最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません

冨士原のもち

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第五話 強さ

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エンの修行は、身体強化などミチハのいうところの基礎的な訓練を週に三日四日ほど、実践訓練と称して週に一日任務に行く。
どんなはちゃめちゃな日々が始まるのだろうと覚悟していたので、割とまともな修行の日々にエンはホッとしていた。
そんなある日のことミチハはエンにこう告げた。

「エンはメンタルを鍛えた方が良いかもね」


【最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません~第五話 強さ~】


ミチハにそんなことを言われてエンはムッとした。

「俺、メンタル弱いって思ったことないけど?」
「エンの心が弱いとか打たれ弱いとかそういう意味じゃないよ」
「じゃあどう意味なんすか?」
「今までの任務や稽古は継続するよ。ただ、強くなりたいならメンタルコントロールは早めに覚えた方がいいってこと」

納得がいかずに黙っているエンに、ミチハは説明を続けた。

「具体的に言うと、まず手をつけるべきは集中力かなぁ」
「集中力?」
「エンは結構賢いよね。戦闘も考えながらやっているし、身体強化のコツも教えたらすぐできた。だけど、色々考えるせいで気が散りやすい」

言われてみれば思い当たる節がある。
地元にいた頃の喧嘩もパワーがつく前から負けたことはない。力で何とかできない時は状況をうまく利用して勝っていたので小賢しいとよく言われていた。
その頃の癖か、エンは魔獣を前にしても前情報などを思い出したり、後ろにいるミチハの様子が無意識に目に入ったり、目の前の敵に集中できていないかもしれない。

「一番効果が分かりやすいのは身体強化かな。戦闘中に集中力が切れたら身体強化が切れてとっても弱くなるでしょ?集中力を鍛えれば、身体強化の強度と持続時間は目に見えて伸びるよ」
「なんとなく、言いたいことは分かってきました」

メンタルを鍛えるとは、良いメンタルの状態を維持する方法を身に付けると言う意味なのだろう。
今まで考えたこともなかったが、説明されると確かに尤もな話だ。

「心の状態は結構戦闘に影響するよ。戦闘前に結婚するとか子供が産まれるとか言うと死亡フラグっていうじゃん?アレもある程度関係あるよ」
「死亡フラグ?」
「あー、死にやすいってこと。テンション上がってメンタルのバランスが崩れてるんだよ。だから普段しないようなことをして大怪我したり死んだりする」
「なるほど」
「自分の気持ちをコントロールするのも強さのうちだよ」

堂々としたミチハを見ると納得感がある。
ミチハの周りの目を気にしない、悪く言うと自分勝手な振る舞いは意思の強さを表している。
メンタルがしっかりしているが故に、ミチハは強いのだろう。

「それで、まずは集中力っていってたけど、鍛えるためにどうしたらいいんですか?」
「はいコレ」
「なにコレ?」

ミチハは荷物の中をガサゴソとあさって取り出してきたもの。出てきたそのものが意外すぎてエンは反射的に聞き返す。

「知らないの?算数ドリルだよ!」



それから、毎日一時間ほど算数ドリルで暗算をする訓練が追加された。
エンは賢いとは言われたものの、勉強は嫌いだ。
暗算など買い物がで困らない程度に出来ていればいいと思っているので、ドリルをやらされる毎日には正直に辟易としていた。だが、数日経つとさっそく修行の効果は現れた。
最初は一ページ終わる前に集中力が切れてきていたが、徐々に集中できる時間が長くなった。そして、それに比例して身体強化のクオリティは上がっている。

暗算ドリル中、ミチハは同じ部屋にいておやつを食べたり手慰みに魔法を出したり消したりしている。ただ、こちらの様子はしっかり見ているようで集中力が切れたタイミングを的確に見抜いて休憩を挟んでくれる。
そして、休憩中の雑談では案外タメになることを教えてくれる。
安全な宿の探し方、気をつけるべき詐欺の手口……
言動が奇天烈なので信用できなかったが、割と地に足をつけて生きているようだった。

「なんで討伐者は三人以上のパーティを組めないか知ってる?」

三ページやったところで休憩の声がかかったので正誤を丸付けしていると、今日もミチハのタメになるお話が始まった。

「国がそういうふうに決めてるって聞きましたけど」
「そうだね。じゃあ、なんで国はそんな決まり事を作ったんだと思う?」

エンはそんなことは考えたこともなかった。

「そもそも、魔獣って何のために倒さないといけないんだと思う?」
「一般人が襲われると危険だから?」
「もちろん増えすぎると危険だよ。だけど、たいていの魔獣は人間の住んでいるエリアにはやってこないでしょ」

言われてみれば確かにそうだとエンはミチハのいうことに納得する。そうすると、より一層何故なのか分からなかった。

「魔獣はね。この国の大切な資源なんだ」

疑問符を浮かべるエンにミチハは詳しく説明してくれた。

魔獣の牙やら骨やらはいい武器の材料になるでしょ?
魔獣はこの島国でしか発生しないって知ってる?
そう、意外と知られてないんだよね。
魔獣の死骸は海の向こうの国々で高く売れるんだ。討伐者は輸出物の生産者みたいなもんだね
討伐者は国にとって必要だ。
だから武器の携帯も特別に許可されているし、みんなが一人で戦って死なれまくっても輸出物が確保できない。
だからと言って、強くなりすぎても困るんだ。
徒党を組まれて国家転覆なんてものを狙われても大変でしょ?
討伐者たちが一致団結しないように、二人組以外は認めない。
そして、その二人組も継続しないように小細工しているってわけ。
ちなみに、魔獣役所の職員は国の手先だよ。
何かしらの集団ができそうな時には仲違いするように工作しているんだ。

「それじゃあ、アンタはかなり強いし、ずっと俺と組んでるから目をつけられてるんじゃないか?」
「あー、多分大丈夫」

知らない話が次々と入ってくる中で、ソレを教えてくれる人のことが当然気になった。
エンの問いかけに、ミチハはどことなく気まずそうな顔をして頭を掻いた。
凄腕の職人が作った人形のような外見をしているくせに、動作が悪ガキのようでいまだに慣れない。

「偉い人に会って、なんか大丈夫って言われたから」
「はあ……?」

ぼんやりしたミチハの回答に、エンは真顔のまま聞き返す。
なんか大丈夫と言われても、なんと言っていいか分からない。

「オレが国から見てやばいことしてたら教えてって偉い人には言ってるから、いきなり処罰されたりはしないよ」

言い終わった後に小さく「いざとなったら暴れ回るし」と付け加えたのに気付いたが見逃すことにした。
この人が暴れ回ったら被害はとんでもないことになるので避けてほしいところだが、国相手ではミチハも思い通りにはできないのだろう。
エンが何を言ったところで、ミチハが対処できないことをエンがどうにか出来るわけでもない。

「エンはこれからどんどん強くなるだろうから、国の人に目をつけられる可能性はあるよ。気を付けてね」

他人事のように聞いていたが、エンにも話が回ってきた。
そもそも既にミチハと行動を共にしている時点で、軽くは目をつけられているだろう。

気をつけると言ってもな
とりあえず早く強くなれるよう修行頑張ろう

その戦闘能力の高さゆえに色々な融通が効いているミチハを見ていれば、脅威に対する準備は「強くなること」という選択に自然となった。

「まあ、ある程度集中力もついてきたし、修行のレベルも上げますか!」

その後の特訓でやっぱり強くなるペースは普通で良いと思いなおすことになった。


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