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地球最後の日

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 綺麗な星空だった。
 文明の光の届かない、山の頂上で、二人はそれを見ていた。

「もう、見れなくなっちゃうね」

 寂しそうに女の子が言う。
 高い標高を感じさせない柔らかな風が、そっと黒髪を撫で、後ろに立つ男の子のもとへ言葉を届ける。

「寂しいのかい?」

「うん。……でもしょうがないのは分かってる。
 もう決まっちゃったことだから」

 しばらく、静かな時間が流れた。
 とても穏やかで、心地よい空虚感に浸れる。
 そんな時間。

 ほんの少しだけ月が動いた頃、また女の子が口を開いた。

「今、地球上のすべての人間が、同じ星空を見てる」

「そうだね」

「皆、何を思ってるんだろう」

「きっと、神様に祈ってるよ」

 女の子は、そっか、とだけ言って、立ち上がった。
 そろそろ時間だ。

 男の子が女の子を優しく抱き寄せるのと同時、暗い夜空に、赤の色が見えた。
 それは幾つも飛来する、隕石だった。
 尾を引く巨大な石の弾丸が、地球へと急接近しているのだ。

 遠く、並々ならぬ轟音が聞こえる。
 空が啼いている。
 あと三十秒もしない内に、地球は滅ぶだろう。

「始まったね」

「うん。――じゃあ、行こうか」

 男の子が虚空を手で払うと、真っ白な扉が姿を現した。
 それは最初から開かれていて、奥からまばゆい光がおしげもなく溢れていた。
 人間が見たら、神話の世界の扉と言っただろう。

 男の子はついに空を埋め尽くした隕石の群れを見て、表情を曇らせた。

「さよなら地球。新入社員で上手に管理できなかったのは申し訳ないと思ってる。
 全て僕の責任だ。
 だからせめて、考える間もなく滅べるよう、上に掛け合っておいたから」

「……次は、どんなところ?」

「良いとこだよ。面倒な人付き合いもないし、汚れた空気もない」

 男の子と女の子が、扉の奥に消える。
 扉もまた、閉じて跡形もなく消える。

 後に残るのは、反響する、二人の最後の会話だけ。

「次の管理星は上手くいくといいわね、あなた」

「そうだね。次は神さまなんてやり方は、やめておくよ」

 こうして地球は滅んだ。
 どうして滅んだのか、そこに住む者達が知ることはなかった。

 宇宙管理業界の下請け業者が、経営難で管理惑星の数を減らしたのだと説明しても。
 人類が納得するわけないからだ。
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