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8話

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大柄なオークの男が現れた。通常のオークも人間より一回り大きいが、このオークはさらに大きい。
2人を殺めた攻撃を放ったのはこのオークだ。
オークが現れるのと同時にディエゴは一階へと飛んで降りてきた。

「なるほど、魔法使いと僧侶の2人を逃して装備を渡したのはお前か。」
「ああ、あまりにあっさり騙されてくれて拍子抜けさ。」
「地下牢で精神をやられすぎてたんだろうな。」

2人の死体に目もくれずに言葉を交わし合うディエゴとオーク。
一見穏やかにさえ見えるそのやりとりだったが、オレに近い位置にいたオークがガッとオレの肩に手を置いた瞬間、

「お前は誰の許可を得てフリアンの肩に手ェ置いてんだ?」

ディエゴから闇魔法が飛び出す。
オークの持つ武器を吹き飛ばした。
オークは掴んだ肩をそのまま引き寄せ、オレの首を握る。

「それが噂に聞く闇魔法か。
次にそいつを発動させたら勇者の首をへし折るぞ。お前の強さの秘密はこの勇者なんだろう?」

ディエゴは無言でオークを睨む。

「お前が魔王の核さえ渡せば勇者は返してやろう。
魔王でなくなったお前には勇者の力によるブーストがなければ魔界で生きていけぬだろうよ。この半魔族めハッハッハッ」

高らかに笑うオークに対して、ディエゴは緊張感を見せぬ様子でこう言った。

「いいぜ。魔王の核だろ?くれてやるよそんなもん。
俺にはフリアンさえいればそれでいいんだからな。」

あまりに余裕を感じる態度にオークは動揺しているようだ。

「フッ、フンッ。
勇者の力のブーストがあれば魔王の核がなくてもなんとかなると思っているのだろうが、そううまくはいかないぞ。魔王の核の力は」
「御託はもういいから、早くフリアンを返せ。話はそれからだ。」

話を遮って要求するディエゴ。
オークはさらに興奮しているようだ。

「なっ!わかったぞ!勇者を取り戻して魔王の核は渡さないつもりだろう。」
「あーもう分かった分かった。これでいいだろ。」

埒が開かないと苛立った様子のディエゴは胸元に腕を突っ込む。するとそのままズブズブと腕が体内に入り込む。
そこから取り出したのは手に収まるサイズの黒い塊だった。
それを無造作に投げる素振りを見せる。

「これと交換だ。俺は俺以外の人間がフリアンに触ってることがもう不快で不快でたまらないんだよ。早く離せ。」

ディエゴが魔王の核を投げると同時に、受け取るためにオークはオレを解放した。
すかさずオレを抱き寄せるディエゴ。

「はあ、まったく。寝巻きでこんなところまで出てきて。風邪引くぞ。」

軽い調子でオレに注意するディエゴにはもはやオークのことは見えていないようだった。

「ディエゴ、いいのか、魔王の核を与えてしまって・・・。」
「別にいいさ、アレはお前を手に入れるための手段だからな。
あー、俺が魔王じゃなくなっても俺がお前を解放することはないぜ。残念だったな。」

ディエゴは意地悪く笑って見せる。
オレは混乱した。まるで魔王であることよりオレのほうが優先度が高いような言い方だ。
オレたちが会話をしている間にオークは魔王の核を取り込んだようだった。
オークの体はさらに大きくなり、周囲を黒い蒸気が覆う。

「これで俺が魔王だ!前任など邪魔なだけ。まずはお前を殺してやる!」

オークが振るった拳をディエゴはオレを抱きしめたままヒョイっとかわすが、風圧で頬が切れた。
しかし、オークのとてつもない力はディエゴに何の感慨も与えてないようで、のんびりした様子で呟く。

「俺はフリアンがいればそれでいいからさ。
魔王とかはやりたい奴がやってくれればいいんだけど。
・・・ただ、そんなに弱いとちょっと無理じゃねぇか?」

「グッギャアァア!!!」

苦しそうな呻き声に驚きオークの方を見ると、体がオークの形状をはみ出している。
見ている間にみるみる自壊していった。

「まったく、魔王の核に耐えられるだけの強さを手に入れてから言って欲しいよな。」

目の前に出来上がった肉塊をオレはただ見つめる。
色々なことが起こりすぎて感情が追いついてこない。
呆然としている俺に対して何を思ったのか、ディエゴは自分の頬を伝う血を指に取ったかと思うとその指で俺の唇をなぞる。
口紅を塗ったような俺の顔を見て笑う。

「ああ、お前のその虚無な表情もいいな。
アストラル国に帰れるって期待したか?
だが無理だ、諦めな。俺は絶対にお前を離さない。」

オレを狂おしさすら感じる熱い眼差しで見つめるディエゴ。
彼の瞳をまっすぐに見返す。
感情のキャパシティーを超えてしまったようで、色々なことを置いておいて自分が一番気になっていることが口から出てきた。

「ディエゴって、本当にオレのことが好きなの?」

それまで昏い雰囲気で唇を笑みの形に歪めていたディエゴの表情が変わる。呆れたように笑ってこう言った。

「まったくおぼっちゃま育ちはこれだから。これだけやってまだ俺の気持ちを信じてなかったのか。俺はお前のことが好きだと言っただろ。」

言葉の意味を噛み締めながら目を閉じた。
オレはたまたま勇者に生まれついてしまっただけで、本当は勇者に向いていないんだろう。
今日しみじみと実感した。もう勇者と名乗るのはやめよう。
目の前の敵だった肉塊も殺された仲間のことすらどうでもよくて、ただただ溢れ出る感情が頬を伝う。
魔王に愛されてると知って涙を流して喜ぶ勇者なんてどこにいるんだ。

「オレも、オレもディエゴが好き」

窓から見える魔界の空に朝日が差し込むのが見えた。
今日も晴れのようだ。晴れたところで魔界の空は澱んでいるだろう。
でも別に空が何色だって構わない。彼と一緒に見るのなら。


【魅了の呪い持ち勇者なオレのことを好きと言った最強の剣士が魔王になってオレを監禁するのだが、】
(オレは幸せなので放っておいてくれ)

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みんなの感想(2件)

KURO
2023.08.27 KURO

面白かったです!!
よければ是非続きを………

冨士原のもち
2023.08.27 冨士原のもち

読んでくださってありがとうございます!
続きを期待してくださって嬉しいです。
今は全く別のものを書いてるので落ち着いたら考えてみますね。

解除
うどん
2023.08.18 うどん

ええええええ2人とも😭

冨士原のもち
2023.08.18 冨士原のもち

読んでくださってありがとうございます。
2人はこんな感じになっちゃいました😭

解除

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