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「ミリー嬢、あなたの行いは目に余る。その悪行の数々はすべて白日のもとに晒されることになるだろう。その前に自ら罪を認めてくれないだろうか」
たくさんの生徒たちが集まる学園の講堂で、口火を切ったのはこの国の第四王子だった。彼の側には公爵家と辺境伯の子息が控えている。それから伯爵家の令嬢も。
「あら」
対峙するのは一人の御令嬢。ミリー侯爵令嬢だ。
艶やかな栗色の髪を下ろし、細部まで手の込んだ華やかな装い。レースの手袋で覆った指先でおもしろそうに扇を広げる。
「一体何のことでしょう?悪行だなんて、わたくしひとつも覚えがありませんけれども」
「っ、な……!?」
令息たちが気色ばむ。
ざわと広がるさざめきには、周囲からのミリーに対する憤りや落胆が混ざっていた。
侯爵令嬢ミリーはその身分を笠に着て、傍若無人に振る舞い、相手の事情も省みず無理難題を押しつけるような人だった。ミリーが気に入らないと言えば白も黒になる。そしてやっぱり白がいいと簡単に翻す。
その被害の多くは高位貴族である王子たちが被ってきたけれど、その他の生徒たちだって散々ミリーに振り回されてきた。彼女は自身の思いつきで混乱する周囲を見て楽しんでいる節もあった。
ようやくミリーの端迷惑な言動を指摘し、わからせる機会が巡ってきたと思ったのに、彼女は何一つ動じていない。
「いい加減にしてください!」
王子たちを庇うように伯爵令嬢が一歩前に出る。
「ミリーさん、あなたのわがままにはもう付き合いきれません。普段の行動を振り返って反省してください。自覚さえしていただければ、罰則も少しは軽く…」
「優しいのね。さすが慈愛の女神と言われるだけあるわ」
ミリーはうっとりと笑った。しかし口元を覆う扇はそのままにこてんと小首を傾げる。
「でも困ったの。だって反省しろと言われても、わたくし本当に心当たりがないんですもの」
それから。
「悪いことをしたと仰いますけど、ルーファス様からは何も言われていないのに?」
ミリーのその一言に、王子も伯爵令嬢もぐっと奥歯を噛む。辟易したように口を開いたのは公爵家の令息だ。
「学園内においてのあなたの非常識な振る舞いに、大公子息のご意見は関係ないでしょうに」
「ルーファス様はなんでも御存知ですわ」
声を荒げて続いたのは辺境伯の子息。
「言われないとわからないのか?さぞや卿のご迷惑になっていることだろうな」
「そうでしょうか」
嫌味を言われてもミリーはたおやかな笑顔を崩さない。ますます彼らの苛立ちが濃くなっていく様を鷹揚に眺めて楽しんでいる。
「ところで皆様、衆人環視の中、揃いも揃ってわたくしにご忠告あそばせられて、ご婚約の件はご辞退なさるということでよろしいのでしょうか?」
ミリーの問いかけにざわめきが大きくなった。
まだ打診の段階ではあったが、第四王子、公爵子息、辺境伯子息は、実はそれぞれミリーの婚約者候補だった。初耳だったのだろう、驚いた顔の伯爵令嬢が忙しなく彼らに視線を送っている。
苦虫を噛み潰したような顔で王子が躊躇いがちに頷く。
「……ああ、そのつもりで考えている」
「それはようございますわ!」
弾けるようなミリーの声。
「常々思っていたんです。他に想いを寄せる御令嬢がいながら、わたくしとの婚約の打診をいつまでも保留にし続けるなんてどれだけ優柔不断なんだろうと。それもお一人ではありませんからね。はやくわたくしに愛想をつかしてくれないものかと気ばかり逸りましたわ」
にこにこと続いたミリーの言葉を要約すると、つまり自分に気のない婚約者候補との縁を切るため、わざと悪感情を煽るような真似をしていたということか。
生徒たちの視線が今度は王子たちに集まる。
「ミリーさんと婚約…?そんな話ひとつも……」
「まだ打診の段階だったからだよ。ミリー嬢、後日、家から正式な書面を送らせてもらうから」
「わ、私もだ!」
愕然とする伯爵令嬢に言い訳をする公爵子息と、その尻馬に乗ろうとする辺境伯子息。
ミリーは「ふふっ」と笑った。
「それには及びません。皆様のご意志はいまのお言葉で確認させていただきましたので」
「何を世迷い言を。きちんと書面を交わさないとこちらは安心できませんよ」
「それはもちろんです。口では破談を謳っておきながら、正式な書面は送っていないから継続するなんて言われたら堪ったものじゃないですよね」
笑顔のミリーに公爵令息がたじろぐ。
本当にそんな姑息な真似をするつもりだったというのか、注がれる視線から彼は慌てて目を背けた。
たくさんの生徒たちが集まる学園の講堂で、口火を切ったのはこの国の第四王子だった。彼の側には公爵家と辺境伯の子息が控えている。それから伯爵家の令嬢も。
「あら」
対峙するのは一人の御令嬢。ミリー侯爵令嬢だ。
艶やかな栗色の髪を下ろし、細部まで手の込んだ華やかな装い。レースの手袋で覆った指先でおもしろそうに扇を広げる。
「一体何のことでしょう?悪行だなんて、わたくしひとつも覚えがありませんけれども」
「っ、な……!?」
令息たちが気色ばむ。
ざわと広がるさざめきには、周囲からのミリーに対する憤りや落胆が混ざっていた。
侯爵令嬢ミリーはその身分を笠に着て、傍若無人に振る舞い、相手の事情も省みず無理難題を押しつけるような人だった。ミリーが気に入らないと言えば白も黒になる。そしてやっぱり白がいいと簡単に翻す。
その被害の多くは高位貴族である王子たちが被ってきたけれど、その他の生徒たちだって散々ミリーに振り回されてきた。彼女は自身の思いつきで混乱する周囲を見て楽しんでいる節もあった。
ようやくミリーの端迷惑な言動を指摘し、わからせる機会が巡ってきたと思ったのに、彼女は何一つ動じていない。
「いい加減にしてください!」
王子たちを庇うように伯爵令嬢が一歩前に出る。
「ミリーさん、あなたのわがままにはもう付き合いきれません。普段の行動を振り返って反省してください。自覚さえしていただければ、罰則も少しは軽く…」
「優しいのね。さすが慈愛の女神と言われるだけあるわ」
ミリーはうっとりと笑った。しかし口元を覆う扇はそのままにこてんと小首を傾げる。
「でも困ったの。だって反省しろと言われても、わたくし本当に心当たりがないんですもの」
それから。
「悪いことをしたと仰いますけど、ルーファス様からは何も言われていないのに?」
ミリーのその一言に、王子も伯爵令嬢もぐっと奥歯を噛む。辟易したように口を開いたのは公爵家の令息だ。
「学園内においてのあなたの非常識な振る舞いに、大公子息のご意見は関係ないでしょうに」
「ルーファス様はなんでも御存知ですわ」
声を荒げて続いたのは辺境伯の子息。
「言われないとわからないのか?さぞや卿のご迷惑になっていることだろうな」
「そうでしょうか」
嫌味を言われてもミリーはたおやかな笑顔を崩さない。ますます彼らの苛立ちが濃くなっていく様を鷹揚に眺めて楽しんでいる。
「ところで皆様、衆人環視の中、揃いも揃ってわたくしにご忠告あそばせられて、ご婚約の件はご辞退なさるということでよろしいのでしょうか?」
ミリーの問いかけにざわめきが大きくなった。
まだ打診の段階ではあったが、第四王子、公爵子息、辺境伯子息は、実はそれぞれミリーの婚約者候補だった。初耳だったのだろう、驚いた顔の伯爵令嬢が忙しなく彼らに視線を送っている。
苦虫を噛み潰したような顔で王子が躊躇いがちに頷く。
「……ああ、そのつもりで考えている」
「それはようございますわ!」
弾けるようなミリーの声。
「常々思っていたんです。他に想いを寄せる御令嬢がいながら、わたくしとの婚約の打診をいつまでも保留にし続けるなんてどれだけ優柔不断なんだろうと。それもお一人ではありませんからね。はやくわたくしに愛想をつかしてくれないものかと気ばかり逸りましたわ」
にこにこと続いたミリーの言葉を要約すると、つまり自分に気のない婚約者候補との縁を切るため、わざと悪感情を煽るような真似をしていたということか。
生徒たちの視線が今度は王子たちに集まる。
「ミリーさんと婚約…?そんな話ひとつも……」
「まだ打診の段階だったからだよ。ミリー嬢、後日、家から正式な書面を送らせてもらうから」
「わ、私もだ!」
愕然とする伯爵令嬢に言い訳をする公爵子息と、その尻馬に乗ろうとする辺境伯子息。
ミリーは「ふふっ」と笑った。
「それには及びません。皆様のご意志はいまのお言葉で確認させていただきましたので」
「何を世迷い言を。きちんと書面を交わさないとこちらは安心できませんよ」
「それはもちろんです。口では破談を謳っておきながら、正式な書面は送っていないから継続するなんて言われたら堪ったものじゃないですよね」
笑顔のミリーに公爵令息がたじろぐ。
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