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どうしてこんなにとんとん拍子で話が進むのか。
その疑問は式のいっさいが終わって、部屋で休んでいたときにあっさり解けてしまった。こみつがいることを知らなかった女中たちの噂話を扉越しに聞いてしまったのだ。
「ずいぶん急なお話だったわね」
「それはほら、こみつ様はずっと北辰様にお熱だったじゃない?先方様から急かされたみたいよ」
「ああ、なるほど?」
―――ふうん、なるほど。そういうこと。
こみつも合点がいってしまった。
北辰のお相手は地方豪族の娘で、一昔前なら姫と呼ばれた人だ。
彼女にしてみれば、恋人を慕う幼なじみの女がいつまでもそばをうろちょろしていたらさぞ気分が悪いだろう。こみつはうまく片付けられたというわけだ。その相手に五曜が選ばれて、ああ、だからこそ北辰の結納の日に五曜が呼ばれていたのかもしれない。
うまく組めなかった積み木もひとつ解決すればあっという間。
真相が浮き彫りになって、こみつはひどくがっかりした。五曜のことなんて全然好みじゃなかったけれど、北辰の親友である彼とは少ないながらも交友があって、人となりは知っていたつもりだった。まさかこんな人だったなんて。
「こみつ?」
ぼうっとしていると、戻ってきた五曜が案じるようにこみつの顔を覗き込んでくる。
夫となった相手の顔をじっと見つめ返せば、彼は淡く頬を染め、うろうろ視線を泳がせて、それからにこりと恥じらいながら微笑んだ。こみつはすうと目を細める。
―――信用はしてたのに、ありえない。誰がこんな人を好きになるものか。
***
祝言の夜は初夜だ。
形だけ誂えたような結婚ならその行為は必要ないと思ったのに。
「本当になさるんですか?わたしと?」
正絹の寝具の上で正座するこみつの前で、五曜はたじろいだように肩を揺らしつつも「…もちろん」とはっきり頷く。こみつは目を閉じた。
夫は白い結婚を望んではいなかった。
それもそうか。婚姻を結んでしまえば妻以外を抱くのは不貞になってしまう。それともこみつとの既成事実が必要なのだろうか。
「五曜様はわたしが好きですか」
「当然だよ!」
それは即答だった。
五曜は眉を下げた情けない表情で苦笑している。
「こみつが北辰を好きだったのはよく知っている。でも、これからは私を好きになってほしいんだ」
こみつはくっと眉を顰めた。
どの口でそんなことを。騙すようにこみつを囲い込んだくせに。
ぽろりと白い頬を涙が滑り落ちる。
「わたしは五曜様なんて好きにならない」
「私はこみつが好きだよ」
五曜は苦笑を深めて、ぽろぽろ泣く彼女の涙を長い指で拭う。
そして「ごめんね」とこみつの唇に口づけた。それ以上、否定の言葉を発せないように。
小さく啄むような口づけは次第に深くなり、舌を絡める頃には、こみつは布団の上に仰向けに押し倒されていた。白い柔肌を舌と指とで辿られ、未知の感覚に涙があふれる。
五曜はやさしかった。
けれどこみつははじめからずっと泣いていた。抵抗はしないが、それでもずっと泣いていた。「ごめんね」と「私を受け入れて」を繰り返されて、ますます惨めさが強調される。
「んんっ、あ……っ、いや……!」
胸のふくらみと下腹のあわいに触れられるともうとんでもなかった。ひどい。堪らない。
自分が自分じゃなくなるようで、不安になって泣きながら啼いた。なのに五曜はつらいところばかり触れてくる。とくにあわいは執拗なほど舐められて、こみつは悲鳴を上げて何度も達した。
ついには身体中が脱力して五曜の腕に支えられていないと動けない始末。
「こみつ、いい……?」
いよいよ彼がその身を穿つ頃には、こみつはもう意識を保っていられなかった。
その疑問は式のいっさいが終わって、部屋で休んでいたときにあっさり解けてしまった。こみつがいることを知らなかった女中たちの噂話を扉越しに聞いてしまったのだ。
「ずいぶん急なお話だったわね」
「それはほら、こみつ様はずっと北辰様にお熱だったじゃない?先方様から急かされたみたいよ」
「ああ、なるほど?」
―――ふうん、なるほど。そういうこと。
こみつも合点がいってしまった。
北辰のお相手は地方豪族の娘で、一昔前なら姫と呼ばれた人だ。
彼女にしてみれば、恋人を慕う幼なじみの女がいつまでもそばをうろちょろしていたらさぞ気分が悪いだろう。こみつはうまく片付けられたというわけだ。その相手に五曜が選ばれて、ああ、だからこそ北辰の結納の日に五曜が呼ばれていたのかもしれない。
うまく組めなかった積み木もひとつ解決すればあっという間。
真相が浮き彫りになって、こみつはひどくがっかりした。五曜のことなんて全然好みじゃなかったけれど、北辰の親友である彼とは少ないながらも交友があって、人となりは知っていたつもりだった。まさかこんな人だったなんて。
「こみつ?」
ぼうっとしていると、戻ってきた五曜が案じるようにこみつの顔を覗き込んでくる。
夫となった相手の顔をじっと見つめ返せば、彼は淡く頬を染め、うろうろ視線を泳がせて、それからにこりと恥じらいながら微笑んだ。こみつはすうと目を細める。
―――信用はしてたのに、ありえない。誰がこんな人を好きになるものか。
***
祝言の夜は初夜だ。
形だけ誂えたような結婚ならその行為は必要ないと思ったのに。
「本当になさるんですか?わたしと?」
正絹の寝具の上で正座するこみつの前で、五曜はたじろいだように肩を揺らしつつも「…もちろん」とはっきり頷く。こみつは目を閉じた。
夫は白い結婚を望んではいなかった。
それもそうか。婚姻を結んでしまえば妻以外を抱くのは不貞になってしまう。それともこみつとの既成事実が必要なのだろうか。
「五曜様はわたしが好きですか」
「当然だよ!」
それは即答だった。
五曜は眉を下げた情けない表情で苦笑している。
「こみつが北辰を好きだったのはよく知っている。でも、これからは私を好きになってほしいんだ」
こみつはくっと眉を顰めた。
どの口でそんなことを。騙すようにこみつを囲い込んだくせに。
ぽろりと白い頬を涙が滑り落ちる。
「わたしは五曜様なんて好きにならない」
「私はこみつが好きだよ」
五曜は苦笑を深めて、ぽろぽろ泣く彼女の涙を長い指で拭う。
そして「ごめんね」とこみつの唇に口づけた。それ以上、否定の言葉を発せないように。
小さく啄むような口づけは次第に深くなり、舌を絡める頃には、こみつは布団の上に仰向けに押し倒されていた。白い柔肌を舌と指とで辿られ、未知の感覚に涙があふれる。
五曜はやさしかった。
けれどこみつははじめからずっと泣いていた。抵抗はしないが、それでもずっと泣いていた。「ごめんね」と「私を受け入れて」を繰り返されて、ますます惨めさが強調される。
「んんっ、あ……っ、いや……!」
胸のふくらみと下腹のあわいに触れられるともうとんでもなかった。ひどい。堪らない。
自分が自分じゃなくなるようで、不安になって泣きながら啼いた。なのに五曜はつらいところばかり触れてくる。とくにあわいは執拗なほど舐められて、こみつは悲鳴を上げて何度も達した。
ついには身体中が脱力して五曜の腕に支えられていないと動けない始末。
「こみつ、いい……?」
いよいよ彼がその身を穿つ頃には、こみつはもう意識を保っていられなかった。
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