魔法少女(♂)、辞めたい

冨士原のもち

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第十四話 次の恋の心配

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「恋心を消費・・・?」

切なそうに真っ直ぐ和彦を見つめる望月の表情に、こんなタイミングなのに和彦はときめく。
そして一瞬後に言葉の内容を理解した。和彦はギギギっと古い扉を開ける様な鈍い動きで振り返る。

「どういうことぽよちゃん?」
「えーっと・・・」

蹲ったまま気まずそうに目を逸らすぽよちゃん(大)。今は精悍な成人男性の姿だが、バツが悪くなって誤魔化す時のぽよちゃん(小)とそっくりだ。同一人物なので当然だが。

「あ!やばッ!」

蹲って気まずそうにしていたぽよちゃんが焦り出したと思ったら、輪郭が崩れ砂できた銅像が風に吹かれるように消え去った。

「え?ちょっとぽよちゃんどうしたの!?」

人が1人消え去った空間を和彦はポカンと見つめる。

え?なに?
もしかして、死んだ・・・?

望月の放った光線にあたってから、ぽよちゃん(大)がずっと蹲っていたことを思い出す。不思議生物にも成人男性にもなれる地球外生命体が死ぬ時ってもしかしてこうなのか・・・?そんなことが脳裏に過ぎり血の気が引く。

「さっきの光線はあいつを地球外に強制的に一時退去させるものです。死んではいないので安心してください。」

近づいて来て和彦の肩に軽く触れると、パッと変身していた姿が元に戻る。和彦の驚いて望月を見ると、望月はホッとした様子だった。

「へ?朝まで変身は解けないって聞いてたんだけど・・・」

それも嘘だったのか・・・?

変身が解けたことを望月の攻撃とは捉えずぽよちゃんが偽ってたのかという思考に至るあたり、和彦の中でのぽよちゃんと望月の信頼の秤は望月に傾いているのがわかる。

「小巻さんが呪文を唱えての変身じゃないから解除できるかなと思って。成功して良かった。」
「あ、そうなんだ・・・」

何にせよ、良かった・・・
こんな真っ昼間に魔法少女姿で、会社の屋上からどうやって人に見つからずに帰ろうかと思ったよ。

はぁーっと安堵のため息を着く和彦の横で望月が腕時計を見た。その仕草でハッとして自分も時計を見る。短針は1を指し、長針は12を少し過ぎていた。

「あ、昼休憩終わってる!」
「大丈夫ですよ。僕と小巻さんの半休申請だしときましたから。」

そう言った望月は昔から知っている気の利く後輩にしか見えない。
普段のスーツ姿に戻り、目の前にいつも通りの爽やかな望月がいると先ほどまでの出来事は夢だった様に思える。

「いろいろ聞きたいですよね。説明します。」

望月は近くのベンチに座り、ポンポンと隣の座面を叩いた。その促しに従って隣に腰を下ろす。
戦闘の影響で雲が流れたのか、切れ間から日差しが差し込んだ。

「ちなみに、本当にぽよちゃんは大丈夫か?」
「地球の時間であと10分くらいすれば戻ってくると思いますよ。」

10分後に戻ってくるという具体的な言葉を聞いて、和彦はホッと安心して胸を撫で下ろした。なんだかんだ言っても何日も寝食を共にした仲だ。
だが、望月はその反応が少し不満そうな拗ねた顔をして呟く。

「あんなやつ、小巻さんに心配される様な価値のない存在だと思いますけどね。」
「それって、さっき言ってた騙されてるってやつ?」
「はい、そうです。」

望月曰く、ぽよちゃんの言い分はだいぶ---星に偏って言われていた様で、もともと望月の属する××星は後の地球に遥か昔からやってきていたそうだ。
なんでも、地球人には認識できないエネルギー?がありそれを地球人の迷惑にならない様に採取していたそうだ。
それを十数年前からぽよちゃんの属する---星がいちゃもんをつけてきて争いになり、一時は---星が××星から地球を守ると言う名目で地球を攻めそうになったのだそうだ。それを迎撃するために10年前から地球に"廃棄物利用型対---星迎撃兵器"を仕込んでいたらしい。
廃棄物利用型対---星迎撃兵器は、その名の通り地球の廃棄物を利用して---星の人間だけを攻撃するものらしい。

「え、でも、地球人を襲ってたけど・・・」
「それはあの男が接触した地球人に---星の匂いがついてしまったからでしょう。さっきの姿でナンパでもしてたんじゃないですかね。」

確かに最初の女の子はぽよちゃんと出会った時に一緒に謎の光に触れた。
それ以降も襲われるのは大体いつも可愛い若い女性だった。
昼間何しているか謎だったぽよちゃん。キリッとした男前だった先ほどの姿を思い出す。あれを利用して街中にナンパに繰り出していたと想像して違和感はない。

「兵器設置を任された時はこの会社の出張に合わせてある程度はテキトーに日本各地に撒いたんです。規則的じゃない方が効果的かと思いまして。
けど、不干渉協定ができて撤去することになって、撤去は設置と違って狙い撃ちしていかないといけないので会社は退職予定だったんですよ。
撤去は会社辞めてまで慎重にやる予定だったのに、めちゃくちゃにされて、困ったものです。」

望月の様子には若干ぽよちゃんへの怒りも滲んでいて、本当に困っていることが伝わってくる。

「じゃあ、望月は悪者じゃないってことだな。」
「悪者かどうかは立場によって変わるでしょうけど、少なくとも地球の人間の生活に悪影響を与える様なことは考えていませんよ。」

ぽよちゃんが戻って来たらそちらの言い分も聞かないと分からないが、望月の話からは偽りを言っている様な違和感はない。

「それで、その、オレの恋心がどうとかは・・・」

30歳も超えて恥ずかしい話だが、"恋"という単語を口に出すのに照れが入ってしまう。しかも、和彦が恋しているのは目の前な相手なのだから。
だが、聞いておかなければならないことだ。魔法少女になる時に外見だけでなく内面まで弄られていたなんて怖すぎする。

「---星の技術なのでわかっている範囲でしか言えませんが、」
と、前置きしてから望月は話し出した。

「地球上では恋愛感情とはPEAやドーパミンなどの脳内物質による錯覚ということになっている様なんですが、実は対象に向けて微弱な波動の様な力が出ているんです。よく目線が痛いとか言うでしょ?それを物理化して対象に攻撃力を持たせたのが魔法少女システムです。」
「えっとどういうこと?」
「簡単にいうと 小巻さんが俺に恋してるから・・・・・・・・・・・、俺の力で動いてる地雷型兵器への攻撃が通ったってことです。」

いろいろと理解できない話だが、和彦が望月を好きだという気持ちがバレているということは分かった。

それは、そうか、コマキとオレが同一人物だって望月は知ってたわけだもんな。
コマキの時に告白したんだから、オレが望月のことす、好きって知ってるわけで・・・

「魔法少女にされて、恋心を消費されているのにはすぐに気づきました。
もし、俺への恋心が使い切られていたら、俺の言葉も信じてもらえず、あの男の言うままになった小巻さんと戦う羽目になっていたでしょう。」

それは、どうだろう・・・?
望月のことを好きじゃなくなったとしても、あの偉そうなぽよちゃんに全幅の信頼を置くかというと微妙な気がする。
でも、ずっと好きだった望月への気持ちが全くなくなった自分の状態は想像がつかない。そう考えれば、あり得ることなのかもしれない。

「それで、魔法少女姿の小巻さんに接触したんです。ちょっとでも流出を止めるのに、魔法少女状態でもう一度恋に堕ちてもらう必要があったんです。うまくいって良かった。」

自分の恋心の動きを全て把握されている様でむずむずとした照れ臭さが全身を駆け巡る。和彦は恥ずかしくなって俯く。きっと顔は真っ赤になっているだろう。

「小巻さんの恋心が消費され切る前で本当によかった・・・」

そう呟く望月の語尾は掠れ気味で、本当に心配してくれて、本当に安堵してくれているのが分かる。
望月がそこまで心を砕いてくれたことが嬉しい。
気恥ずかしさと喜びとでふわふわしていた和彦の気持ちは、次の言葉で地面に叩きつけられた。

「一度恋心が枯渇したら、二度と恋できなくなるところだったんですよ。」

その言葉はつまり、望月への恋が終わった後の心配をしてくれているということだ。

・・・そうだよな。
なんか勝手に両思いのつもりになってたけど、望月はオレがぽよちゃんに利用されているのが可哀想で助けに来てくれただけだよな。

「そっか!おかげで望月がいなくなった後も次の恋ができるんだな。」

できるだけ明るく言った和彦だが、顔は下を向いたままだったのでどんな風に伝わったかは分からない。
望月の返事を聞くのは怖かった。「そうですね。俺も安心しました。いい恋をしてくださいね。」なんて言われたら、ショックで立ち直れない。
だが、和彦にとっては幸運なことに、望月が口を開く前に別の人間が言葉を発した。

「帰還したぽよ!」

ぽん!っと音がしたと思ったらぽよちゃんが何もない空間に現れた。

「ぽよちゃん!無事で良かった。」
「今回は僕の早とちりで迷惑をかけちゃったみたいぽよね!悪かったぽよ!」
「謝罪しててもなんか偉そうなんだよなぁ。」

ぽよちゃんの登場でそちらへ意識を向けた和彦は、望月がどんな顔をしているかには気付かなかった。


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