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「だめだよ」
流星くんだった。
指輪を抜こうとするわたしの手を覆うように上から手を置かれている。指が長くてすらりとしたきれいな手だった。
「これは大事な指輪なんだから、無理言っちゃだめだよ」
「か、かわいいからちょっと気になっただけだって」
彼に注意された女の子は早口でそう言うと、きっ!とわたしを睨んで「そんな古臭い指輪で流星くんの気を引いて」と囁いて去って行った。
なにそれ、そんなことしてないもん。
流星くんも聞いていたんだろう。はあ、とため息をついた。
「ゆめちゃん、ちょっときて」
ゆっくり話がしたい、と言った流星くんに誘われて、大学の近くにあるという彼のマンションに向かった。すこし迷ったけど信じていたからついていった。
彼の部屋の楕円形のローテーブルを挟んで向かい合う。
「来てくれてありがとう」
「ううん」
「あのさ、オレ、ゆめちゃんを見てるとすっごい抱きしめたくなるんだよね」
「え!?」
「ちゅーもしたいけど」
「わああ!?」
信じていたのにさっそく身の危険!?
ざっ、と後ろにのけぞるが彼の瞳は穏やかなまま。
「でもそれ以上にうれしくてたまんなくなる」
そして彼の心のうちを聞いた。
「なんかいつもさ、大好きな人といっしょにいたいのにいられない焦燥感、みたいなのがあって。それが何なのかよくわからなかったんだけど、ゆめちゃんを見たとき、はじめてその穴が埋まったような気がしたんだ」
「…ふうん?」
よくわかんない。
「安心したっていうか、うれしかったっていうか」
「うん」
「とにかくはやくつかまえておかなきゃって思って」
「それ、怖い話!?」
流星くんは「ちがうよ」と笑う。
腕を伸ばして、わたしの手を下からすくうみたいにきゅっと握った。やさしくてあたたかい触れ方だった。懐かしい心地がする。
「オレが、ゆめちゃんをとっても好きって話」
すごく甘い声でそんなことを言うから、思わず「ううう」と唸ってしまった。顔が、顔が熱い。
「なんで、わたし……?」
「なんでなんだろう?かわいいからかな」
「せ、洗脳?」
した覚えもないけど。そうじゃなければ。
「依存?」
きっかけもないけど。
「やだなあ。もっと甘くてやわらかい感じだよ。無敵になれそう、みたいな」
もっとやばそうなのきた。無敵って何。――でも、そっか。
「……うれしい」
無敵はよくわからないけど、満たされるというか、ここにあるのが当たり前と思えるというか。そういうのはちょっとわかる。
「わかってくれる!?」
すると流星くんは、ぱ!と顔色を明るくさせて。
なんだろう。これも知っている気がする。
「ゆめちゃんはオレのこと嫌いじゃない?」
「嫌いじゃないよ。もちろん」
「じゃあ好き?」
きらきらと目を輝かせながら期待するように言われてつい笑ってしまう。「うん」と頷くと、流星くんは「よかったあ」とふんにゃり顔をほころばせた。
びっくりするくらいのイケメンなのに締まらない。そんなところもなんかいい、と思ってしまうわたしは、もう流星くんを好きになっている。
「ゆめちゃん大好き。いっしょにいたい」
「ふふ。わたしも!」
真珠の指輪がやわらかく光る。
しあわせの形がぴたりとはまったような気がした。
―――その後、わたしたちがつき合いだしたことはすぐに周囲に知られることとなった。
「ゆめちゃん!」
だって流星くんがどこにいても飛んでくるから。好き好き攻撃が止まらない。
彼を気になっていた子たちからいろいろ言われたりもしたけれど、それより流星くんのアピールの方がもっとすごいから先に周りが諦めた。はーやれやれまたか、って目で見られるのにも慣れてしまった。
ひいひいひいおばあちゃんとおじいちゃんもこんなノリだったのかな、なんて。
にまにまゆるむ頬が抑えられない。
そんなわたしを見て向かいで羽白ちゃんはふっと笑う。――その笑い方も変わらないな。
「よかった、とてもしあわせそうだ」
おしまい
流星くんだった。
指輪を抜こうとするわたしの手を覆うように上から手を置かれている。指が長くてすらりとしたきれいな手だった。
「これは大事な指輪なんだから、無理言っちゃだめだよ」
「か、かわいいからちょっと気になっただけだって」
彼に注意された女の子は早口でそう言うと、きっ!とわたしを睨んで「そんな古臭い指輪で流星くんの気を引いて」と囁いて去って行った。
なにそれ、そんなことしてないもん。
流星くんも聞いていたんだろう。はあ、とため息をついた。
「ゆめちゃん、ちょっときて」
ゆっくり話がしたい、と言った流星くんに誘われて、大学の近くにあるという彼のマンションに向かった。すこし迷ったけど信じていたからついていった。
彼の部屋の楕円形のローテーブルを挟んで向かい合う。
「来てくれてありがとう」
「ううん」
「あのさ、オレ、ゆめちゃんを見てるとすっごい抱きしめたくなるんだよね」
「え!?」
「ちゅーもしたいけど」
「わああ!?」
信じていたのにさっそく身の危険!?
ざっ、と後ろにのけぞるが彼の瞳は穏やかなまま。
「でもそれ以上にうれしくてたまんなくなる」
そして彼の心のうちを聞いた。
「なんかいつもさ、大好きな人といっしょにいたいのにいられない焦燥感、みたいなのがあって。それが何なのかよくわからなかったんだけど、ゆめちゃんを見たとき、はじめてその穴が埋まったような気がしたんだ」
「…ふうん?」
よくわかんない。
「安心したっていうか、うれしかったっていうか」
「うん」
「とにかくはやくつかまえておかなきゃって思って」
「それ、怖い話!?」
流星くんは「ちがうよ」と笑う。
腕を伸ばして、わたしの手を下からすくうみたいにきゅっと握った。やさしくてあたたかい触れ方だった。懐かしい心地がする。
「オレが、ゆめちゃんをとっても好きって話」
すごく甘い声でそんなことを言うから、思わず「ううう」と唸ってしまった。顔が、顔が熱い。
「なんで、わたし……?」
「なんでなんだろう?かわいいからかな」
「せ、洗脳?」
した覚えもないけど。そうじゃなければ。
「依存?」
きっかけもないけど。
「やだなあ。もっと甘くてやわらかい感じだよ。無敵になれそう、みたいな」
もっとやばそうなのきた。無敵って何。――でも、そっか。
「……うれしい」
無敵はよくわからないけど、満たされるというか、ここにあるのが当たり前と思えるというか。そういうのはちょっとわかる。
「わかってくれる!?」
すると流星くんは、ぱ!と顔色を明るくさせて。
なんだろう。これも知っている気がする。
「ゆめちゃんはオレのこと嫌いじゃない?」
「嫌いじゃないよ。もちろん」
「じゃあ好き?」
きらきらと目を輝かせながら期待するように言われてつい笑ってしまう。「うん」と頷くと、流星くんは「よかったあ」とふんにゃり顔をほころばせた。
びっくりするくらいのイケメンなのに締まらない。そんなところもなんかいい、と思ってしまうわたしは、もう流星くんを好きになっている。
「ゆめちゃん大好き。いっしょにいたい」
「ふふ。わたしも!」
真珠の指輪がやわらかく光る。
しあわせの形がぴたりとはまったような気がした。
―――その後、わたしたちがつき合いだしたことはすぐに周囲に知られることとなった。
「ゆめちゃん!」
だって流星くんがどこにいても飛んでくるから。好き好き攻撃が止まらない。
彼を気になっていた子たちからいろいろ言われたりもしたけれど、それより流星くんのアピールの方がもっとすごいから先に周りが諦めた。はーやれやれまたか、って目で見られるのにも慣れてしまった。
ひいひいひいおばあちゃんとおじいちゃんもこんなノリだったのかな、なんて。
にまにまゆるむ頬が抑えられない。
そんなわたしを見て向かいで羽白ちゃんはふっと笑う。――その笑い方も変わらないな。
「よかった、とてもしあわせそうだ」
おしまい
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