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二人
邂逅2
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その知らせを受けたのは父の死後、相続のゴタゴタがあらかた片付いた時だった。
ひょっこりと出てきた書類は、爆弾が直撃したかと思うくらいの衝撃を与えた。
父には愛人がいたり浮気騒ぎもしょっちゅう起こしていたので、母は修羅場慣れはしていたと思う。
母も隠し子がいたのは何とか耐えられたと思う。
その子どもの母親が父の異母妹で、その名前が出てきたとたん流石に寝込んでしまった。
認知はなくとも遺伝子検査の結果まで添付されていて、間違いは無いようだった。
父の死後、家から父の私物は丹念に取り除かれた。
父に関するもので残されたのは有価証券や不動産と俺だけじゃないか。
発覚後の母のやつれた顔と復讐に燃えた目の異様な輝き。冷めていたように見えても、怒りのマグマを奥底に抱えていたようだった。
邦陽にたまらなく惹かれていたのは血が関係しているのかと思った。
初めて顔を見て懐かしく感じたし、邦陽の匂いに惹かれ肌の感触に夢中になった。肌の質感は二人とも似ていた気がする。
邦陽との行為に溺れていた当時の感覚が瞬間よみがえる。
甘い匂いにしっとりと吸い付く白い肌。
邦陽の残り香がふっと現れた気がした。
*
漁の基地への渡航条件として10日間の労働が提示されたが、その労働が思いのほかキツかった。
何がキツいかって、充満する魚臭さと際限なく襲ってくる荒波の揺れに。次々と波頭からでかい魚が現れるさまは映画さながらだ。
風景も切ない。
人工物のない半島は夕暮れは妙にもの哀しく、夜は雄大な漆黒の闇に恐れを抱く。
時折行われる夜の漁は、魚自体が微妙に発光して気持ちが悪い。
魚を覆うヌチン質のヌメリは粘着性が強く、身体に付くとしばらく臭いが取れない。
邦陽は何年もやってるみたいだが、報酬がよくても俺はいやだと思った。
邦陽には初日以外、近づいていなかった。
慣れない肉体労働でぐったりしていたし、過去のことは封印して馴れ馴れしくしない方がいいと思った。
それが邦陽に対する信義なのか、思いやりなのか、自分自身の逃げなのか分からない。
二人の間にいろいろあったのは事実で、それは関係を知らなかったから起こったことだ。
知っていたら、いくらなんでもセーブしていたんじゃないかと、思いたい。
そして邦陽が一切を捨てて俺から逃げ出したのは事実で、それは尊重すべきだと思った。
大浴場で邦陽を見掛けることがあった。
ほどよく焼けて筋肉のついた身体。
以前よりたくましくなって大人の男になっていた。
それでも吸い付くような肌の感触は変わらないだろうし、抱かれる時の反応も変わってないんじゃないか。
また反対に青年の色香の漂うあの身体で抱きすくめられたらどんな感じなのか。
ついつい想像してしまい、腰にタオルを巻き付けたまま洗い場で待機を余儀なくされた。
隣から何かの蓋が転がってきたので拾って渡した。隣の男にお礼を言われた。
「見かけない顔だな。いつ来たんだ? 」
「一昨日」
話す度ににやにやしながら全身を舐めるように見てくる。頭の中で全身舐められまくったな。
「色白いな。俺は白いのが好きだな」
「……どうも」
気持ちわるい。
熱も冷めたしさっさと切り上げよう、そう思っていたら邦陽が隣のスペースの椅子に座ってきた。
「一緒に部屋に行くから、待ってて」
そう言って隣で髪を洗い始めた。
反対側の男は邦陽と俺を交互に見て、俺に対する関心を急激に失ったようだった。
部屋に戻る最中、邦陽が振り返っていう。
「さっきの奴、若い男好きのヤバイやつ。食べ物とかタオルに精液かけられるぞ」
「うげ」
頭の中でフルコースされたなとは思っていたが、そんな低レベルの実害があるとは。
「ここはあんたみたいなのが来る所じゃないんだ。自分がどんな目で見られてるのか意識しろ」
意識してみると何となくじろじろ見られている気がした。新参者を見る目に混じり、ぶしつけな好色丸出しのような視線も混じっている。
「おまえは?」
「俺は大丈夫。慣れてるから」
部屋の前で別れたが、以前よりもしっかり周囲を観察していて離れていた歳月の分の成長を実感した。
「風呂行くけど行く? 」
あれから、ぶっきらぼうに誘う邦陽について一緒に風呂に行くようになった。
自分より背の高くなった邦陽のうしろを歩く。
用件以外会話もない。
それでも居心地は悪くなく気遣われている気がした。
俺が存在しないかのように容赦なく服を脱ぎ、隣の席で淡々と身体を洗う。
あまりの淡白さに俺たちの間に性的な関係があっただなんて誰も思わないだろう。
邦陽と一緒にいることで専属扱いされているのか、周囲から投げられる気持ち悪いピンクの視線は減った気がする。
「明後日の休漁日、ちょっと空けといて」
部屋に戻る間際に邦陽に声を掛けられた。
漁のシーズン中の休みは、天候が悪いときやメンテナンスが入る時などに限られた。
明後日は予定外の船のメンテナンスが入ると聞いていた。
慣れない肉体労働に疲れ果てていた俺には、どんな名目でも休みはありがたかった。
その休みに邦陽に呼びだされる理由が思い浮かばない。一体何なのだろう。
ひょっこりと出てきた書類は、爆弾が直撃したかと思うくらいの衝撃を与えた。
父には愛人がいたり浮気騒ぎもしょっちゅう起こしていたので、母は修羅場慣れはしていたと思う。
母も隠し子がいたのは何とか耐えられたと思う。
その子どもの母親が父の異母妹で、その名前が出てきたとたん流石に寝込んでしまった。
認知はなくとも遺伝子検査の結果まで添付されていて、間違いは無いようだった。
父の死後、家から父の私物は丹念に取り除かれた。
父に関するもので残されたのは有価証券や不動産と俺だけじゃないか。
発覚後の母のやつれた顔と復讐に燃えた目の異様な輝き。冷めていたように見えても、怒りのマグマを奥底に抱えていたようだった。
邦陽にたまらなく惹かれていたのは血が関係しているのかと思った。
初めて顔を見て懐かしく感じたし、邦陽の匂いに惹かれ肌の感触に夢中になった。肌の質感は二人とも似ていた気がする。
邦陽との行為に溺れていた当時の感覚が瞬間よみがえる。
甘い匂いにしっとりと吸い付く白い肌。
邦陽の残り香がふっと現れた気がした。
*
漁の基地への渡航条件として10日間の労働が提示されたが、その労働が思いのほかキツかった。
何がキツいかって、充満する魚臭さと際限なく襲ってくる荒波の揺れに。次々と波頭からでかい魚が現れるさまは映画さながらだ。
風景も切ない。
人工物のない半島は夕暮れは妙にもの哀しく、夜は雄大な漆黒の闇に恐れを抱く。
時折行われる夜の漁は、魚自体が微妙に発光して気持ちが悪い。
魚を覆うヌチン質のヌメリは粘着性が強く、身体に付くとしばらく臭いが取れない。
邦陽は何年もやってるみたいだが、報酬がよくても俺はいやだと思った。
邦陽には初日以外、近づいていなかった。
慣れない肉体労働でぐったりしていたし、過去のことは封印して馴れ馴れしくしない方がいいと思った。
それが邦陽に対する信義なのか、思いやりなのか、自分自身の逃げなのか分からない。
二人の間にいろいろあったのは事実で、それは関係を知らなかったから起こったことだ。
知っていたら、いくらなんでもセーブしていたんじゃないかと、思いたい。
そして邦陽が一切を捨てて俺から逃げ出したのは事実で、それは尊重すべきだと思った。
大浴場で邦陽を見掛けることがあった。
ほどよく焼けて筋肉のついた身体。
以前よりたくましくなって大人の男になっていた。
それでも吸い付くような肌の感触は変わらないだろうし、抱かれる時の反応も変わってないんじゃないか。
また反対に青年の色香の漂うあの身体で抱きすくめられたらどんな感じなのか。
ついつい想像してしまい、腰にタオルを巻き付けたまま洗い場で待機を余儀なくされた。
隣から何かの蓋が転がってきたので拾って渡した。隣の男にお礼を言われた。
「見かけない顔だな。いつ来たんだ? 」
「一昨日」
話す度ににやにやしながら全身を舐めるように見てくる。頭の中で全身舐められまくったな。
「色白いな。俺は白いのが好きだな」
「……どうも」
気持ちわるい。
熱も冷めたしさっさと切り上げよう、そう思っていたら邦陽が隣のスペースの椅子に座ってきた。
「一緒に部屋に行くから、待ってて」
そう言って隣で髪を洗い始めた。
反対側の男は邦陽と俺を交互に見て、俺に対する関心を急激に失ったようだった。
部屋に戻る最中、邦陽が振り返っていう。
「さっきの奴、若い男好きのヤバイやつ。食べ物とかタオルに精液かけられるぞ」
「うげ」
頭の中でフルコースされたなとは思っていたが、そんな低レベルの実害があるとは。
「ここはあんたみたいなのが来る所じゃないんだ。自分がどんな目で見られてるのか意識しろ」
意識してみると何となくじろじろ見られている気がした。新参者を見る目に混じり、ぶしつけな好色丸出しのような視線も混じっている。
「おまえは?」
「俺は大丈夫。慣れてるから」
部屋の前で別れたが、以前よりもしっかり周囲を観察していて離れていた歳月の分の成長を実感した。
「風呂行くけど行く? 」
あれから、ぶっきらぼうに誘う邦陽について一緒に風呂に行くようになった。
自分より背の高くなった邦陽のうしろを歩く。
用件以外会話もない。
それでも居心地は悪くなく気遣われている気がした。
俺が存在しないかのように容赦なく服を脱ぎ、隣の席で淡々と身体を洗う。
あまりの淡白さに俺たちの間に性的な関係があっただなんて誰も思わないだろう。
邦陽と一緒にいることで専属扱いされているのか、周囲から投げられる気持ち悪いピンクの視線は減った気がする。
「明後日の休漁日、ちょっと空けといて」
部屋に戻る間際に邦陽に声を掛けられた。
漁のシーズン中の休みは、天候が悪いときやメンテナンスが入る時などに限られた。
明後日は予定外の船のメンテナンスが入ると聞いていた。
慣れない肉体労働に疲れ果てていた俺には、どんな名目でも休みはありがたかった。
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