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悪役令嬢は悪徳商人に囲われる

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その日、平民街の教会でひっそりと結婚式が行われた。

新郎はヴィンセント・レアード。
王都を拠点に国中に支店を持つ大商会、レアード商会の会頭。
新婦はメイヴィス・ジーン。
白金色の髪に透き通る青い瞳を持つ、妖精のように美しい女性だ。

精悍な花婿に麗しい花嫁。その一対はまるで絵画のように美しく、式に参列した僅かな者は『夢のようだ』と声を揃えた。


本来、大きな商会の会頭であり、辺境伯の三男でもある貴族のヴィンセントがこのような小さな会場で秘密裏に式を挙げるのは訳があった。

花嫁の以前の名は、メイヴェル・バーネット。
国王陛下の覚えもめでたい『国王の忠実なる臣下』バーネット侯爵の長女で、婚約破棄された元第一王子の婚約者だったから。



***
「マヤ、今日はありがとう」


メイヴィスは自身の世話係であり、屋敷の女中頭であるマヤに心からの礼を告げた。


「素敵な御式でしたよ。メル様はとてもお綺麗でしたし、旦那様もすごく男前でしたね」


ふくよかで丸い顔の初老の女中は穏やかな笑みを浮かべる。


「ですがまだ終わりではありません。さあ、今夜のために奥様をもっと磨きあげて差し上げますよ」

「え、ええ…」


意気込むマヤの言葉にメイヴィスは頬を赤く染めて俯いた。結婚式の夜といえば――初夜だ。

ヴィンセントはメイヴィスに甘い。どうも外堀を埋めてくる傾向はあるが、毎日のように褒めそやされ、甘やかされて、メイヴィスもすっかり絆されてしまった。
野性味のある硬質な美丈夫なのに、メイヴィスを目にすると柔らかく目元を緩めるのが堪らない。元々淡い好意を抱いていたが、ヴィンセントの傍は心地よくてすっかり離れがたくなってしまった。

とはいえこれまで性的な接触はひとつもなかった。大きな掌で頭を撫でてもらったり、手を繋いだり、キスだって頬に挨拶程度。


―――どうしよう、緊張する…。


メイヴェルの頃は第一王子の婚約者だったが不仲だったせいで色めいた接触は一度も経験がない。けれど今日、式を挙げた二人は晴れて夫婦になった。


王妃教育で習った閨の所作…えっと、全然思い出せない…!


マヤに浴室で全身くまなく洗い上げられ、香油を使ってマッサージされたメイヴィスは、夜着を着せられ夫婦の寝所で小さくなっていた。
羞恥からじわじわと体温が上がって、つやつやもちもちにされた肌から華やかな匂いが立ち上る。

どきどきしすぎて息が止まってしまいそう。

抱えていた膝を崩して深呼吸をしたところで、扉が開かれた。


「メル」

「っ、ヴィンス…」


部屋に入ってきたヴィンセントはメイヴィスを見るや、ふっと相好を崩した。

それからメイヴィスが待つベッドに向かう前に、ナイトテーブルに用意された水差しから水を一杯注いで差し出してくる。


「大丈夫か?」


黙ったまま首を横に振る。受け取ったコップに口をつけると、爽やかなハーブの香りがした。


「平民街で会ったときは近寄りがたい高貴なご令嬢だったのに、いまは緊張して震える子猫そのものだ」

「だって…。こんな情けないわたくしはいやですか?」

「いいや?どちらも愛おしいよ」


ちびちびと飲んでいた水を取り上げられ、ナイトテーブルに戻す。何ともなしに視線で追っていると、戻ってきたヴィンセントに顎を取られ唇を重ねられる。


「ん…っ」

「私の美しい花嫁」


閉じたままの唇を数回押しつけて、それから滑るように横に擦り合わせられる。大きな手でやさしく後ろ髪を撫で下ろされて、強張っていた肩から少し力が抜ける。


「ん、ん」


何度か小さく吸いついてから、ヴィンセントは軽く口を開いてメイヴィスの唇を食んだ。

男性らしい大きな口と濡れた感触にかあっとなる。
メイヴィスが小さく眉を寄せて、逃げるように顎を引くと、後ろに回った手に押さえられて追いかけてきた唇に今度こそ丸ごと食べられてしまった。


「んっ、う…!」


ぺろりと下唇の内側を舐められて、ぞくっとする。
そのまま歯列をこじ開けるように舌をねじ込まれ、メイヴェルはぴくんと肩を跳ね上げた。


「っあ!」


あとはもう我が物顔で潜り込んできた舌に口の中を舐られる。ちゅくちゅくと濡れた音が響いて、かああっと頭に血が上る。
後ろに下がれば下がっただけ迫られて、いつの間にかメイヴィスはベッドに仰向けで倒れ込んでいた。


「は…っ、はあっ、こんな、いきなり…」

「はは、かわいい」


ようやく唇を解放されて荒い呼吸を繰り返す。
けれどその吐息すら飲み込むように、ヴィンセントはまた濡れた唇に吸いついてくる。メイヴィスは男の手管に翻弄された。


髪を撫でていた手がするすると降りてきて、肩や腕の辺りを宥めるように往復する。あたたかい感触にうっとりする。メイヴィスの唇が緩く綻べば、再びぬるりと肉厚の舌が滑り込んできて口腔をあちこち愛撫される。

―――ああそうだ。閨教育では男性に身を任せろって…。

するり、と夜着の前のリボンを解かれてはだける。メイヴィスの絹のように滑らかで白い肌が露になった。下着は身につけていない。


「んんっ」


恥ずかしさに身じろぐとより深く舌を絡めて吸い上げられる。大きな掌で、鎖骨から胸の中央の胸骨を辿り、みぞおちまでゆっくり上下に撫でられる。
男の指の硬さや体温に馴染んできた頃、下から掬うように右胸を掴まれた。


「んう…っ!」


柔らかい膨らみがヴィンセントの手の中でむにゅりと形を変える。質感を楽しむように揺らされて、吐息が乱れた。


「あっ、や、や……っ」


どこもかしこも細いメイヴィスは胸も慎ましやかで、実はコンプレックスだった。大きなヴィンセントの手で隠されてしまうサイズにまた別の恥ずかしさが込み上げる。むにゅむにゅと揉み込まれる度、親指と人差し指の間から零れた胸の先端がじりじりとする。

普段は整いすぎて人形めいた顔立ちのメイヴィスが、顔を真っ赤にさせて情けなく眉を下げ、うるうると瞳を揺らしている。ヴィンセントは堪らなくなって、無防備に晒されていた左の胸の尖りに吸いついた。


「ああ…っ!!」


びくっと跳ねたメイヴィスが高い声を上げる。

ちゅうちゅうと吸いついて、舌先でころころと舐め上げる。同時に右の胸も指先で同じリズムで苛めてやる。


「やっ、あ、あ……っ!」


ぴくぴくと肩を揺らして、ますます真っ赤になったメイヴィスは細い腕を掲げて顔を隠してしまった。

ヴィンセントは小振りな胸を愛しながら、どくどくと響く彼女の鼓動を感じた。


「ああメル…なんて愛おしい」
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