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ミリーのギフトは『宝玉』だ。
けれど幼い頃からの約束を守り、自身の涙や血を宝石に変えることができることは家族にも秘密にしている。知っているのはルーファスだけ。
ミリーはルーファスとの練習で、宝石に変えない方法も覚えた。力を使うのもルーファスの前でだけ。そのせいか、ルーファスのことを考えながらでないと宝石に変えられなくなってしまった。むかしは家族のことを思っても変えられたのだけど。
それから、石に変えられるのは自分の体液だけだった。他人のものではだめだった。
他人といってもルーファスのものだ。
ルーファスに血を流させるわけにはいかないので、涙をもらおうと思ったが、大の男が何もないのに泣けるわけがない。じっと瞬きを我慢して目を赤くするルーファスを見ながら、ミリーこそぽろぽろと涙の宝石を落としてしまった。いまでは笑い話だ。
ミリーはむかしからルーファスが大好きだった。
やさしくてかっこいい、素敵な人。唯一の理解者。
ミリーはわがままで好き嫌いも激しかったが、ルーファスだけは特別だった。
以前からルーファスと結婚したいと父に強請っていたが、いつも曖昧な笑みでのらりくらりと逃げられてしまっていた。
当時は不満に思っていたがいまならわかる。
現国王の甥であるルーファスは臣籍とはいえ王族で、身分が違いすぎた。
だからミリーが自分の涙が宝石になったとき、これならルーファスに選んでもらえるのではと心が沸き立った。
あのとき庭園で指を切ってしまったのは偶然だったが、血も宝石に変えられることを知った。
ころりと転がった小さな石を見て、きっと喜んでくれると思ったルーファスはとても厳しい顔をしていた。
絶対二人だけの秘密にして、とお願いされて頷いて、でも最後にぱくんと赤い石を食べてしまったときにはとても驚いて、ミリーはお腹を抱えて笑ってしまった。
でもいまならわかる。
ミリーはルーファスに守られたのだ。
10歳になって神殿でギフトの鑑定を受けて、ミリーは自分の力が『宝玉』というものだと知った。
そして神官から『宝玉』という力について説明を受けると愕然とした。
先人たちは、触れたものを宝石に変えたり、何もないところから宝石を生み出したり、方法は様々だったが、紛うことなき奇跡のギフトゆえに全員その身を滅ぼしていた。
『もう力は発現していますか?』と宝石を生み出したことがあるか聞かれ、ミリーは咄嗟に首を横に振った。ルーファスが絶対秘密にするようにと言った意味を理解する。
屋敷に帰ってすぐミリーはルーファスと婚約したいと父に再三訴えたが、次の日には王家から打診がきた。
その翌週には他の高位貴族の家からも。
『ルーファス様がいい!』
ミリーは強く訴えたが父は眉を下げるばかりで頷いてはくれない。
『大丈夫だよ』
でも、そんなミリーを慰めてくれたのもルーファスだった。
『大丈夫、きっとうまくいくから』
***
「わあ、素敵!」
学園を出て向かった先は二人の新居。
大丈夫、と言ったルーファスの言葉を信じて、日頃から二人で過ごす理想の生活を語ってきたミリーは想像通りの屋敷を前にして浮き足立った。
「よかった。でもやっぱり小さくないかい?」
「十分かわいいじゃない!」
新居は一般的な貴族の屋敷と変わらない大きさなのだが、王宮から下げ渡された離宮に住んでいたルーファスからすれば小さいらしい。
狭いと思っていながら彼女の要望だからと受け入れてしまうルーファスはミリーの承認欲求をとてつもなくくすぐった。
屋敷にはすでにルーファス専属の従者がおり、二人を出迎えてくれる。
「お部屋を見て回ってもいいかしら」
「待って」
はしゃいで走り出そうとするミリーの腰を抱いて引き留められる。
「それは次にして、まずは愛を交わそう?」
「そ、そうね…」
ルーファスに低い声でそっと囁かれて、ミリーは頬を赤く染め上げた。
けれど幼い頃からの約束を守り、自身の涙や血を宝石に変えることができることは家族にも秘密にしている。知っているのはルーファスだけ。
ミリーはルーファスとの練習で、宝石に変えない方法も覚えた。力を使うのもルーファスの前でだけ。そのせいか、ルーファスのことを考えながらでないと宝石に変えられなくなってしまった。むかしは家族のことを思っても変えられたのだけど。
それから、石に変えられるのは自分の体液だけだった。他人のものではだめだった。
他人といってもルーファスのものだ。
ルーファスに血を流させるわけにはいかないので、涙をもらおうと思ったが、大の男が何もないのに泣けるわけがない。じっと瞬きを我慢して目を赤くするルーファスを見ながら、ミリーこそぽろぽろと涙の宝石を落としてしまった。いまでは笑い話だ。
ミリーはむかしからルーファスが大好きだった。
やさしくてかっこいい、素敵な人。唯一の理解者。
ミリーはわがままで好き嫌いも激しかったが、ルーファスだけは特別だった。
以前からルーファスと結婚したいと父に強請っていたが、いつも曖昧な笑みでのらりくらりと逃げられてしまっていた。
当時は不満に思っていたがいまならわかる。
現国王の甥であるルーファスは臣籍とはいえ王族で、身分が違いすぎた。
だからミリーが自分の涙が宝石になったとき、これならルーファスに選んでもらえるのではと心が沸き立った。
あのとき庭園で指を切ってしまったのは偶然だったが、血も宝石に変えられることを知った。
ころりと転がった小さな石を見て、きっと喜んでくれると思ったルーファスはとても厳しい顔をしていた。
絶対二人だけの秘密にして、とお願いされて頷いて、でも最後にぱくんと赤い石を食べてしまったときにはとても驚いて、ミリーはお腹を抱えて笑ってしまった。
でもいまならわかる。
ミリーはルーファスに守られたのだ。
10歳になって神殿でギフトの鑑定を受けて、ミリーは自分の力が『宝玉』というものだと知った。
そして神官から『宝玉』という力について説明を受けると愕然とした。
先人たちは、触れたものを宝石に変えたり、何もないところから宝石を生み出したり、方法は様々だったが、紛うことなき奇跡のギフトゆえに全員その身を滅ぼしていた。
『もう力は発現していますか?』と宝石を生み出したことがあるか聞かれ、ミリーは咄嗟に首を横に振った。ルーファスが絶対秘密にするようにと言った意味を理解する。
屋敷に帰ってすぐミリーはルーファスと婚約したいと父に再三訴えたが、次の日には王家から打診がきた。
その翌週には他の高位貴族の家からも。
『ルーファス様がいい!』
ミリーは強く訴えたが父は眉を下げるばかりで頷いてはくれない。
『大丈夫だよ』
でも、そんなミリーを慰めてくれたのもルーファスだった。
『大丈夫、きっとうまくいくから』
***
「わあ、素敵!」
学園を出て向かった先は二人の新居。
大丈夫、と言ったルーファスの言葉を信じて、日頃から二人で過ごす理想の生活を語ってきたミリーは想像通りの屋敷を前にして浮き足立った。
「よかった。でもやっぱり小さくないかい?」
「十分かわいいじゃない!」
新居は一般的な貴族の屋敷と変わらない大きさなのだが、王宮から下げ渡された離宮に住んでいたルーファスからすれば小さいらしい。
狭いと思っていながら彼女の要望だからと受け入れてしまうルーファスはミリーの承認欲求をとてつもなくくすぐった。
屋敷にはすでにルーファス専属の従者がおり、二人を出迎えてくれる。
「お部屋を見て回ってもいいかしら」
「待って」
はしゃいで走り出そうとするミリーの腰を抱いて引き留められる。
「それは次にして、まずは愛を交わそう?」
「そ、そうね…」
ルーファスに低い声でそっと囁かれて、ミリーは頬を赤く染め上げた。
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