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3 至って至生
至って至生8
しおりを挟むついにヒートが来た。少しふわふわする感じと鼓動が速まる感じ。普段感じない悪寒が少しだけする。これはヒートで体温があがっているから。抑制剤を飲んでいるから症状としてはこんなもん。
前回のヒートは自慰をしてみようとうきうき浮わついていた。すごく楽しみで、あれは実際、愉しかったんだ。
今は抑制剤を飲んでいるから、落ち着いている。自分的に全然苦しくはないし、普通にしていれば加害されることはないだろう。
昼休みに追加分を飲まなくてはならないが、あの上級生と一緒にいたら飲むことを邪魔されてしまうだろう。もし、夕方にでも抑制剤が切れたら。匂いで見つかり何かされてしまいそうだ。
昨日は触られただけで済んだ。予鈴のメロディが聞こえ、相手が聖人じゃないと気づいたとたん、俺自身が絶対値を習った時のように瞬間冷却された。素晴らしい冷めっぷり。授業中に催してしまった時にでも使おうと思ったほど。
予鈴がなったと言い捨て俺は逃げ出した。予鈴様々だった。
今日は念のため持っていく抑制剤を増やした。学ランの裏ポッケ、カバンの内ポケット、そしてズボンの尻ポケット。抑制剤を小分けにして持ち歩く。
よし、今日さえ乗り越えれば月曜日休みの三連休だ。でも、またあの先輩に何かされちゃうんだろうな。
俺には先輩に何かされても仕方ないような気がしていた。もっと抵抗すれば良いのに、実際、弱々しい抵抗しかしていなかった。
俺自身、何となく投げやりになっていた。原因は自分でも分かっていた。あの聖人のシールだ。定期考査に対してもらえるご褒美シール。
どう頑張っても、英語、幾何、代数でたった3枚。しかも1学期に中間、期末と最大6枚。
俺、勉強を頑張って取ったよ、中間で3枚。でも次は期末まで期間が空いているんだ。
頑張って全部集まったとしても、来年度以降だ。俺そんなに……頑張れないよ。
俺、聖人に相応しくないんじゃないかな。馬鹿だし、根性ないし。
あの先輩は俺のこと可愛いとか、好みとか言ってくる。
実際やってることは緩やかな脅しで、強引で不快だけど、そのうちやったら愛着がわくのかもしれない。あんなに強く俺を求めてくるのだから。
それにヒートになって催したらきっと誰でもよくなっちゃうんだ。
こんな風に妥協してカップルって出来てるんだろうなと思った。
最初、信じていた運命の番という概念も、今では都市伝説のような気がしていた。子供にだけ見える妖精みたいみたいなもので、きっと信じる人には見えるんだ。
薬をしまうのに時間がかかっていたら、送ってくれる聖人にせかされてしまった。ヒートの時は念のため車での送迎をお願いしている。
「最近、何か浮かない顔をされてますね」
「ヒートだからね」
運転中の聖人に言われた。やっぱり浮かない顔をしていたのか。俺は自分の中の投げやりを心の奧にしまった。そして、今朝ぼんやりと考えていたことを聞いてみた。
「聖人は運命の番の話、信じてる?」
しばらく黙った後、聖人は答えた。
「俺は信じていません。運命なんて後付けの言い訳です。運命の番は自分でこの人だと胸を張れる人を選べばいいんです」
聖人がこんな風に考えていたと、初めて知った気がする。
「それに愛情は、運命だからといって簡単に湧いてくるものではありません。愛情は自力で手に入れるものです」
ちょうど学校に近い路地についた。学校前には生徒が多数いるため、普段から少し離れた処で下ろしてもらっていた。
「じゃあ、ここで下りるわ、ありがとうな、聖人」
「帰りは終わり頃、校門近くで待ってますよ」
「わかった。ありがとう」
後部座席のドアを閉め、俺は校門に向かって走り出した。
聖人は運命なんて信じていないって言っていた。愛情は自力で勝ち取るものだって。
俺と聖人はやっぱり運命の番じゃないんだろうな。二人とも信じていなかったし。
でも、俺は勉強以外で聖人の愛情を勝ち取る努力をしていたのだろうか。校門に吸い込まれる生徒たちを見ながら自問していた。
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