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悪役令嬢は悪徳商人に囲われる
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目が覚めるとまだ部屋の中は明るかった。
泣きながら眠ってしまったメイヴィスは身を清めてさっぱりしたかった。しっかり布団をかけられていたせいか、肌も汗ばんでいる。
「マヤ、マヤ、湯浴みがしたいわ」
声をかけてベッドを降りるが返事はない。
近くにいないのかしら、とメイヴィスは気にせず、寝室と繋がった浴室に向かう。服を脱ぎ捨てタイル張りのそこへひとり足を踏み入れた。
いつもだったら程よく温められている浴室は少し肌寒く、メイヴィスは子供のようにどきどきした。
―――ヴィンスといっしょに入ったときに教えてもらったわ。ここをこっちに捻るとお湯が出るんでしょう?
コックを捻ると冷たい水が降り注いで、「きゃあ!」と飛び上がってしまった。けれど次第にちょうどいい温度になる。
さあさあと降り注ぐお湯に打たれて心地よいはずなのに、メイヴィスには違和感があった。
なんかへんな感じ…?身体が重いような。
何気なく視線を落としたメイヴィスは、自身の白い内腿を伝う赤い筋に驚いた。えっ?と思って身を屈めた拍子に、ぱたぱたぱたっと赤い鮮血が滴り落ちた。
「……ッ、マヤ!マヤっ!!」
メイヴィスの悲鳴が届いたのか、ちょうど戻ってきたのか、浴室にマヤが飛び込んでくる。
「メル様!?どうし、」
「メル!なにがあった!?」
「旦那様は外でお待ちください!!」
後ろからどうしてかヴィンセントの声が聞こえたが、マヤは扉を閉めてしまった。
「大丈夫です、メル様。マヤがおりますから」
それからメイヴィスは改めて身を清めて、処置をされ、身支度を整えて部屋に戻った。
「メル!」
うろうろしていたヴィンセントが寄ってくる。マヤの話を聞いて頷いたが、メイヴィスを見る目は心配そうだ。手を引かれてソファーへと促される。
「メル様、ご気分はいかがですか」
「すこし気持ち悪いの」
「お腹が痛むなどはないですか」
「それは平気」
「辛くなったら我慢せず言ってくださいね。お薬を用意しますので」
「医者を呼ぶか?」とヴィンセントが言って、メイヴィスは首を横に振ったが、マヤが「念のためご相談しておきましょう」と言った。
「若い女の子が何ヶ月もこないというのは、怖いことなんですよ」
マヤに諭され、メイヴィスはこくんと頷いた。
しかしその後、出血が増えるごとにどんどん気分が悪くなり、下腹もきりきりと痛みはじめて、結局医者が呼ばれた。
医者の見立てでは年齢の割に子宮の発育が遅れており、過度の心労が原因と指摘され、経過観察となった。
「大丈夫か?」
ぎしとベッドに腰掛けて、横になるメイヴィスの前髪を流す。ヴィンセントは結局仕事に戻らなかった。
「私もメルに負担をかけてしまったな。すまない」
「ごめんなさい…」
メイヴィスは目を伏せる。
「王宮にいたときから指摘されていました。月のものがきちんと来ないのは、女として未熟だからだって」
ヴィンセントの眉が上がり、目が細められる。
「それは誰が…?」
「王妃様です。一度今日のようなことがあり、王妃様のお茶会を休んでしまって、そのときお調べになられたようで…」
メイヴィスはまた「ごめんなさい」と言う。
「謝らないでくれ」
ヴィンセントは大きな手でメイヴィスの頭を撫でた。
「私は男だから理解が足りないこともあるだろうが、身体に影響が出るほど根を詰めるのは、やはり間違っている」
「ヴィンス……」
「さらにそれを未熟だ未発達だというのはもっとおかしい。不調が出ているなら…」
そこまで言って「いや」とヴィンセントは下を向いた。
「いや、女性の事情に男が口を出すのは不躾なのか…?この場合は私が…?」
「いいえ。わたくしたちは夫婦ですから、いいんですよ」
メイヴィスは悩むヴィンセントに微笑みかける。
「そういうわけもあって、わたくしは王妃様から疎まれていました。根本的なところで殿下の婚約者としては不適合だったんですよね」
「メイヴィス…」
「いまとなってはどうでもいいことです。けれど」
メイヴィスの手がヴィンセントのそれに重ねられる。
「あなたは違うでしょう…?」
「……え?」
「できないと言われたことはないですが、望みにくいとは思います。わたくしたちは夫婦なのに、それがとても申し訳なくて…」
メイヴィスの瞳が揺れる。
「ヴィンスは御子がほしいのでしょう?」
ヴィンセントは驚いて言葉を失った。
「…メルの子ならとてもかわいいと思うが、私自身は、それほど子供好きでは…」
いや、たしかに誤解を与えるような言動をしたことは認める。
「だって、交わりではいつも中に精を」
「うん」
「触れあいもほとんど毎晩のように…」
「うん」
「婚姻だってあれほど急いで。それは……」
「すべて私がメルを欲しがったせいだな」
ヴィンセントは行儀悪く膝を広げて脚を組むと、「あー」と後ろ髪を雑にかき乱した。
「一応これでも紳士ぶって抑えていたつもりなんだが、全然だめだな。がっついているだけだったな」
「ヴィ、ヴィンス?」
メイヴィスが驚いている。そんな表情もかわいいと、ヴィンセントは「ふはっ」と笑った。
「メル。オレはあなたが愛おしい。ただ愛したいだけだ」
いつもより獰猛な視線が楽しそうにメイヴィスを見つめている。
「オレはあなたからなにも奪いたくないし、辛い思いはさせたくない。ほしいものはすべて与えてやりたい。メルが望むすべてを応援したい」
だから――とヴィンセントは続けた。
「メルが本当にオレとの子供がほしいと思ったら、そのときにまた考えればいいだろ。泣きながら作ったって喜べない」
メイヴィスは目玉が零れ落ちるかと思うくらい目を見開いて。
「無理するな、大丈夫だ」
夫の言葉に泣きそうな顔で笑った。
泣きながら眠ってしまったメイヴィスは身を清めてさっぱりしたかった。しっかり布団をかけられていたせいか、肌も汗ばんでいる。
「マヤ、マヤ、湯浴みがしたいわ」
声をかけてベッドを降りるが返事はない。
近くにいないのかしら、とメイヴィスは気にせず、寝室と繋がった浴室に向かう。服を脱ぎ捨てタイル張りのそこへひとり足を踏み入れた。
いつもだったら程よく温められている浴室は少し肌寒く、メイヴィスは子供のようにどきどきした。
―――ヴィンスといっしょに入ったときに教えてもらったわ。ここをこっちに捻るとお湯が出るんでしょう?
コックを捻ると冷たい水が降り注いで、「きゃあ!」と飛び上がってしまった。けれど次第にちょうどいい温度になる。
さあさあと降り注ぐお湯に打たれて心地よいはずなのに、メイヴィスには違和感があった。
なんかへんな感じ…?身体が重いような。
何気なく視線を落としたメイヴィスは、自身の白い内腿を伝う赤い筋に驚いた。えっ?と思って身を屈めた拍子に、ぱたぱたぱたっと赤い鮮血が滴り落ちた。
「……ッ、マヤ!マヤっ!!」
メイヴィスの悲鳴が届いたのか、ちょうど戻ってきたのか、浴室にマヤが飛び込んでくる。
「メル様!?どうし、」
「メル!なにがあった!?」
「旦那様は外でお待ちください!!」
後ろからどうしてかヴィンセントの声が聞こえたが、マヤは扉を閉めてしまった。
「大丈夫です、メル様。マヤがおりますから」
それからメイヴィスは改めて身を清めて、処置をされ、身支度を整えて部屋に戻った。
「メル!」
うろうろしていたヴィンセントが寄ってくる。マヤの話を聞いて頷いたが、メイヴィスを見る目は心配そうだ。手を引かれてソファーへと促される。
「メル様、ご気分はいかがですか」
「すこし気持ち悪いの」
「お腹が痛むなどはないですか」
「それは平気」
「辛くなったら我慢せず言ってくださいね。お薬を用意しますので」
「医者を呼ぶか?」とヴィンセントが言って、メイヴィスは首を横に振ったが、マヤが「念のためご相談しておきましょう」と言った。
「若い女の子が何ヶ月もこないというのは、怖いことなんですよ」
マヤに諭され、メイヴィスはこくんと頷いた。
しかしその後、出血が増えるごとにどんどん気分が悪くなり、下腹もきりきりと痛みはじめて、結局医者が呼ばれた。
医者の見立てでは年齢の割に子宮の発育が遅れており、過度の心労が原因と指摘され、経過観察となった。
「大丈夫か?」
ぎしとベッドに腰掛けて、横になるメイヴィスの前髪を流す。ヴィンセントは結局仕事に戻らなかった。
「私もメルに負担をかけてしまったな。すまない」
「ごめんなさい…」
メイヴィスは目を伏せる。
「王宮にいたときから指摘されていました。月のものがきちんと来ないのは、女として未熟だからだって」
ヴィンセントの眉が上がり、目が細められる。
「それは誰が…?」
「王妃様です。一度今日のようなことがあり、王妃様のお茶会を休んでしまって、そのときお調べになられたようで…」
メイヴィスはまた「ごめんなさい」と言う。
「謝らないでくれ」
ヴィンセントは大きな手でメイヴィスの頭を撫でた。
「私は男だから理解が足りないこともあるだろうが、身体に影響が出るほど根を詰めるのは、やはり間違っている」
「ヴィンス……」
「さらにそれを未熟だ未発達だというのはもっとおかしい。不調が出ているなら…」
そこまで言って「いや」とヴィンセントは下を向いた。
「いや、女性の事情に男が口を出すのは不躾なのか…?この場合は私が…?」
「いいえ。わたくしたちは夫婦ですから、いいんですよ」
メイヴィスは悩むヴィンセントに微笑みかける。
「そういうわけもあって、わたくしは王妃様から疎まれていました。根本的なところで殿下の婚約者としては不適合だったんですよね」
「メイヴィス…」
「いまとなってはどうでもいいことです。けれど」
メイヴィスの手がヴィンセントのそれに重ねられる。
「あなたは違うでしょう…?」
「……え?」
「できないと言われたことはないですが、望みにくいとは思います。わたくしたちは夫婦なのに、それがとても申し訳なくて…」
メイヴィスの瞳が揺れる。
「ヴィンスは御子がほしいのでしょう?」
ヴィンセントは驚いて言葉を失った。
「…メルの子ならとてもかわいいと思うが、私自身は、それほど子供好きでは…」
いや、たしかに誤解を与えるような言動をしたことは認める。
「だって、交わりではいつも中に精を」
「うん」
「触れあいもほとんど毎晩のように…」
「うん」
「婚姻だってあれほど急いで。それは……」
「すべて私がメルを欲しがったせいだな」
ヴィンセントは行儀悪く膝を広げて脚を組むと、「あー」と後ろ髪を雑にかき乱した。
「一応これでも紳士ぶって抑えていたつもりなんだが、全然だめだな。がっついているだけだったな」
「ヴィ、ヴィンス?」
メイヴィスが驚いている。そんな表情もかわいいと、ヴィンセントは「ふはっ」と笑った。
「メル。オレはあなたが愛おしい。ただ愛したいだけだ」
いつもより獰猛な視線が楽しそうにメイヴィスを見つめている。
「オレはあなたからなにも奪いたくないし、辛い思いはさせたくない。ほしいものはすべて与えてやりたい。メルが望むすべてを応援したい」
だから――とヴィンセントは続けた。
「メルが本当にオレとの子供がほしいと思ったら、そのときにまた考えればいいだろ。泣きながら作ったって喜べない」
メイヴィスは目玉が零れ落ちるかと思うくらい目を見開いて。
「無理するな、大丈夫だ」
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