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7.休日
しおりを挟むタケルの家に泊まりに来ている僕とマサル。タケルが自分の口から過去の因縁を話してくれた。
「神田さんがいじめっ子側についたっていうのは…?」
恐る恐る聞いてみた。今まで神田さんと今まで話した時間は短いけれど、悪い人では無いと思ったからだ。
「そのままの意味だよ。お金取った方についたんだよ。俺はカッとなって神田に怒鳴っちまった。それでも神田はひかなかった。いつもは俺にビビってたヤンキー達も、神田が味方についたもんだから煽ってきたんだな」
「そうやったんや…その事件は解決したん?」
マサルが悲しそうな顔で訊く。いつもの笑顔が恋しい。
「結局取った取ってないで解決しなかった。俺は取られたやつにお金渡して、それ以後は揉め事も他人の事情にも深入りしないって決めたのさ」
「タケルが取られたお金補填する必要ないのに。先生とかに相談しなかったの?」
単純な疑問をぶつけてみた。
「受験前で、両方とも大事にしたくなかったらしくてな。額も少ないし先生に報告とかはしなかった。」
お金戻ってこなかったら嫌な思いするだろ?とタケルが真顔でお菓子を食べながら言う。優しい男だな。それが正しいとは限らないけれども。
「そしてそのまま今日に至ると。うーん、まだよくわからないな」
そう呟くとタケルが少し嫌そうな顔をした。
「強い奴が弱い奴をイジメる構図を阻止したんだ。それでいいじゃないか。正直、神田に裏切られた気持ちで最近までテンションあがらなかったんだけどな。コウやマサルとこうして遊んでて元気出てきたよ」
ありがと、と小さく頭を下げるタケル。この話題はそろそろ締めに入るらしい。しばらく神田さんの事は話題に出さない方がいいだろう。
その後も対戦ゲーム等をしながら、タケルのお母さんが作ってくれた晩ご飯を美味しくいただいたり、順番にお風呂に入ったりして就寝した。
翌日はゲームを早々に切り上げ、タケルの育った町を3人で見て廻ったりして楽しんだ。
「山ばっかりで何もないだろ?ま、来てくれてありがとな。次はマサルかコウの家に行きたいよ」
タケルの顔は少し微笑んでいた。本当に楽しかったのだろう。
「いやいや。珍しい景色とか川とか人情味あるゲーム屋とか行けて良かったわ」
マサルがニコニコしながら言う。僕も頷いて同意した。
「じゃーちょっと帰るの早いから皆であそこ行こうぜ」
タケルが指差したのはこの辺りでは珍しい洒落たカフェ&雑貨屋だった。駅からタケルの家までの道中にある。
「いいね! 男3人で入るところか微妙だけど」
そう茶化しながら内心僕は嬉しかった。二人には言ってないし言うつもりもないが、僕の趣味の一つにカフェ巡り(スイーツ目当て)があるからだ。
「いらっしゃいませ~! 3名さまで…ってあれ?」
白いシャツにブラウンのエプロンを着けた女性がこちらを見て言葉が止まる。
「あれ~! 岡田くんと小原くんじゃん! 休みの日まで仲良いね♪ えっともう一人の君は?」
可愛らしいウェイトレスさんは上山さんだった。制服姿もお洒落だが、シンプルな格好もよく似合う。マサルは顔が赤くなっている。
「久しぶりだな、上山」
タケルが仏頂面で言う。敵意がある訳ではなく、興味がないのだろう。上山さんがハテナな顔をしていたので、タケルだよと教えてあげた。
「えっタケちゃん?! なんか、雰囲気変わったね…気付かなかったよ」
入学してから一度も顔を合わせていなかったらしい。昔のタケルはどんな感じだったのだろうか。
ソファ席に案内してもらって上山さんが注文を取りに来た。
「この辺見てきたの? あおいの家とか見てきた? 大きいし見応えあるよ」
そう言って上山さんは微笑んだ。神田さんの話題はタブーな感じなので焦る僕とマサル。
「見てきてない。家見て楽しいかね。他にもあるだろって」
そっけないタケル。機嫌は悪くはなさそうだけど。
「そっか。詳しくはあたしは知らないけどさ、あおいと仲良かったタケちゃんって生き生きしてたよね。あたしはみんなが仲が良いのが好きだなぁ~」
そう言って注文待ちな上山さん。僕とマサルは思わず黙り込む。
「まだ気持ちが整理ついてないってことにしといてくれ。ずっとこのままって訳にもいかないしな」
タケルの前向きとも取れる発言に僕は少し嬉しくなった。
飲み物とスイーツを注文してスマホゲームの話題で盛り上がる。タケルはどハマリしてしまったようだ。高校生になった事だし、上山さんを見習ってバイトをするとかバイト代を課金に使うとかで話題は尽きなかった。
カフェを後にして駅に着き、タケルとさよならをしてマサルと電車に乗った。途中までマサルと一緒の電車だ。
「タケルと神田さんの話、まだ謎が多いな」
マサルが隣の席で呟く。マサルもそう思ってたか。
「そうだね、神田さんからの話も聞きたいところだね」
そう答えて、二人で神田さんと話してみようということになった。
「しっかし上山さんは似合ってたな~。良いカフェやった」
マサルは思い出して顔が少し赤くなっていた。そして思い出した、と言わんばかりに
「そういえばあのカフェにヤスオくん居たよ、気付いてた?」
カフェでは閉店時間が近づいていた。上山チサトは今日は良く同級生が来店したな、と思いながらテーブルを拭いていた。
あおいがあんなに他人に興味を持つなんて、岡田くんは一体どんな人なんだろうと思った。今日も偶然会ったけど、何の変哲もない普通の男子高校生である。そして以前のメッセージのやり取りを思い出す。
『お疲れ様。ちょっと気になる人が居てどんな人か教えてほしいんだ。岡田くんっていうんだけど、マリって同じクラスだよね?』
『久しぶり。岡田君? 普通に地味な人かな? 上山さんが興味持つ様な人じゃないと思うけど』
完全に恋愛の相談か何かと勘違いしてるよね、と苦笑するのだった。
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