6 / 8
6.友は語る
しおりを挟む自販機で飲み物を買っていたら神田さんに絡まれた僕。
「話したいのは山々なんだけど、神田さんお昼ご飯食べた?」
「むぅ、ちょっとだけ話そうよ。話し終わったら食べる」
「そうなんだ。じゃあちょっとだけ話そうか」
そう言うと僕は財布を仕舞った。心の壁を無視してグイグイくるな。
「何の用でもないんだが、私は今まで異性に全く興味がなくてな。それがこの間駅でコウさんを見てからどうもおかしい」
「それ僕じゃなくてマサルじゃない? 実際オジサン抑えてたのマサルだし」
「小原君にもお礼を言った時に少し話したが、特別何も感じなかった。もちろん感謝はしてるがな。少年よ。こういうのは理屈じゃないんだよ」
急にそんなこと言われてもリアクションに困ってしまう。てかタメじゃん。
「それで僕がどんな奴か知りたいと。でも何もない陰キャだと思うんだけど」
自虐的に笑ってみせた。
「そういう表面的なところじゃないんだよ。もっとその人の本質を私は見てるつもりだ。そんなに卑屈になることないさ! もっと私と話してくれるだけでいいんだ」
神田さんは真顔だった。目を思わず逸してしまった。なんて真っ直ぐな言葉なのだろう。
「わかったよ。また、話そう。タケルとマサルを待たせてる」
「そういうことは早く言ってよ! 友達は大事にしなさいね」
じゃっまたね、と神田さんは去っていった。嵐の様な子である。
去り際の笑顔が偽りなのか社交辞令なのか、はたまた本物なのか。僕は少し鼓動が速くなった。
教室に戻るともう二人は食べ終わっていた。特に気を遣って待っていてくれたりしないところが一緒に居て楽でもある。
「遅くなった。いただきます」
僕はお弁当箱の蓋を開けていただきますした。
「遅かったな。どこの自販機まで行ってたんだ? 俺の知らない自販機がまだこの学校にはあるのか?」
タケルが笑いながら冗談を言う。今日は機嫌が良いみたい。
「ごめんごめん。色々喋ってた。腹減った~」
タケルの冗談に頬がゆるむ。そしてなんとかお昼休み間際に食べ終わるのだった。
土曜日になり、僕は朝から電車に乗った。部活の為学校に行く、のではない。そもそも部活どうしようかな。タケルの家にお泊りさせてもらうのだ。
スマホの地図のお陰でタケルの家に着いた。周りは山に囲まれているが、家の前は大きな国道だ。近くにはコンビニとファミレスがあるだけである。
スマホで着いたよ、と連絡を入れてからチャイムを押す。こんにちは、とタケル母が出迎えてくれた。
「お邪魔します。岡田コウと申します。これ、つまらない物ですが」
「あらあら、ご丁寧にありがとうね。」
いかにも母ちゃんといった風貌のタケル母に連れられてタケルの部屋まで案内してもらう。
「やぁやぁ待ってたよ、コウ」
ニコニコしながらマサルが言う。もう来てたんだ。
「広い家だね。庭まである」
「まぁ田舎だからな。土地は広いかも。古い家だよ」
大した事ない、という顔のタケル。
「お、もうやってるね。レースのやつ僕もやりたいぜ」
そう言うと空いているコントローラーを握りしめるのだった。
半日ほどゲームを楽しんだ後、少し休憩することになった。持ち寄ったお菓子を開けつつタケルが口を開いた。
「神田あおいとの事少し聞いてるだろ?」
僕とマサルは顔を見合わせてからタケルを見て頷いた。
「まぁお菓子食べながらで悪いが改めて過去の話をさせてもらうよ。気になるだろうし」
タケルはそう言うとポテチを何枚か口に入れた。
「昔から、俺は弱い者いじめが大嫌いだった。マンガやアニメのヒーローはいつも弱い者の味方だろ?」
「そうやな、確かに」
マサルが相槌を打つ。僕もうんうんと追随した。
「うちの学校でもいじめみたいな事が起きてたんだけど、俺はその度にいじめっ子と闘ってきた。自分で言うのも何だけど、一目置かれてたと思うよ」
タケルは懐かしそうに笑いながら言った。
「揉め事があると直ぐ飛んでった。自分のクラス以外でもな。次第に頼られる事も多くなった。あとはもう一人一目置かれてたのが神田あおいだな」
「家が道場で古武術やってるんだっけ?」
本人が確かそう言ってたのを思い出した僕。
「聞いてるか。実戦では最強だな。神田は滅多に手は出さないが。強さとは別でカリスマ性があり人気もあった。あと、弱い者いじめが嫌いだ」
あれ、タケルと一緒じゃん。
「俺と一緒だと思うだろ? 正解だよ。よく一緒にいじめっ子を懲らしめてたんだよ」
「それじゃあどうして?」
マサルが真剣な顔で訊く。その顔から笑顔は消えていた。
ふぅ、と溜め息をつくタケル。そして数枚ポテチを口に入れてから咀嚼する。僕とマサルは何も言わずタケルの言葉を待った。
「ある時、クラスメイトがいじめっ子にお金を取られたと相談しに来たんだ。もちろん俺は怒っていじめっ子の所に行った。─そしたら、神田あおいがいじめっ子側についたのさ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる