなって学園が平和になったかといえばその逆で、聖女と持ち上げられる『慈愛』のギフトの伯爵令嬢が幅を利かせて、小さなトラブルが続発しているのだとか。
そもそも彼女は自身のギフトについて、慈しみ愛するではなく、慈しみ愛されるものだと認識している。
頼みの綱の第四王子や高位令息たちも、あの日の勢いはどこへやら、いまは意気消沈している。
ミリーとの婚約打診を一方的に断ってしまったことが咎められたのだ。
ミリーのギフトがどんなものだったのか、いまとなっては不明だが、嫡男ではない彼らにとって一発逆転の優良物件だったという。
逃した魚は大きかった。
けれど、その魚が人食い魚だと言われたら誰だって逃がすだろう、と彼らは嘆く。
しかし嘆いたところではじまらない。
すでに侯爵令嬢は人妻だ。後の祭りである。
***
「ミリー、頼まれていた化粧品だよ。それから近頃人気の焼菓子も買ってきた。好きだろう?」
どうぞ、とまとめて手渡すとミリーの表情がぱあっと華やぐ。
「ありがとう、ルーファス様!」
「こんなものでいいのかい?他に欲しいものはないの?ミリーは以前ほどドレスや宝飾品を欲しがらなくなったね」
喜ぶ顔は以前と変わらないが、とルーファスは眉を下げる。
「まあルーファス様。わたくしは夜会にも参加しませんし、社交界からも遠退いて、どこで着飾るというのです?」
「私の前で?」
「あら」
だからお肌の手入れは念入りにするのよ、ところころ笑うミリー。愛らしくて、それでいて色香の漂う彼女に、ルーファスは目を細めた。
「わたくしは最近の流行も疎くなってしまって、ルーファス様が贈ってくれる素敵なものが日々の楽しみなんです」
「そうなのか。ではもっと気を引き締めないと」
しかし、とルーファスは頭を悩ませる。
「でも、ミリーより素晴らしいものは存在しないんだ。困ったな」
「まあ!」
「それは困りましたね」とミリーが背を向けてしまい、慌てたルーファスは後ろから腕を伸ばしてその腰を抱き寄せた。
「本当だよ、私はしあわせ者だ」
ルーファスのコレクションルームにはミリーの生み出した様々な宝石が大切に仕舞われていた。
色とりどりのまろい形の石たちは日々数を増やし、ルーファスの目を楽しませる。
時折、愛しさが募って口に運んでしまうが、増えていくばかりで減ることは決してない。
「ふふ」
腕の中でミリーがうれしそうに笑う。
ちらりと振り返ると、背後から覆い被さる彼の唇を目掛けて、つま先立ちになってちょんと触れる。
「わたくしもよ。大好き、ルーファス様」
「んん…っ!!」
ルーファスはぶるりと身を震わせた。
かわいい、かわいい、かわいい。
かわいいミリー。愛らしいミリー。甘やかしたくて堪らない。
大きな手が不埒に動いて、ミリーが「あん」と甘く鳴く。
「ミリー、今日も私に石をちょうだい」
ミリーを抱いて足早に寝室へと向かいながら、コレクションルームの宝石たちを思い浮かべる。
ミリーからもらっていない石はあとなんだろう。
ああそうだ。
歩きながらミリーの片胸を掴み、その先を少しきつく摘んで囁いた。
「この胸の頂から溢れる白い石をちょうだい?」
「あ…っ、やだ、そんなすぐ出ないぃ…!」
「はは。がんばろうね」
ルーファスの愛はミリーにしか注がれない。
たくさんの愛が降り注ぎ、秘された甘い石はそれからもずっと人知れず煌めき続けた。
おしまい
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