君は所詮彩り

balsamico

文字の大きさ
上 下
8 / 33
2 聖人

北郷家 2

しおりを挟む

役所と中学校に行って転校の手続きが済んだところで、暁生さんから呼び出しを受けた。


暁生さんに連れられて入った洋室に少し大きくなった至生がいた。
姉の葬式以来だから、かなり会うのは久しぶりだ。


見知らぬ北郷の家で至生の存在はとても心強かった。


また年下の子どもに慕われるというのは悪い気はしなかった。
なんとなく自尊心が満たされるし、彼らの手本になるため自分を律する心が働くからだ。

「至生、聖人くんだぞ。これから一緒に暮らすからよろしくな」

至生は取り組んでいるワームの組み立てから目を離さない。


暁生さんは困ったような顔をして俺をみる。

「麻耶さんが亡くなってからあんな感じなんだ。頼む、仲良くしてやってほしい」

仕事があるからと暁生さんは自室に戻っていく。
しばらく様子をみていると組み立てが終わったのか至生は俺の前にきた。

「父さんが言っていた人だ……」

俺を値踏みするように周りを一周しながら、じろじろみてくる。


これまでの至生は俺にこんな対応しなかった。
すぐに駆け寄ってきて抱きついていたのに。

「お前、何なの? 」

「何って……」

こんなことを言われると思わなかった。けんか腰の至生。


俺は至生の母の弟で、叔父。至生に好かれていたお兄さんだったのだけど。
そんな思いが喉元まで上がってきていた。


そんなことを言ったら馬鹿にされそうな雰囲気が今の至生にあった。
子どもなのに妙に強い目力にたじろぐと、至生はにやりとした。





後で思うとあの時の対面はマウンティングだった。優越的立場の誇示。子どもにされるとは。


ちょうど手頃な人材だったのか、暁生さんに至生の世話を頼まれた。
年が近いので兄のような立場で見守って欲しいとのこと。


みなしごで引き取ってもらっている立場の俺には、断る選択肢はなかった。


至生の世話をしていた秋田さんという初老の男性と一緒に至生の面倒をみることになった。


強気な反面、妙に子供じみた振る舞い。


かと思えば突然無表情になり固まる。
突然活動が停止し、空白化するブラックアウトみたいな現象。


苦痛が高まると自己防衛で意識がなくなるみたいだった。記憶も曖昧になる。


母親の事故の後遺症らしい。
通院も嫌がり、カウンセリングも行かない。


俺に対して行った強気な威圧的行動は学校でも行っているらしく、クラスでは目の敵にされているようだった。
きれいな顔でキツくて幼稚。


ただでさえ本人の忘れ物も多いのに、しまいには物を隠され、いろんな物が行方不明になっていた。



ある日、学校からぐったりと呆けた状態で帰ってきた。
その日の帰りは妙に遅く、着衣がところどころ乱れていた。


いじめでも受けていたのかと、けがの具合でもみようと服を脱がせてみると
背中や腰回りにぬるつく感触がある。


手につく液体の匂いを嗅ぐと嗅ぎ慣れた体液の臭いだ。
急いで全部脱がせて確認した。


尻などには裂傷や摩擦などはなく、掛けられただけのようだった。
服を脱がされ精液を掛けられている、そんな状況はかなり危険だ。


本人に問いただしても記憶はあいまいで要領をえない。
警察や学校に通報をし、今後警戒をするようにした。


秋田さんや家の人に手伝ってもらい、手分けして送迎をした。
至生自体が送迎を巻いてしまうこともあって手を焼かされていた。





至生との慌ただしい生活の中で、北郷の家のあれこれに耳をすます。
いろいろなことが見えたり聞こえてくる。


北郷の裏家業とか、暁生さんの愛人のこととか。

暁生さんには長年の愛人がいる。
話を聞いてから、探してみるとすぐにわかった。
暁生さんと常に一緒にいるあの人だ。
存在感の塊のような暁生さんの横にいるあの人。
気配がなさ過ぎて意識する前は気がつかなかった。


その関係は姉が嫁ぐ前からで、二人は夫婦同然だったらしい。


それを耳にしたとき俺はいたたまれなかった。
姉は、彼女の人生はなんだんだったんだろうと。
αの子どもを産むだけの人生だったのかと。


貧しいうちの家庭に生まれたからなのか、Ωだったからなのか。
両方だったからか。


北郷の家に住んでまもない俺でさえ知れる事実。


姉はもしかしたらうっすら知っていたのかもしれない。
夫に愛する者がいることを。
自分が跡継ぎを産むためだけに求められたことを。
実家が貧しくて戻ってこれなかったのかもしれない。


姉を想う。


握る拳に水滴が落ちる。
腹の中が熱くてどうにかなりそうだった。

「聖人」

至生の声がする。
この時間は歯磨きの確認だ。

「至生さん」

ノックもせず容赦なく部屋に入ってくる姉の忘れ形見。

「聖人、ちゃんと磨けたから見て」

小作りな鼻や口が姉に似ている。強い目は暁生さん似だ。

「あれ、聖人泣いてた?目が赤い」

姉の代わりに至生を守ろうと思った。世間から、北郷から。
母や姉達の分まで幸せにしようと思った。

「よし、よし、泣くなよー」

至生は歯ブラシを持ったまま頭をなでてくる。


俺はそんななだめが効く年齢じゃないのに。思わず笑ってしまう。


普段、反抗的で挑発的な至生が優しかった。
今の俺にはそれで十分だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

蜘蛛の巣

猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω) 世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。 混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。 やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。 伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは? ※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

処理中です...