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隠せてなけど隠してきた劣情、顔を出す
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数年前からだ。「行け」と命じる自分を無理矢理に抑えてきた。
多少……かなりの非常手段に出た事は認めるが、話せるようになって嬉しかった。
だが、その反面は苦しかった。
蓮には生理的な欲求を抑えられないところがある。眠くなるとどんな場面でも寝てしまう。
無防備に眠る頬に手を掛けては、張り付いた皮膚を引きちぎる思いで、何度我慢をした事か。
隠していたつもりの深い劣情は2度ほど表に出て来てしまったがそれでも何とか思い止まった。
しかし、黒江が蓮に寄せた目を見てしまった。
それはもしかしたら恋愛感情では無いのかもしれないが、明らかに自分のものだと言いたげだった。
何も気付いていないのか、もしくは何も考えていないのか、蓮は黒江の視線を綺麗に無視して隣にやって来た。
「もう我慢なんかしなくていいよね?」
「我慢……してないでしょう」
ムッと口を尖らせた蓮は怯えていると言うより挑戦的だ。もしも経験済みなら殺してしまうかもしれない。もしも未経験なら嫌われてしまうかもしれない。
それでも踏み出さずにはおれなかった。
「半分だけでもいいから……しない?」
逃がすつもりも無いのに「してもいいか?」と聞いたのは自己保身なのだと思うと何だか笑えた。
「何を笑ってるんですか、やりたいなら……1人でどうぞ、俺は帰ります」
「帰れると思ってる?」
今の自分がどれだけ汚いかはわかっている。
しかし、恋愛など所詮はそれぞれが持つ欲のぶつけ合いなのだ。
一欠片の余裕もなく、目も眩むような焦燥感をひたすら隠して来たが、今は見せてやりたいと思ってしまっている。
「帰る」と言って起きあがろうとする肩を抑えた。細く頼りない肩だ、体重をかけるでもなく腕に力など入れなくても簡単だった。
「逃がさないよ♪」
少し茶化して言ったつもりだったが本気なのだと伝わったのだろう。
強がりを見せ呆れていた顔に怯えのような表情が浮かんだ、そんな蓮を見て僅かだが怯んだ事にホッとしている自分がある。
「蓮は……僕が何をしたいか、どこまでしようとしているかちゃんとわかっているんだね」
「どう答えれば正解なんですか?」
「………経験……あるんだ?」
必死に押し隠してたにもかかわらず耳元に口を落として囁いたのは聞いてはいけない事だった。
顔を赤くして否定する蓮を期待していた側面もある。しかし、ふいっと顔を逸らして唇を結んだ蓮は全てを肯定していた。
「黒江だな?」
「…………あまり……」
「うん…」
「あまり……覚えて無いんです、俺はもう無茶苦茶で…熱くて………」
「一回だけ?」
コクンと喉が動いた。そして「違う」と囁いた声に音は無く、吐息よりも小さかった。
そこで蓮が示した性に対する超反応や怯えがどこから来るのかわかってしまった。
恥ずかしい事だと思っているのだ。
「欲しい」と思う自分を蔑んでいる。
蓮はまだ成人したばかりの20歳だ。つまり灯りが漏れ出るドアの隙間から覗き見たあの頃は15、6だった事になる。
蓮の内向的な性格を考えると恐らくだが女性にすら具体的な性的衝動を持っていなかっただろう、同性の交わりはおろか、性的嗜好など考えた事もなかった筈だ。
その為に性欲そのものを恥じているのだと思えた。
「蓮……こっちを向いて」
胸が破裂しそうな激情は凪いでいた。
だから待つなんてなんでもない。
無理矢理な事はせずにもう一度「こっちを向いて」と囁くと、視線は外したままそろそろと顔を戻した。
「僕を見て」
「………でも……」
「誰も怒ってないよ、僕も怒ってない、蓮を責める人はどこにもいない、変でも何でもないんだ、だからぼくを見て」
チロリと動いた瞳が迷うように、勇気を試すように動き回る。
そして漸く決意を固めたような視線が戻って来た。
「僕が見える?」
その問いに対する返事は微かな頷きと大きな瞬きだけだった。
どこにも目を逸らせたりしない、蓮が見る相手は1人だけでいい、汚い本音を言えば友達なんて作って欲しく無い。
そっと落とした唇には自らが恐れ慄く程の独占欲が入り混じっているが、所詮は哀れな程に深く陥った恋が生む独りよがりの妄想なのだ。そんな事にはならないし、させない。
「キスを…してもいい?」
待つつもりも無い狡い問いに激しい瞬きの返事だ。
一方的では無い初めてのキスは驚く程拙い。
頑なに閉じた唇を割って入った暖かい口内ではお伺いを立てている状態だった。
ここまででやめてしまえれば格好も付くのに……残念な手と体と頭がなけなしの理性を無視して勝手に動く。
パジャマの中に差し入れた手は本当に無意識だった。
脇腹に浮いた肋骨を撫で上げ胸を覆う。
小さな粒を親指で抑えると身構えるように肩が上がった。
キスはやめない。
奥に逃げようとする舌を吸い取り誰しもが弱い上顎を擽る。そして毛羽立った羽毛を収めるように脇腹を撫で回し、謂れのない罪悪感に埋もれた性感を掘り起こしていった。
「…………ん…う…」
その微かな声は詰めていた息を解き放った合図だった。唇から離れて蓮の目を見た時に自分でも驚く程ドキンと心臓が跳ねた。
それは歌っている時に見せた顔だ。
恐れも恥ももう無い。
性感に酔いしれ、蕩けるように紅潮していた。
蓮が隠し持つ独特の感性に入り込むと別人のようになる事に改めて驚きを覚えた。
「これじゃあ……」
黒江だってそれなりの社会的地位を持つ大人だ。年端もゆかない蓮が幾ら興奮していたとしても抱くつもりなんか無かった筈だ。
しかし、宥めて宥めてこの顔に吸い込まれてしまった。
「………クリス?」
「委ねて……くれて嬉しいよ」
瞼にキスをすると喉元を吸ってくる。
もう無理だった。
ゆっくりと落とした手をウエストのゴムから滑り込ませた。下腹の筋を辿り少しだけ象を結んだそれに触れてみた。
「あ……あの……」
「ん?ちょっとだけ正気に戻っちゃった?」
「正気って?…あの……」
「恥ずかしく無い、僕のだって見てたでしょう、恥ずかしく無い、大丈夫だから」
追い詰めるまではゆっくりでいい。
恐らくはもどかしく思う手付きで責め立てて行く。あっという間に象を結んだそれは物欲しそうに涎を垂らして濡れていた。
「クリス……」
震える手で頬を覆われた。
火照った顔で懇願するような声を上げた蓮は涙目になっている。
実は男性との経験など無いのだ。
男の性器を口に含むという行為はセックスでは常套なのだから蓮がやってくれるのならチョコを塗りつけてでも試してみたいと思っていたが、自分がやるなんて出来るのかと思っていた。
しかし、いざとなれば何でもない。
「もっと欲しいよね?」
潤んだ目で浮かされたように頷く蓮の色っぽい顔は筆舌では伝わらない。
足の付け根まで体をずらせて口に含むと細い肢体がビクリと揺れた。
持ち上がった足が強い刺激を与えるたびにビクビクと震える。
深い谷間の奥深い淵は撫でていただけだったが自分でも気が付かない間に埋めていた。
「は………あ……」
苦しむような息遣いが聞こえる。
激しく上下する腹は正に追い詰められた獣だった。
「これでいいのか」と聞いた。
「痛くはないのか」と聞いた。
しかし、心の内に深く入り込んだ蓮には届いてないようだった。
口でするのをやめて蓮の顔に鼻を付けた。
「蓮…僕を見て」
手は休めてない。
おざなりな知識しかない中で体の中に進めた指は当て所もなく彷徨っているが間違ってはいないようだった。
眉の間に寄る皺とクンと上がる顎が全てを教えてくれる。
「僕を見て」
そう言い続けた。
そして迎えた収束の頃には、目の焦点が合い「嫌だ」とか「恥ずかしい」と顔を赤くする蓮を見つける事が出来た。
本当なら我慢なんかしないところだ。
蓮は明らかに欲しかっていたし、欲しくもあった。
しかし、今は本当の蓮を……恐らく黒江は知らない素のままの蓮を取り戻す事が先決だった。
それでも………それでもだ。
放り出したままダランと落ちた腕。
紅潮した頬。
薄く汗が滲んだ額。
惚けたようにポカリと開いた唇。
涙で濡れたまつ毛。
全てが初めて見る蓮だった。
今まで持っていた好きとは別の好きしか浮かんでこない。よく我慢していると自分を褒めていた。
「蓮は……色んな顔を持っているんだね」
「変な……奴だってよく言われたんだ」
ぼんやりと天井を見つめたままポツンと浮いた言葉はまるで独り言のようだ。
「いじめられちゃったりしてた?」
「…………中学くらいまでは…ちょっとあったけど、もう何も無い」
「それはね、きっと男女それぞれが異性を意識するような時期に入ったからじゃ無いかな?」
「嫌われていたんだと思う」
「近寄りがたかっただと思うよ」
「変な奴だから?」
「それはどうだろうね」
学校での蓮がどんな風だったかは目に見えるようだった。
第二次性徴期に差し掛かるある頃を境にいじめたり避けていた相手には触れてはいけない雰囲気がある事に気付いたのだろう。
ときめく女子は数多にいたと思える。
同性の男達は汗臭く泥臭い自分達に混ぜてはいけないような気になっていたと分かる。
「ところでさ、蓮はどのくらいの頻度で抜いてる?」
「は?」
カァーッと顔を赤くしたのはいつもの蓮だ。
そんな事で満足してしまう。
「男同士なんだよ?ここまでしてるんだからそんなに驚かなくてもいいだろ」
「なんでそんな事を聞くんですか」
「だってびっくりするくらい濃いから…」
「何がです!」と飛び上がって起きた蓮に殴られた。頬に手の型が付くくらいのビンタだ。
「痛いな、事実しか言ってないだろ」
「そんな報告はいらないです」
「ケチ!蓮の好きなローストビーフは僕が全部食べてやるからね」
その代わりにまだ出してないメインのフィレステーキを食べさせるつもりなのだが、もう一つ喫緊の用事を済ますために立ち上がった。
「それはいいけど…クリス?どこ行くの?」
「そんなもん抜いて来るに決まってるだろ」
何を?と聞かれたから胸を張り腰を突き出して「ここを!」と強調した。
「見せないでよ!」
「今更?!僕は絵に描けるくらい蓮のを見たよ」
「…………全部……やればいいのに」
悔しそうに横に向き、落とした声は探りでも何でもない。妙な達成感が湧き出てくる。
「蓮が欲しいと言うまで我慢する事にした。」
「欲しい」
「嘘つけ」
「………嘘だけど……」
「次は蓮もしてね」
太い棒を掴むように手を丸め、舐める振りをするとテッシュの箱が飛んできた。
次に掴んだ物がフォークだったから笑いながら風呂場に逃げた。
蓮の「馬鹿」という元気な声を背負っての事だった。
多少……かなりの非常手段に出た事は認めるが、話せるようになって嬉しかった。
だが、その反面は苦しかった。
蓮には生理的な欲求を抑えられないところがある。眠くなるとどんな場面でも寝てしまう。
無防備に眠る頬に手を掛けては、張り付いた皮膚を引きちぎる思いで、何度我慢をした事か。
隠していたつもりの深い劣情は2度ほど表に出て来てしまったがそれでも何とか思い止まった。
しかし、黒江が蓮に寄せた目を見てしまった。
それはもしかしたら恋愛感情では無いのかもしれないが、明らかに自分のものだと言いたげだった。
何も気付いていないのか、もしくは何も考えていないのか、蓮は黒江の視線を綺麗に無視して隣にやって来た。
「もう我慢なんかしなくていいよね?」
「我慢……してないでしょう」
ムッと口を尖らせた蓮は怯えていると言うより挑戦的だ。もしも経験済みなら殺してしまうかもしれない。もしも未経験なら嫌われてしまうかもしれない。
それでも踏み出さずにはおれなかった。
「半分だけでもいいから……しない?」
逃がすつもりも無いのに「してもいいか?」と聞いたのは自己保身なのだと思うと何だか笑えた。
「何を笑ってるんですか、やりたいなら……1人でどうぞ、俺は帰ります」
「帰れると思ってる?」
今の自分がどれだけ汚いかはわかっている。
しかし、恋愛など所詮はそれぞれが持つ欲のぶつけ合いなのだ。
一欠片の余裕もなく、目も眩むような焦燥感をひたすら隠して来たが、今は見せてやりたいと思ってしまっている。
「帰る」と言って起きあがろうとする肩を抑えた。細く頼りない肩だ、体重をかけるでもなく腕に力など入れなくても簡単だった。
「逃がさないよ♪」
少し茶化して言ったつもりだったが本気なのだと伝わったのだろう。
強がりを見せ呆れていた顔に怯えのような表情が浮かんだ、そんな蓮を見て僅かだが怯んだ事にホッとしている自分がある。
「蓮は……僕が何をしたいか、どこまでしようとしているかちゃんとわかっているんだね」
「どう答えれば正解なんですか?」
「………経験……あるんだ?」
必死に押し隠してたにもかかわらず耳元に口を落として囁いたのは聞いてはいけない事だった。
顔を赤くして否定する蓮を期待していた側面もある。しかし、ふいっと顔を逸らして唇を結んだ蓮は全てを肯定していた。
「黒江だな?」
「…………あまり……」
「うん…」
「あまり……覚えて無いんです、俺はもう無茶苦茶で…熱くて………」
「一回だけ?」
コクンと喉が動いた。そして「違う」と囁いた声に音は無く、吐息よりも小さかった。
そこで蓮が示した性に対する超反応や怯えがどこから来るのかわかってしまった。
恥ずかしい事だと思っているのだ。
「欲しい」と思う自分を蔑んでいる。
蓮はまだ成人したばかりの20歳だ。つまり灯りが漏れ出るドアの隙間から覗き見たあの頃は15、6だった事になる。
蓮の内向的な性格を考えると恐らくだが女性にすら具体的な性的衝動を持っていなかっただろう、同性の交わりはおろか、性的嗜好など考えた事もなかった筈だ。
その為に性欲そのものを恥じているのだと思えた。
「蓮……こっちを向いて」
胸が破裂しそうな激情は凪いでいた。
だから待つなんてなんでもない。
無理矢理な事はせずにもう一度「こっちを向いて」と囁くと、視線は外したままそろそろと顔を戻した。
「僕を見て」
「………でも……」
「誰も怒ってないよ、僕も怒ってない、蓮を責める人はどこにもいない、変でも何でもないんだ、だからぼくを見て」
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「僕が見える?」
その問いに対する返事は微かな頷きと大きな瞬きだけだった。
どこにも目を逸らせたりしない、蓮が見る相手は1人だけでいい、汚い本音を言えば友達なんて作って欲しく無い。
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「キスを…してもいい?」
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一方的では無い初めてのキスは驚く程拙い。
頑なに閉じた唇を割って入った暖かい口内ではお伺いを立てている状態だった。
ここまででやめてしまえれば格好も付くのに……残念な手と体と頭がなけなしの理性を無視して勝手に動く。
パジャマの中に差し入れた手は本当に無意識だった。
脇腹に浮いた肋骨を撫で上げ胸を覆う。
小さな粒を親指で抑えると身構えるように肩が上がった。
キスはやめない。
奥に逃げようとする舌を吸い取り誰しもが弱い上顎を擽る。そして毛羽立った羽毛を収めるように脇腹を撫で回し、謂れのない罪悪感に埋もれた性感を掘り起こしていった。
「…………ん…う…」
その微かな声は詰めていた息を解き放った合図だった。唇から離れて蓮の目を見た時に自分でも驚く程ドキンと心臓が跳ねた。
それは歌っている時に見せた顔だ。
恐れも恥ももう無い。
性感に酔いしれ、蕩けるように紅潮していた。
蓮が隠し持つ独特の感性に入り込むと別人のようになる事に改めて驚きを覚えた。
「これじゃあ……」
黒江だってそれなりの社会的地位を持つ大人だ。年端もゆかない蓮が幾ら興奮していたとしても抱くつもりなんか無かった筈だ。
しかし、宥めて宥めてこの顔に吸い込まれてしまった。
「………クリス?」
「委ねて……くれて嬉しいよ」
瞼にキスをすると喉元を吸ってくる。
もう無理だった。
ゆっくりと落とした手をウエストのゴムから滑り込ませた。下腹の筋を辿り少しだけ象を結んだそれに触れてみた。
「あ……あの……」
「ん?ちょっとだけ正気に戻っちゃった?」
「正気って?…あの……」
「恥ずかしく無い、僕のだって見てたでしょう、恥ずかしく無い、大丈夫だから」
追い詰めるまではゆっくりでいい。
恐らくはもどかしく思う手付きで責め立てて行く。あっという間に象を結んだそれは物欲しそうに涎を垂らして濡れていた。
「クリス……」
震える手で頬を覆われた。
火照った顔で懇願するような声を上げた蓮は涙目になっている。
実は男性との経験など無いのだ。
男の性器を口に含むという行為はセックスでは常套なのだから蓮がやってくれるのならチョコを塗りつけてでも試してみたいと思っていたが、自分がやるなんて出来るのかと思っていた。
しかし、いざとなれば何でもない。
「もっと欲しいよね?」
潤んだ目で浮かされたように頷く蓮の色っぽい顔は筆舌では伝わらない。
足の付け根まで体をずらせて口に含むと細い肢体がビクリと揺れた。
持ち上がった足が強い刺激を与えるたびにビクビクと震える。
深い谷間の奥深い淵は撫でていただけだったが自分でも気が付かない間に埋めていた。
「は………あ……」
苦しむような息遣いが聞こえる。
激しく上下する腹は正に追い詰められた獣だった。
「これでいいのか」と聞いた。
「痛くはないのか」と聞いた。
しかし、心の内に深く入り込んだ蓮には届いてないようだった。
口でするのをやめて蓮の顔に鼻を付けた。
「蓮…僕を見て」
手は休めてない。
おざなりな知識しかない中で体の中に進めた指は当て所もなく彷徨っているが間違ってはいないようだった。
眉の間に寄る皺とクンと上がる顎が全てを教えてくれる。
「僕を見て」
そう言い続けた。
そして迎えた収束の頃には、目の焦点が合い「嫌だ」とか「恥ずかしい」と顔を赤くする蓮を見つける事が出来た。
本当なら我慢なんかしないところだ。
蓮は明らかに欲しかっていたし、欲しくもあった。
しかし、今は本当の蓮を……恐らく黒江は知らない素のままの蓮を取り戻す事が先決だった。
それでも………それでもだ。
放り出したままダランと落ちた腕。
紅潮した頬。
薄く汗が滲んだ額。
惚けたようにポカリと開いた唇。
涙で濡れたまつ毛。
全てが初めて見る蓮だった。
今まで持っていた好きとは別の好きしか浮かんでこない。よく我慢していると自分を褒めていた。
「蓮は……色んな顔を持っているんだね」
「変な……奴だってよく言われたんだ」
ぼんやりと天井を見つめたままポツンと浮いた言葉はまるで独り言のようだ。
「いじめられちゃったりしてた?」
「…………中学くらいまでは…ちょっとあったけど、もう何も無い」
「それはね、きっと男女それぞれが異性を意識するような時期に入ったからじゃ無いかな?」
「嫌われていたんだと思う」
「近寄りがたかっただと思うよ」
「変な奴だから?」
「それはどうだろうね」
学校での蓮がどんな風だったかは目に見えるようだった。
第二次性徴期に差し掛かるある頃を境にいじめたり避けていた相手には触れてはいけない雰囲気がある事に気付いたのだろう。
ときめく女子は数多にいたと思える。
同性の男達は汗臭く泥臭い自分達に混ぜてはいけないような気になっていたと分かる。
「ところでさ、蓮はどのくらいの頻度で抜いてる?」
「は?」
カァーッと顔を赤くしたのはいつもの蓮だ。
そんな事で満足してしまう。
「男同士なんだよ?ここまでしてるんだからそんなに驚かなくてもいいだろ」
「なんでそんな事を聞くんですか」
「だってびっくりするくらい濃いから…」
「何がです!」と飛び上がって起きた蓮に殴られた。頬に手の型が付くくらいのビンタだ。
「痛いな、事実しか言ってないだろ」
「そんな報告はいらないです」
「ケチ!蓮の好きなローストビーフは僕が全部食べてやるからね」
その代わりにまだ出してないメインのフィレステーキを食べさせるつもりなのだが、もう一つ喫緊の用事を済ますために立ち上がった。
「それはいいけど…クリス?どこ行くの?」
「そんなもん抜いて来るに決まってるだろ」
何を?と聞かれたから胸を張り腰を突き出して「ここを!」と強調した。
「見せないでよ!」
「今更?!僕は絵に描けるくらい蓮のを見たよ」
「…………全部……やればいいのに」
悔しそうに横に向き、落とした声は探りでも何でもない。妙な達成感が湧き出てくる。
「蓮が欲しいと言うまで我慢する事にした。」
「欲しい」
「嘘つけ」
「………嘘だけど……」
「次は蓮もしてね」
太い棒を掴むように手を丸め、舐める振りをするとテッシュの箱が飛んできた。
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