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始まり

冒険者

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 「お待たせしました。槍王そうおう様及び魔法王様の推薦状の確認ができましたので、こちらをお渡ししますね」

 レナトとの戦いに勝利した俺は、当初の目的である冒険者登録をするため、受付に改めて顔を出していた。
 隣では、白い槍を携えたアクネルと、受付に預けていたオレンジ色の結晶を、返還してもらって抱きかかえるレナンが立っている。
 俺がカウンターに置かれた認識票ドッグタグを手に取ると、受付のお姉さんは次に一枚の紙をカウンター上に置いた。

 「それでは、冒険者に登録された海人様には、改めて冒険者というものについて説明させていただきますね」

 俺は受付嬢の指さす項目をのぞき込む。

 「まず初めに、いかなる冒険者もランクは銀色のアルジェントからのスタートになります。」

 「成程」

 「はい。「アルジェント」は一番下のランクとなり、そこから「オーロ」、「ビアンカ」、「ネーロ」、「白金プラーティノ」、「ロッソ」と上がっていきます。ランクの上がる条件は、クエストに設定されているポイントを加算していき、必要ポイントに達したところでランクが上がるシステムとなります。海人様の「アルジェント」から、次の「オーロ」に上がるためには50のポイントが必要となり、その内訳には5ポイントのクエストを二つ以上達成と言う条件が課せられています」

 「成程な。最低点のポイントを稼いでランクを上げたとしても、そのせいで実力が釣り合わないという可能性を潰しているわけか」

 「そういうことです」

 「でもそうなると、上級の冒険者と一緒に行って達成した場合は、ポイントの加点が難しくなるんじゃないか?」

 「その場合でも、平等にクエストに設定されたポイントが加算されます。しかし、たとえそれでランクを上げたとしても、「ビアンカ」 までが限界です。その上である、今日海人様が戦ったレナト様のランクでもある「ネーロ」に上がるためには、必要ポイントの他にさらなる条件が課せられます。これはその都度で違う内容になりますので、その時になってみないと分からないのです」

 「成程なぁ。意外と対策されてるわけだ」

 「そうですね。冒険者というものは、そもそもは軍の代わりに魔王軍と戦う戦力として、民間から募って立ち上げられた組織です。人類の砦である王都を護衛する軍の代わりに、最前線で魔王軍の情報取集や戦力との交戦が主な仕事になりますので、厳しいぐらいが丁度いいのです。それにポイントが高いということは、それなりの危険性が孕んでいるという事。死ぬ可能性が少しでもあると感じれば、自然と身の丈に合ったポイントのクエストを選んでいきますよ」

 「確かにな」

 「はい。では次に、冒険者における報酬の説明に入っていきますね……」

 こうして、受付嬢による30分に及ぶ冒険者講座を終えた俺は、アクネルとレナンと三人で集会所内の食堂で休憩を取っていた。
 周りの席では他の冒険者が、飲み食いをして楽しそうにはしゃいでいる。

 「長かった……」

 「バエちゃん、お疲れさま」

 「ほんとにな、あの受付嬢、淡々と説明してよく疲れないな。もう俺は途中から頭に入ってこなかったわ」

 「レナンも冒険者になった時はあの受付の人に説明してもらったけど、途中から寝てたもん」

 「それはダメだろ。と言っても、俺も人のことは言えんか」

 俺は机に突っ伏せながら、先ほど受付嬢が見せながら説明していた紙に目を通す。
 途中からの内容がほとんど頭に入ってこなかったために、一応貰ってきたのだ。

 「冒険者はランクによって基本報酬が変わって、「銀(アルジェント)」である俺は15万デナーロ。この世界の金銭価値と日本の金銭価値は全くと言っていいほど一緒だから、そこはすんなり受け入れられるな」

 俺は説明用紙と一緒に貰ったもう一つの物を、ズボンの右ポケットから取り出す。
 それは、祝い金という形で渡された基本給だ。
 
 「1万札の形で15枚か。なんかこの世界、文字も漢字やローマ字が使われてるしで、日本とそっくりだな」

 世界観は全く違うが。

 「何を言ってるか分からないが。あまり無造作に金を取り出すもんじゃないぞ……見ろ。そこに預け屋があるだろ?」

 アクネルが、先ほどの受付嬢がいるカウンターの少し奥を指さした。
 そこには、金網で仕切られたカウンターが存在していた。 

 「あそこは各個人のお金を管理、保管してくれる場所だ。全額持ち歩いてると、失くした時に痛い目を見るからな。預かり額は、認識票ドッグタグに記載されるから、いつでも残額を確認できる。これも冒険者の特権の一つだな。普通は自己管理が鉄則だ」

 それはありがたい。

 「じゃあ、預けてくるか」

 俺が立ち上がると、アクネルとレナンも同様に立ち上がった。

 「ついてくるのか?」

 「つていくというか、もうここに用は無いからな」

 「あ、成程ね」

 その後、預かり屋にて13万デナーロを預け、認識票ドッグタグに魔法によって数字を記載してもらった俺は、アクネルとレナンと三人で集会場を後にした。
 外に出ると、空はすっかり暗くなっており騒がしい集会場と違って、街は少し静かな雰囲気に包まれていた。

 「それじゃあ、家に帰ろうか」

 「うん!」
 
 アクネルが歩き出すと、レナンが後をついていくように歩き始めた。

 「じゃあ俺はホテルに泊まるよ。明日は何時にどこで集合すればいいんだ?」

 流石に仲間になったとはいえ、女2人の家に泊まるわけにはいかないからな。
 そこは線引きをしておかなくちゃいけない。
 だが、振り返ったアクネルとレナンは不思議そうな顔をしていた。

 「ホテル?お前は何を言ってるんだ?」

 「そうだよバエちゃん。レナンたちはもう仲間だからね。いつでもどこでも、一緒に行動するのが仲間だよ」

 「え、いいのか?」

 「良いも何も、仲間を一人でホテルに泊めるパーティがどこにあるんだ?いいから早く来い、置いてくぞ」

 「ほらバエちゃん!行くよ!」

 俺が茫然としてると、こちらに駆け寄ってきたレナンに右腕を引かれた。
 まあ、二人が良いならいいか。
 別に、俺自身が何かしようと思ってるわけでもない。
 それに、もしそういうことを強要したとしても、多分殺される。

 俺はこうして、先を行くアクネルの後ろをレナンに腕を引かれながらついていき、やがてティエラの街を離れると、孤立した一軒の屋敷の前に到着した。
 
 「デカすぎるだろ……」

 目の前にそびえたつのは、2階建ての洋風な屋敷だった。正面からは、2階には最低でも5つの部屋があると分かる巨大な窓ガラスが見える。
 周りは俺の身長程の石壁に囲まれ、その石壁の上にはさらに鉄格子が設置されていた。

 「ここに2人で住んでるのか?」
 
 「ううん。3人だけど……あれ?でも電気ついてないね?」

 「そうだな。出かけてるのか?」

 二人が顔を見合わせて首を傾げている。

 「何だ?この家には、2人の他に誰か住んでるのか?」

 「ああ。だが、今は留守のようだな。いつもは私たちが帰るまで起きてるから、寝ているということはないと思うが。まあ、待ってればそのうち帰ってくるだろう」

 アクネルが敷地内に入るために、巨大な鉄柵の門の片側を開き、中に入ったその時だった。
 屋敷の2階の真ん中の窓が勢いよく開かれ、一つの影がこちら目掛けて突っ込んできた。

 「おかえりなさ~~~い!!!待ってましたよーーーーー!!……痛いっ!!」

 こちらに迷わず突っ込んでくるその影に、俺は思わず重機化をしてしまった。
 
 「おい大丈夫か?」

 俺は、足元でうずくまる人影に歩み寄る。
 最初こそ暗くて分からなかったが、月明かりに照らされるその姿は、紺色のスカートに白いエプロンといったメイド姿をした、水色ショートカットの女性だった。

 「何ですかあなたはっ!私はアクネル様に抱きつこうとしたのに!!」

 鼻を抑えて涙目になって睨んでくる、水色髪ショートのメイド。
 心配したのに怒られた。まあ、確かに重機化したのは悪かったかもしれないが、もとはといえばそちらが突っ込んできたのが原因だろうに。
 それに俺に頭から激突したのを見るに、アクネルだったとしても鎧で守られているから、多分同じように鼻を痛める結果は変わらないだろう。
 
 「なんだ、この娘は」

 俺がアクネルを見ると、呆れたようにため息をついた。

 「こいつは一年前ぐらいから、住み込みで働いてもらってるフローズだ」

 「あー、だからメイドの格好をしてるのか」

 ふと、目の前のフローズが立ち上がると、スカートのほこりを落とすようにはたきだした。
 やがて、はたき終えると姿勢を正し、俺の顔をまじまじと観察しだす。
 時折、鼻を鳴らして匂いを嗅いだりもしており、まるで犬みたいなやつだ。

 「お前誰だ?嗅いだことある匂いだが、何か違う」

 フローズが怪訝そうな表情を浮かべる。
 嗅いだことある?別世界から来た人間の匂いを知ってるのか?それとも、二人のどちらかの匂いが混ざってるからなのか?
 まあ、ここは警戒を解いてもらうために、一先ず名乗っておこうか。
 
 「俺は赤波江 海人だ。別世界から来て、新しく仲間になったから一緒に住むことになったんだ。よろしくな」

 俺が手を差し出すと、フローズは驚いた様子で目を見開くと、アクネルとレナンを見る。

 「え?こいつ、仲間になるんですか?」

 「そうだ」

 「そうだよ?」

 二人に即答されると、フローズが急にご機嫌な態度を取り始めた。

 「そうだったのか~。まさか、二人に男の仲間ができるなんて思わなかったよ~。さっきはぶつかってごめんな!私の名前はフローズっていうんだ、これからよろしくな!」

 「おう、よろしくな」

 よくわからないが、打ち解けてもらえたようだ。

 「ささ、3人ともお疲れでしょ?食事の用意も、お風呂の用意もできてますよ」

 そう言って、上機嫌で前を歩き始めたフローズ。
 
 「ん?」

 俺はその後ろ姿を見て、とあることに気づいた。
 フローズのスカートの中から、僅かに見えるしっぽのようなもの。
 その時、俺はさっきのフローズの言動を思い返し、思わず声を上げた。

 「お前、そのしっぽって?!」

 すると、フローズは振り返ると、手招きのようなポーズを取った。
 それと同時に、頭に2つのとがった耳が出現する。

 「そうです!私は狼の獣人で~す!」

 犬じゃなかった。

 「狼の獣人?」

 「そうです!この世界には獣人と呼ばれる種族がいるんですよ。王都に行けば、他の獣人に会うと思いますよ」

 「へぇ」

 獣人か。エルフのレナンに、獣人のフローズか。

 「アクネルは人間か?」

 「当たり前だ。馬鹿なこと言ってないで、早く入れ」

 残念。ここまで来たら、アクネルにも何かあると思ったが。
 
 俺は少し肩を落としながら、屋敷の中へと入っていくのだった。
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