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8 上京4 新しい生活2
しおりを挟む学食で芝君とご飯を食べて中庭を移動しているときにこっそり聞かれた。
「大山ってゲイ?」
ぶっと吹き出しそうになった。パックジュースを飲んでいたから。前にもこれと似たような状況があったな。
大村達にホモ疑惑をかけられ、酷い目に遭わされた俺はやたらに答えられない。警戒心バリバリで返答する。
「芝君は?」
「俺、そっち」
答えを聞いて少し安心する。加害のネタにされることは無さそうだ。
僕自身、ゲイかどうかはわからない。あの事件以前の中学時代には女の子に淡い感情を抱いていたからだ。
今は奏さんがいて他の異性も同性も考えられない。
「正直言って、自分がゲイかどうかはよくわからないけど、彼氏はいる」
「やっぱり。そんな感じがしたんだ」
芝くんにそう思った理由を聞いてみると、女子に強い関心を持っていない、首すじにキスマークがあった、他はなんとなくらしいが、キスマーク、キスマーク…。
キスマークはマーキングみたいなもので、男性が独占欲や征服欲から付けることが多いんだそうだ。
奏さんにしばらく研究室に籠もるとか言われて、念入りにやられた時に首を吸われた。あの時のあれだ。帰ってきたら仕返しをしようと思った。
芝くんとはそれを機に親しくなって、服の買い物やカットのアドバイスなどをもらうようになった。自分の状況を隠さないで済むのは気楽だった。芝くんも同じなんだろうな。
仕返しをしようと待ち構えていたら、お籠もりから帰ってきた奏さんに研究室の飲み会に連れ出された。どうやら必要なデータがまとまったので、お疲れさま会名目の飲み会らしい。部外者の俺が行っていいのだろうか。
研究室のメンバーは、うちの大学とは違って偏差値は高いけれど、むさそうな男子ばかりだった。ここには女子は居ないのか。見渡してみるが残念ながら女子はいなかった。
奏さんと一緒にきた俺をみて、研究室の面々は興味津々に見てくる。
「俺の彼氏。俺から告白したからな」
奏さんがさらっと俺を紹介するので、周りはおおぅとか言って結構どよっていた。
「セクハラしたら殴るから」
奏さんの宣言にどっちが下?というセクハラ質問は未然に防がれた。
飲み会には数人の学部生に院生、研究生に、助手、助教、そして教授の構成で大人数。
意外と上下関係はフランクで和気あいあいとしていて楽しそうだった。何だか大きな家族といるみたいだった。
研究室には年次を越えていろんな人達がいるんだと思いながら教授にもご挨拶してドキドキした。
「なんで連れて行ったの?」
「付き合ってるって言ったら連れてきなよって先生に言われたんだよね。紹介するならいい機会だと思ってね」
お籠もりの中、俺の話になったのか。
「彼奴らいいヤツらでしょ。俺あそこ大好きなの。だから克弥にも知ってもらいたかった」
奏さんはあまり実験で寝れなかったようで、寝不足からか、かなり酒がまわり酔っぱらっていた。
タクシーから降り、よろよろする奏さんを肩に引っ掛けて、引きずるように部屋に辿り着いた。奏さんの鞄からマンションの鍵を取り出し、ドアを開けると電気がついていた。玄関には見知らぬ靴があった。
奏さんの靴を脱がせてソファに寝かせた。毛布を持ってきて被せていると後ろから懐かしい声がした。
「大山!」
眼鏡を掛けた牧田だった。髪が伸びて優等生っぽさが抜けてる。牧田!
「なんでここにいるんだ?兄貴寝てる?」
「奏さんと飲みに行ってたんだ。寝不足だったみたいで、寝ちゃったから送ってきたんだ」
俺は食い入るように牧田の足を見る。牧田の顔は見たくてもやましくて見れない。
「俺、明日早いから帰る。奏さんをよろしく」
「あっ、大山」
牧田に呼び止められそうになったのを無視して、マンションを飛び出してきた。
牧田は牧田だった。余り変わっていなくてほっとした。
以前、牧田に対する想いみたいなのが何なのかわからなかった。
今ならわかる。あれは恋だ。
恋だと自覚する前に無くなってしまった俺の恋。
牧田の声を聞いて思い出した。
高校の時の感情を。大学入学直後の牧田への気持ちを。
今も思い出すと切なくなる。さっき牧田の顔を見れて嬉しかった。もっと見たかったし、言葉を交わせて嬉しかった。
研究室の飲み会の奏さんの笑顔を思い出した。奏さんも好きだった。
牧田の顔が見れなかったのは、奏さんに対する罪悪感と牧田にばれたくなかったからだ。
奏さんと睦みあってる俺を、牧田に知られたくなかった。牧田には以前の俺だと思って欲しかった。そして、優しい奏さんにもそばにいて欲しかった。
俺はズルい。都合の良いことばかり考えて。俺は自己嫌悪を抱えて自室の隅にへたりこんだ。
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