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深夜

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腹の上で何かがブルブルと震えている。
痒いようなくすぐったいような不快感に目を見て覚まして震えの正体を探るとそれはスマホだった。そこでやっと思い出したのだ。

異様に目の硬いクリスを寝かしつけるより先に落ちてしまう自信があった。だから深夜の2時に目覚ましを掛けてパジャマのポケットに入れておいたのだ。
案の定ベッドの隣は空で、キッチンの方にパソコンと思える仄かな灯りが見える。

衣摺れの音に細心の注意を払い、そっと起き出して見に行くと信じられないくらい高速でタイピングをしているクリスがいた。

「やっぱり……毎日こんな事をしているんだね」

切れる程集中していたのだろう、隣に立っても気付いていなかったクリスはギクっと肩を揺らして困った顔で笑った。

「蓮は寝ていなさい」
「せっかく子守唄まで歌ったのに?」
「うん、凄く綺麗だった、録音したかったけどあれは僕だけのものだからね」
「無理ばっかりしてる」
「疲れは取れたよ、蓮にはわからないだろうけどあの歌でたっぷりと充電出来たよ、ゲームのバフそのままだった」
「ゲームはやった事ないから知らないけど……」

頭がいいだけでは無く強い意志を持つからこそクリスは優秀なのだ。
どんなに強く説得してもやらなければならない事がある限りクリスは寝たりしないと思えた。

効くかどうかはわからないが、最終兵器を使ってみた。

「クリスが隣にいないと眠れない………かも」
「蓮は眠れるよ、いつも秒で落ちるでしょう」

「…………うん」

パソコンに目を落としたまま手を止めようともせずにサラリとかわす。

「クリスが寝ないなら俺は帰るけど?」

早足で歩けば15分くらいで帰れるのだ。
半分は本気で半分は脅しだ。
手が止まった事から考えても一案目よりは効いたらしいが「駄目」と笑うだけでまたタイピングを再開する。
最終手段はパソコンとクリスの間にのっしりと割り込んでねっとりと濃厚なキスをお見舞いしてみた。

一見するとこれは成功したように思えたが、クリスを寝かしつけるという本来の目的からは大きく外れてしまった。
キスをするとクリスの手はジッとしていないのだ。本人に何故かを問いただした事もあるのだが、自分でも不本意なくらい無自覚らしい。
背中を撫で回す手は微塵な躊躇も無くスルリと落ちて指先が谷間を割ってくる。
そこで腰を浮かせてしまう馬鹿さ加減も手伝い、クリスの膝に跨ったままでヒクヒクと踊り回る結果となった。

こんな行為にいつの間にか慣れているのは不思議だが、続きはベッドがいいと強請ってみればいそいそとパソコンを畳んだのだからよしとした。

次の日の朝に、せめて学祭が終わるまではストーキングを控えるように約束させたのは言うまでも無いだろう。
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